昨年から何かと話題にのぼる人物が渋沢栄一である。実は北さんも、この春から新しい小説として発表し始めるという。その渋沢栄一に込める思いを聞いてみた。

「第1回:~作家となったきっかけは、故郷と人とのつながり~」はこちら>
「第2回:~人間は強く、そして弱い。同行二人で生きる~」はこちら>
「第3回:~多くの持てる力を未来の起業家育成に注ぐ~」はこちら>

ずっと書きたかった渋沢栄一

――今、取り組まれている最新作のお話もぜひお願いします。


この春から電気新聞において、渋沢栄一を題材にした新小説がスタートします。私はずっとこの人を書きたいと思っていました。なぜなら、日本の政治は三流かもしれないけれど、経済は一流。この国は誰が支えているのかというと、ほとんどが企業人。ビジネスパーソンが支えているのです。にもかかわらず、これまでビジネス界から紙幣の肖像になる人が出てこないということに不満を感じていました。

そして、最初に肖像になるなら安田善次郎じゃなく、絶対に渋沢栄一だと思っていた。明治の近代資本主義の父が、「算盤と算盤」だと言わなかった。「論語と算盤」だと言ったことが、いかに日本にとって幸せなことだったのか。そのあたりもしっかり伝えていきたいですね。

――「論語と算盤」は、確かに企業にとって重い言葉ですね。


企業は世の中のためになることをやっていなかったら、絶対サステナブルな存在になりえない。利益だって出るものではない。本業を一生懸命やっていますというのが一番の社会貢献であり、それがCSRにもつながるのです。

いいものを作って、喜んでもらって収益が上がって、その収益で雇用を確保して給料を払う。給料を払うことによって従業員は家庭を持つ。子どもを育てる。その子どもがまた社会の構成員になって戻ってくるという、社会のインキュベーター(保育器)としての役割を企業が担っていくことが、社会的サステナビリティ(持続可能性)のための最も重要なファンクションになります。

人は企業に勤めることで自分の能力レベルが上げられる。同時に人間としても成長できる。親として子どもを育てること、それは社会全体で次世代を守り育てることにつながるわけです。

先人の足跡が簿外資産になる

――その企業がどれだけしっかりやってきたか、過去を振り返ることも重要なのでしょうね。


日立を例にとるなら、黒四ダムを造った時、水力発電機は当時ドイツ製が良かったわけですよ。しかし太田垣士郎は3台のうち1台を日立に任せた。チャンスを与えねば、日本の技術は上がらないと考えたからです。そして、日立は見事に期待に応えました。発注する側も要請を受けた側も、思いをひとつにして国産レベル向上に汗水流した結果です。

企業には歴史があります。どうして日立の製品がここに入っているのか。それは必ず先人が何か足跡を残しているからなのです。国内外で発電機を開発できたのは、この人のこんなドラマがあったということを読者に伝え、簿外資産にすることの大切さ。それがガバナンスにもなるし、次世代の糧にもなって、自然とサステナビリティが形成されていくと思います。

画像: 先人の足跡が簿外資産になる

若い女性に頑張ってもらいたい

――近い将来、こんな分野について書いてみたいという構想はありますか。


まだ書いていないのは科学者です。ただ、私は文系と理系のクロスロードにしたいと思っていて、私が小学校の時に『科学と学習』の付録にワクワクしたような喜びを伝えたい。ファラデーの法則じゃないですけど、文系理系の枠を超えて、誰もが興味をもって楽しめるテーマを発表できたらと思います。若いビジネスパーソンに手にしてもらえる一冊にしたいです。幅広い世代を巻き込むということでは、マンガの原作も構想中です。

あと、たとえば日本人初のオリンピックメダリストの人見絹枝さんの資料は相当集めています。女性で初めて医師になった荻野吟子さんも興味の対象です。女性の活躍できるフィールドは昔と違い、あらゆるジャンルに広がってきています。女性を応援する気持ちもあります。これまでに唯一女性を主人公に書いた『安奈淳物語 私は歌う、命ある限り』(PHP研究所)の俳優の安奈淳さんのように、ガラスの天井を破れるような女性の生きざまを書いてみたい。そんな小説のモデルになる女性に早くお目にかかりたいですね。

――これまでの著書には政治家が多く登場しますが、今後も取り上げていくのでしょうか。


政治家はやっぱり書いていきたい。というのは今、小学校で「学級委員なりたい人」と言うと手が上がらないわけです。今の子たちは、ルールを守るとかトップになるとか、率いていくとかの面倒くさいことはやりたがらない。個人レベルで自由気ままにやりたいという人が増えています。若者たちの心が離れようとしている政治と役人の世界は、とてもやりがいがある仕事であるし、立派な人も多く世に出ていることを書き残したい。やはり国を引っ張っていく強い優秀なリーダーが国には必要です。このままだと2世議員ばかりになってしまいます。令和の時代には、真の意味で国を引っ張っていけるリーダーの登場に期待したい。

画像: 若い女性に頑張ってもらいたい
画像: 得意なことを生かして、社会が必要とする一隅を照らし、少しでも次世代の役に立ちたい。
【第4回】~「論語と算盤」を説いた渋沢栄一に学ぶ~

北 康利(きた・やすとし)

1960年、愛知県名古屋市出身。作家。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行、富士証券を経て、2008年、みずほ証券退職後、本格的な執筆活動に入る。現在は作家活動と併行して、起業家の育成に力を傾けている。著書には『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』(講談社)、『吉田茂の見た夢 独立心なくして国家なし』(扶桑社)、『銀行王 安田善次郎 陰徳を積む』(新潮社)、『胆斗の人 太田垣士郎 黒四で龍になった男』(文藝春秋)、『思い邪なし 京セラ創業者 稲盛和夫』(毎日新聞出版)ほか多数。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

This article is a sponsored article by
''.