先人の偉業を綿密に調べて、後世に伝えてきた北さんにとって、これからの日本を背負う若者はどう映り、その将来像をどのように考えているのだろうか。

「第1回:~作家となったきっかけは、故郷と人とのつながり~」はこちら>
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アントレプレナーを増やしたい

――これまでの作品は明治、大正、昭和の時代が舞台になっていますが、平成、令和の時代から北さんのお眼鏡にとまる人材は現れると思われますか。


きっと、これから山のように出てきますよ。後生畏るべしとはよく言ったもので、日本人は維新の時に、吉田松陰、橋本左内、井伊直弼など、あれだけの人間が出てきて多くの血を流した。これだけの人材がどこにいたのかというくらい、次々と登場してくる。国家存亡の危機の時や時代の大きな転換期には、傑出した人材を多く生み出してきています。

これは働きアリの法則と同じ。2割くらいは必死に働き、2割はプー太郎で何も仕事しない、残る6割は普通。その状態から必死に働く2割を排除すると、なぜか全体が復元され、また同じ2:2:6になる。つまりヒュドラの首じゃないけど、切っても切っても生えてくるでしょう。

――その手ごたえの具体的な例があればご紹介ください。


たとえばアントレプレナー、いわゆる起業家ですよ。私は今、ひふみ投信の藤野英人社長(レオス・キャピタルワークス)と交流があって、彼のところに今、週に一度は東大生が来ている。あと5年もしたら、東大出て官僚になるか、一流企業の職を得るというお決まりの図式は崩れ、起業する人は相当数増えているでしょう。それが結構な割合で成功するのではないかとみています。

――最近、北さんが早稲田大学で何か新たな試みを始めているとお聞きしていますが、どのような内容なのでしょうか。


早稲田で一番の特長は、批判精神と在野精神です。

ジャーナリズムの世界に多くの人材を輩出してきましたが、在野精神をもっと発揮していただきたい。

そして、寄らば大樹の陰に甘んじるのではなく、「私はアントレプレナーでいく!」という人材が多く出るべきなのです。そこを刺激すべく、今春から先述の藤野英人社長に政経学部で起業家向け講座を持ってもらうことになりました。早稲田大学法学部のご卒業でもある藤野社長は、若き起業家のメンターだけに大変楽しみです。

画像: アントレプレナーを増やしたい

北康利が注目する若手起業家たち

――起業家の育成に力を注がれている理由と、注目している人や会社があれば教えてください。


この国は人口減少の時代を迎えています。一人あたり兆単位のビッグビジネスをやろうと思ったら、昔は理系しかないと思っていました。でも、理系で世界標準が作れないのであれば、理系文系の垣根を越えた起業家を育てるところに力を入れるべきと思い始めたのです。今は作家としてもっている人脈・体力の7割くらいは起業家育成に注いでいます。

たとえば、バリアフリーを推進している垣内俊哉君のMIRAIRO(ミライロ)。隙間時間のマッチングを進めている小川嶺君のTimee(タイミー)などが応援している会社のひとつです。彼らのような若い感性を応援したいから、我々がもっているネットワークや人脈でマッチングしてあげるわけです。自分の持っている人脈で、そういうお手伝いができることがとても楽しいのです。

――北さんご自身が社外取締役に名を連ねている会社もありますね。

ウェルビーの社外取締役(兼、監査役)ですね。ここは障害者の就活支援をしています。統合失調症などの障害があっても、安心して働き続けられる職場を紹介し、一人でも多くの人が自己実現できる場を広げていきたい。社会全体が人手不足に直面している今こそ、この現状を足元から改善したい一心からです。

自分は作家でありながら、ビジネスの世界に身を置くことで、リアルの世界ともつながることができます。現実と向き合うことで、次の作品を書く時に「この世の中を良くするためには何が必要なのか」を自分なりに考えて、本の着想を得ることもあります。

――さまざまな人脈の中で若い経営者とも触れ合っていらっしゃることもわかりました。そんな北さんが今、これから何かに挑戦したいと考えているビジネスパーソンに伝えたいことはありますか。

ひと言で言うなら、「人生も企業経営だと思って生きていけ」、「何でも突き詰めろ」ですね。企業は経営理念を土台にして、ある程度の資金とノウハウがないとやっていけません。そして信頼のおける仲間と計画を立案し、実行に移す。そのことによって成り立っています。

人もこうやって生きていくんだというプリンシプルは必要不可欠です。人生の美学なり自分の生き方をしっかり見定めたうえで、人と交わり新しい縁をつないで前に進んでいく。そこは企業経営と同じです。生きていく中で物事を突き詰めて考える、行動することは若さの特権でもある。失敗してもいいから、突き詰めて研究や仕事に没頭することをやってみたらと言いたい。

「思い邪なし」で伝えたかったこと

――私たちは毎日の仕事に、どのような心構えで向き合えばよいのでしょうか。


私の直近の本は『思い邪なし 京セラ創業者 稲盛和夫』(毎日新聞出版)ですが、なぜ書いたかというと政府が推進する働き方改革はちょっと違わないかと思ったわけです。プレミアムフライデーを取り入れた中小企業はどれだけあったと思いますか。なおかつ若い社員は、夕方5時に帰れれば自分は仕事ができると思い、社内では交わす言葉も少なく、自由な発想を尊重するあまり、規範やルールは二の次。そんな考えで自分の仕事に愛着を持てるようになりますか。それは何かおかしくないですかと感じざるを得ません。

必死になって打ち込める仕事にありつけたなら、これほど幸せな人生はないと思います。私は365日、本を書いています。それは楽しいからです。隙間時間には読書したり情報収集したり、もちろん社会的な活動もやっていますが、暇な時に何をやっていますかと聞かれたら、「本を書いている」なのです。将棋棋士の羽生善治さんにも同じ質問をしたら、「将棋を打っている」と言われました(笑)。同じ答えなのです。

神は細部に宿るじゃないけど、徹底的に何かを突き詰めた人間にしか見えてこない風景があるのです。サッカーにたとえるなら最後シュートで締めるところまでとことん行ってみる。ある事を1年、2年やっていましたではなくて、「自分はこれを極めた」という絶対的なものがあれば、生きていくうえで、さまざまな応用が利くようになります。

もうひとつ、人間は忍耐力と継続する力がないと絶対に向上しない。要するにずっと続けているから高みに行けるのであって、忍耐力がなかったら積み重ねにならない。そういう意味で稲盛さんの生き方を通して、「突き詰めて働くことによって、また違った人生が見えて来る」ということを私は発信したかったのです。

画像: 「思い邪なし」で伝えたかったこと
画像: 得意なことを生かして、社会が必要とする一隅を照らし、少しでも次世代の役に立ちたい。
【第3回】~多くの持てる力を未来の起業家育成に注ぐ~

北 康利(きた・やすとし)

1960年、愛知県名古屋市出身。作家。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行、富士証券を経て、2008年、みずほ証券退職後、本格的な執筆活動に入る。現在は作家活動と併行して、起業家の育成に力を傾けている。著書には『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』(講談社)、『吉田茂の見た夢 独立心なくして国家なし』(扶桑社)、『銀行王 安田善次郎 陰徳を積む』(新潮社)、『胆斗の人 太田垣士郎 黒四で龍になった男』(文藝春秋)、『思い邪なし 京セラ創業者 稲盛和夫』(毎日新聞出版)ほか多数。

「第4回:~『論語と算盤』を説いた渋沢栄一に学ぶ~」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

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