長野県塩尻市 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当) 山田崇氏
年間200以上の講演を行っている長野県塩尻市の職員、山田崇氏。人前で話す機会が多いからこそたどり着いた、独特の読書法を実行していると語る。さらに、元ナンパ師の肩書きも持つ山田氏に、地方公務員の仕事とナンパとの共通点についても質問。自身の思考を整理しながら、丁寧に答えてくださった。

「第1回:自腹を切って当事者になる。空き家プロジェクト『nanoda』」はこちら>
「第2回:塩尻の課題に大企業の社員が挑む『MICHIKARA』」はこちら>

読書したら即、プレゼン資料づくり

――先ほど、本をたくさん読まれるというお話がありました。年間200以上の講演に登壇し、かなりご多忙だと思いますが、いつ本を読んでいるのですか。

山田
移動中ですね。わたしは両手を空けておくために、いつもリュックを背負っています。リュックには常に何かしら本が入っていて、駅のホームに立ったらすぐに本を手に取るようにしています。東京に行ったときは、山手線の新宿―渋谷間の6、7分でも本を読みます。そして、本は必ず買うようにしています。アウトプット前提のインプットをしているので、「この文章、プレゼンに引用したいな」と思ったらページを折るようにしているんです。そして、読み終わったらすぐプレゼン資料をつくる。

――その作業をするようになったのはなぜですか。

山田
たまに、一日に2回連続で講演させていただく機会があるんです。1回目は、呼んでくださった自治体の職員の前で。2回目は、住民の前で。そういうときに、2回とも同じ話をするのがすごく悔しいんですよ。同じテーマであっても、目の前にいる人が違ったら内容も変えたいと思うんです。それで、本を読むたびにプレゼン資料をつくるようになりました。たくさん用意しているんで、まだ人前でしゃべったことがないネタもありますよ。

例えば、ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの『存在と時間』。ちょっとプレゼンしますと、彼は「人生のなかで決まっていることは死ぬことだけだと思っている」。死がいつでも到来しうると覚悟している。でもいつ来るかはわからない。で、このあとがハイデッガーという人のすごいところで――「そのような覚悟をもつとき、死はまだ来ていない」。これ、めっちゃいいなって思って。

画像: 読書したら即、プレゼン資料づくり

何が言いたいかというと、この考え方って新規事業の立ち上げにも通じることで。やっぱり新しいことを始めるときって不安とか恐れがある。でも、恐れている段階ではまだ、恐れの実態が来ていない。このことに気づいてからは、より迷いなく未知の領域へ踏み出せるようになりましたね。

――なぜ、その本を読んでみようと思ったんですか。

山田
本から引用したエピソードを講演で話すと、「山田さんにはこの本が合うんじゃないか」ってよく紹介されるんです。そして、すぐ買うようにしています。

あと、本を読むときに心掛けているのは、最後まで読み切らない。「いまの俺とは関係ないな」「なんか読みづらいな」と感じたページは飛ばしますし、立ち読みしてそう感じたらそっと棚に戻す。これは私見ですけど、若者があまり本を手に取らなくなったのは「最後まで読み切らなきゃ」という思い込みが1つの原因かなと思うんです。小学校の頃に課された読書感想文の宿題によって、そういうバイアスが植え付けられたのではないかと。読まずに「積読(つんどく)」している人も、「この本、読み切ろう」っていう気持ちが強すぎて、かえって手が出ないのかもしれない。

わたしの場合、最初から「読み切らない」つもりでページを開くので、結果的にたくさんの本を手に取れています。それでも、なかには面白くて最後まで読み切っちゃう本もありますけどね。

ナンパも行政も、「n=1」の積み重ね

――ご著書『日本一おかしな公務員』には、山田さんが首都圏で過ごされていた大学時代に毎週末ナンパに明け暮れていたお話は詳しく書かれています。そこでお聞きしたいのですが、公務員というお仕事とナンパの共通点は何だと思いますか。

山田
やってみなきゃわからない。それに尽きますね。初めてのこと、前例がないことをやるときは、やっぱりいつもドキドキするんですよね。目の前の1人の女の子に声をかける、1つの新規事業に取り組む、どっちもドキドキするんです。

画像: ナンパも行政も、「n=1」の積み重ね

塩尻市の第5次総合計画(2015年~2023年)で掲げられている10のプロジェクトのなかに、「地域課題を自ら解決できる『人』と『場』の基盤づくり」というものがあります。いまわたしが所属している部署がこのプロジェクトの担当なんですが、「地域課題って何?」って考えたときに、新聞に載っていることやテレビで流れている情報からなんとなく課題のようなものが見えている気になりがちなんですが、地域の人が本当に何に困っていて何を望んでいるのかは、やっぱり本人に聞いてみないとわからないんです。それが、MICHIKARAのくだりでも話した「n=1」の考え方、まずは1人の住民に当たってみること。

新聞やテレビで得た知識をもとに、ぼんやりと「これが課題だろう」と思っている