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なぜ塩尻は全国に先駆けて課題をオープンにできたか
――MICHIKARAにも関連することですが、塩尻市はなぜ全国に先駆けて地域課題をオープンにできたのでしょうか。
山田
2つ理由があります。
いま、自治体の税収が減ってきている一方で、住民が抱えている悩みが多様化しています。ところが行政改革によって、市の職員は年々減りつつあります。この状況で、たくさんある地域課題を行政単独で解決していくということにそもそも無理があるのではないか。それよりも、市にはない知恵や情報を持っている企業と一緒になって課題解決に取り組もうじゃないか。それを9年間かけてやっていこう、と市の総合計画のなかでうたったのが1つめの理由です。
もう1つの理由は、塩尻の困りごとをオープンにするというよりは、われわれが力を入れている取り組みを企業の皆さんに知っていただくという文脈のほうが、伝わりやすいということです。MICHIKARAでは、そういう観点で課題テーマを選びました。
ただ、MICHIKARAにはよくほかの自治体が視察にいらっしゃるのですが、なかなか真似してくれないんですよ。
――何がネックなのでしょうか。
山田
自治体って、「ここまでやったけど、できませんでした」って言えないんですよ。税金で仕事をしているから、それは言いづらい。
ではなぜ塩尻市ではそれができるかというと、わたしたちは9年間の総合計画のなかでKPIを設定して、しかもそのKPIを3年ごとに仮説検証しているんです。わたしが上司から言われたのは、「ちょっと頑張ればできちゃうKPIにはするな」と。「仮にKPIを達成できなくても個人の評価や査定には影響しない。それよりも、“塩尻はこうありたい”っていうKPIを立てて、それをめざして事業を進めた、でも達成できなかったっていう事実が必要なんだ。そして、なぜ達成できなかったのか検証して次の計画に反映するのが大事なんだ」と。それを聞いて、超カッコイイなと思いました。
要するに、われわれの総合計画のつくり方からして、結果的にKPIが達成されなかったとしても、個人の評価や査定に影響しないことが担保されていることが大きいですね。先ほどの「なぜMICHIKARAを真似してくれる自治体がないのか」という問いの答えとしては、つまるところ、ほとんどの自治体が外部に策定を委託している総合計画を、塩尻市は自分たちでつくっているからなんです。
塩尻で起きているムーブメントに名前を
――山田さんが考える「地方創生」について聞かせてください。近年、地方都市の個性が失われているという声を聞きます。どこの市に行っても郊外に大型ショッピングモールがあり、幹線道路沿いには全国チェーンの店舗が並んでいる、そんなイメージがあります。ヨーロッパにあるような、小規模でも活力のある個性的な都市を、どうやったら日本でもつくれるのでしょうか。
山田
まず、都市の活力を表す新しい指標ができたらいいなと思います。具体的に言うと、「関係人口」。例えば、東京に住民票があっても塩尻に関わってくれるような人が増えてほしい。通信インフラが整っていればパソコン1台でどこでも仕事ができる人にとって、「どこで働くか」の選択肢の1つに塩尻が加わるといいですね。しかも、関係人口が自治体の政策のKPIになると、観光客数や消費額といった指標のように自治体同士による人口の奪い合いが起きないんです。
そして、塩尻市が選択肢の1つになるためには、「われわれはこうありたいんだ」という思いや取り組みを記録して、だれもが見られる状態にしておく必要があります。わたしがやっている「nanoda」のように。
以前、「山田さんってオープンソースですね」と言われてすごく嬉しかったんですよ。「nanoda」にしても「MICHIKARA」にしても、ほかの自治体にどんどん真似してほしい。だって、それで日本が良くなるんだから。
塩尻市民であり市の職員であるわたしが「いまできること」をちょっと声に出すと、その声に人が集まってきて、「nanoda」なり「MICHIKARA」なりの取り組みになる。この集合体から生まれる価値に、名前を付けたいですね。例えば「シェアリングエコノミー」みたいに名前が付くと、そこからさらに広がっていくじゃないですか。それができたら本当の地方創生ですね、塩尻発の。
地方公務員だからできること
山田
地方創生……奥が深いですね。質問されたら、毎回違う言葉が出てきそうです。
インタビューされるとよく「地域活性化」っていうワードが出てくるんですけど、わたしはよく因数分解するんですね。地域って具体的にどのエリアで、何人なのか。活性ってどういうことなのか。曖昧な言葉のまま語られると、駄目だと思うんです。国が設けているルールの中で、われわれが本当にやりたいことをきちんと翻訳できる職員が必要で。その点、塩尻市には優秀な職員がたくさんいると思います。でないと、こんな「スナバ」なんて施設つくれないですよ。
でも、それができるのが自治体であり、地方公務員なんですよね。マネタイズとか、減価償却とか考えなくていい、そして一度やりきってみて、住民に問い続けながら、よい事業であればずっと続けることができる。そして、60歳までクビにならない。
――まだ先の話ですが、公務員のあとは何をなさるか考えたことはありますか。
山田
大学の先生になって、地方自治を研究したいです。プレイヤーとして取り組んできたことを学問に落とし込みたい。チームづくりとか人材育成とか、自治体×企業、自治体×自治体のまちづくりとか。
どうして大学の先生かと言うと、理由は単純に“pay-it-forward”(受けた恩を、直接その人に返すのではなく別の人に与えること)で、尊敬する明治大学の牛山久仁彦先生の背中を追いかけたいからです。わたしは30歳くらいまでわりと普通の公務員だったんですけど、松本広域連合への出向時代に職員研修で牛山先生に出会って変わりました。
すごく元気が出るお話をしてくれるんですよ。「日本の公務員は優秀だ。全国平均で人口100人あたり3人しかいないのに、相当な量の仕事をこなしている」「2000年の地方分権一括法で、国と県と市町村は横並びの関係になった。あなたたちのような自治体の職員が意識を変えなきゃいけない!」――公務員試験だとそういうこと問われないんですけど、そのときに牛山先生の話を聞けたからこそ、いま公務員としてのやりがいを感じながら仕事をしています。
牛山先生はわたしの14歳年上なんですよ。わたしが60歳になったときには退官されている。牛山先生を継いで先生になって、当時30歳の悶々とした公務員だったわたしに先生が元気をくださったように、行政に関心がある若い人たちに元気を与えられたらいいなと。「公務員も、どんどん行動していいんだぞ!」っていうね。そういう存在になるために、60歳までずっと挑戦し続ける公務員でありたいですね。
山田崇(やまだたかし)
1975年、長野県塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業。1998年、塩尻市役所に入庁。現在、塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当)。空き家プロジェクトnanoda代表、内閣府地域活性化伝道師。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。同年、TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」に登壇し、話題になった。自身が手掛ける「MICHIKARA 地方創生協働リーダーシッププログラム」がグッドデザイン賞2016を受賞。2019年、『日本一おかしな公務員』(日本経済新聞出版社)を上梓。信州大学 キャリア教育・サポートセンター 特任講師(教育・産学官地域連携)を務め、ローカルイノベーター養成コース特別講師/地域ブランド実践ゼミを担当している。
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