長野県塩尻市 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当) 山田崇氏
地方公務員の枠をはみ出し、オフィシャルな場でもプライベートの時間でも精力的に活動を続ける長野県塩尻市の職員、山田崇氏。彼の活躍を可能にしている塩尻市とは、どんな組織風土なのか。さらに、「次の山田崇」たりうる人材を見つけ出すために、組織はどんな努力をすべきなのか。山田氏自身の経験をもとに、語っていただいた。

「第1回:自腹を切って当事者になる。空き家プロジェクト『nanoda』」はこちら>
「第2回:塩尻の課題に大企業の社員が挑む『MICHIKARA』」はこちら>
「第3回:元ナンパ師がつかんだコミュニケーションの勘どころ」はこちら>

「山田をマネジメントするな!」

――年間200以上の講演に登壇し、全国を飛び回っている山田さんですが、塩尻市内でお仕事をされるのはだいたい週に何日くらいですか。

山田
1日ですね。

どうしてそんな働き方が可能かというと、いま塩尻市の地方創生推進課というチームに所属しているんですが、要するに先出しじゃんけんで、わたしの予定が一番早く決まるからです。3、4カ月も先の講演の予定が入っていたりする。ですので、5年ほど前からわたしのGoogleカレンダーをチーム内で共有しています。さらに、講演スケジュールは全部Webで公開しています。

――ご自身としては、塩尻市という組織のどんな面が山田さんの幅広い活動を可能にしていると思いますか。

山田
まず、地方創生推進課は6人の課なんですが、そのなかでわたしはいま部下がいない係長なんですね。なので、わりと遊軍的な扱いになっていますね。かといってわたしが特別扱いというわけでもなく、6人の役割が重複しない組織になっています。さらに「山田は市役所にいないほうが大きな価値をつくれる。市役所の外での活動を地方創生推進課に接続するので、ちゃんと市の政策にも活かせる」という共通認識があるので、自由に動けているのかなと。

市の幹部からの理解もありがたいですね。塩尻市の市長いわく、「561人の職員のなかに、1人くらい山田みたいのがいてもいいだろ」と。ただ、「2人はまずい」と(笑)。ちなみに市長はもともと職員ではなくセイコーエプソン株式会社出身なので、塩尻市という組織の柔軟さはそこからも来ているかもしれません。それから、わたしの上司が飲み会で副市長から言われたのは「山田をマネジメントするな!」と。

画像: 「山田をマネジメントするな!」

ただ、本にも書きましたけど、そのときに大事なのは「ロストペンギン」になっちゃいけないこと。群れのなかから最初に海に飛び込むペンギンを「ファーストペンギン」というんですけど、群れをつくっておかないとだれも自分のことを見てくれないわけです。つまり「ロストペンギン」になっちゃう。「あれ? 山田どこ行った?」じゃダメなんですよね。「あ、山田が落ちたぞ!」ってみんなが心配してくれる状況をつくらないと。

ですから、毎週金曜の朝9時から課でやっている定例のミーティングには、電車の中にいようがSNSを使って参加します。わたしが塩尻の外に行って「いい価値見つけてきたよ!」って言える仲間との距離感、これを失ったらダメなので。市役所にも企業にも居場所がなくなったら最悪ですからね。

次の山田崇を生むために組織がすべきこと

――山田さんの後継者のような職員の方を育てる、あるいは見つけるために、組織としてはどんなことをすべきだと思いますか。

山田
いま、わたし自身が後継者を「育てる」側のポジションになりつつあります。ただ、自分に似たような職員を見つけるということではないんでしょうね。わたしが大切にしているメソッドや行動規範に反するやり方を将来のわたしの部下がとったとしても、寛容しなきゃいけない。「よくわからないけど、やってみたらいいんじゃない」というスタンスが必要なんでしょうね。わたしのこれまでの上司がそうだったので。

上司自身も過去にチャレンジングな経験をしている必要があると思います。1996年にインターネットプロバイダー事業を日本で初めてやった自治体が塩尻市なんですが、それをリードしたのがいまの副市長、「山田をマネジメントするな!」って言った方なんですよ。

ただ、組織からはみ出して行動しようとする社員を、企業が社内の育成プログラムだけで育てるのはなかなか難しいと思います。仕事の評価だけで出世競争が決まるようなしくみだと、“遊び”がないんですよね。だからわたしはプライベートで「nanoda」をやっていますし、仕事でシビック・イノベーション拠点「スナバ」に関わり、いろいろな市民や企業、NPOの方と接しています。スナバにはコワーキングスペースや貸しオフィスがあり、いろいろな職業の人が出入りするので、塩尻市にとっての「出島」なんです。このように、社外の人と交流できる育成プログラムがあるといいですね。

画像: インタビュー場所となった「スナバ」。1階はコワーキングスペース、2・3階は貸しオフィスになっている。名称の由来は公園の砂場。「作っては壊すというプロセスを安心して繰り返せる場」という意味が込められている。

インタビュー場所となった「スナバ」。1階はコワーキングスペース、2・3階は貸しオフィスになっている。名称の由来は公園の砂場。「作っては壊すというプロセスを安心して繰り返せる場」という意味が込められている。

市の外での活動で言うと、わたしはSVP(ソーシャルベンチャー・パートナーズ)東京というNPO法人の“パートナー”にもなっています。自腹で年間10万円払ってパートナーになり、社会課題解決に取り組むベンチャー企業やNPOを支援するんです。この10万円は、最初のほうでお話しした年間25万円の出費とは別に払っています。

パートナーのなかに、メガバンクで経理の仕事をしている女性がいます。立ち上げたばかりの小さなベンチャー企業に彼女が経理のサポートに行くと、もう“神”扱いされるんです。そこで彼女は、自分が銀行で普通にやってきた経理のスキルが、外の世界ではこんなに大きな価値を生むんだということを実感するわけです。わたし自身も、塩尻市に入って8年目に松本広域連合という当時19の市町村(現在は8つの市と村)で構成された組織に出向して、公務員としての仕事の価値を改めて感じることができました。

社外とつながる機会がないのであれば、いわゆる2枚目の名刺を持って、仕事以外の時間に活動をする。自分でお金を払ってでも、自分の価値を確かめに行く。そういう場所を取りに行ったほうがいいですね。もしくは、社内に勉強会を立ち上げるというのもいいと思う。できれば同期同士じゃなく、年代を超えてつながるのがいいですね。

画像: 「スナバ」1階の床。グランドオープンの際に、市民の手によって角材が敷き詰められた。

「スナバ」1階の床。グランドオープンの際に、市民の手によって角材が敷き詰められた。

年代を超えて若者に接するとき、頭に置いておかなきゃと思ったのが『銀河ヒッチハイク・ガイド』で知られるイギリスの脚本家・SF作家、ダグラス・アダムスの法則です。「人間は、生まれたときに存在したテクノロジーを自然の一部として感じる。15歳から35歳までに出会ったテクノロジーはエキサイティングと感じる。35歳以降になって発明されたテクノロジーは、自然に反するものとして感じる」

若者が世の中のためにやろうとすることって、多分わたしが「それはないだろう」って感じることなんですよ。それを自覚しなきゃいけない。彼らがワクワクするもの、わたしが恐れることこそが、次に来る未来の姿なんだろうなと。

「すべてのものは陳腐化する」ってドラッガーは言っています。わたしが「nanoda」を始めたのは、もう7年も前の話なんですよね。いずれ陳腐化する。それでも、部下が何に関心を持っているかを正しくキャッチしなきゃいけないし、「山田さんにだったら何を話しても大丈夫」っていう雰囲気をつくっておかなきゃいけない。そのためには、わたしが新しいことに挑戦し続けなきゃいけないと思うんです。背中で見せていかなきゃいけない。ただ、あんまり予定を詰め込み過ぎると健康が損なわれて信用が崩れるリスクがあるので、そこは気をつけていかなきゃと最近思っています。

「公開せよ、さもなくば腐敗あるのみ」

山田
わたしのような社員を“見つける”って会社視点ですよね。わたしは、社員の側が“見つけてもらう”努力も大切だと思います。わたしは「nanoda」の活動を全部ホームページに記録して公開しています。ブログも開設していて、プロフィールやメディアへの掲載情報などもそこで公開しています。結果的にそれが仕事につながっている。記録と公開、これってとっても大事だと思います。

空き家プロジェクト「nanoda」の活動はすべてホームページで公開されている。

ただ、発信する必要はないと思います。プッシュ型のWeb広告がほとんどクリックされないのと一緒で、発信すると嫌がられます。だけど、もし自分のプライベートの活動が新聞に載ったときに、「あいつ何やってんだ?」って気になった上司がググった先をつくっておく必要がある。自分のことを気になった人がたどり着けるアーカイブがある。これ、すごく重要です。

いまは個人がメディアになりうる世の中なんですよね。「見える化」した自分の“経験”が、何か新しいことをしようというときに、“信用”に転化する瞬間が来るんだろうなって思います。わたしは「nanoda」を7年間やってきましたけど、やり続けたという実績が一定量を超えたら、質も確実に上がっているんですね。それが、記録・公開し続けることで生み出せる価値だと思います。

――山田さんの場合、Webはご自身のメモではなく、あくまで外に対する記録・公開用なのですね。

山田
そうです。MITメディアラボの伊藤穣一さんが以前「TED」に出演されておっしゃってました。MITラボはいままで3回コンセプトを変えてるそうなんです。1つ目が「Do or Die」。実行せよ、さもなくば死あるのみ。2つ目が「Publish or perish」。公開せよ、さもなくば腐敗あるのみ。そして3つ目が「Deploy or Die」。活用せよ、さもなくば死あるのみ。これを見て、まったくそのとおりだなあって思いました。自分が活動してきたことを閉ざさずに公開し続けていくことで、それを見た相手が自然と活用してくれたり、もっと広い世界に展開してくれたりするという感覚があります。

画像: 「公開せよ、さもなくば腐敗あるのみ」

それと、「nanoda」はホームページにしたのがよかったなと。SNSを使うと、運営会社がやめたら終わりなんですよね。それに、FacebookやTwitterには最終ページがない。ホームページは始まりと終わりがあるから、アーカイブとしてはこっちのほうが見やすいなと思いましたね。ブログも同様ですけど。

実は自分にとってのアーカイブとしても役立っていて、講演で話した内容や質疑応答でよく質問されることをブログのなかの1コンテンツにまとめているんですよ、1回、講演中にパソコンにお茶をこぼして壊れちゃったときがあって、そのときはスマホで自分のブログのアーカイブにアクセスして、事なきを得ました(笑)。

画像: 仕掛けつづける公務員
【第4回】次の山田崇の見つけ方・見つけてもらい方

山田崇(やまだたかし)

1975年、長野県塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業。1998年、塩尻市役所に入庁。現在、塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当)。空き家プロジェクトnanoda代表、内閣府地域活性化伝道師。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。同年、TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」に登壇し、話題になった。自身が手掛ける「MICHIKARA 地方創生協働リーダーシッププログラム」がグッドデザイン賞2016を受賞。2019年、『日本一おかしな公務員』(日本経済新聞出版社)を上梓。信州大学 キャリア教育・サポートセンター 特任講師(教育・産学官地域連携)を務め、ローカルイノベーター養成コース特別講師/地域ブランド実践ゼミを担当している。

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シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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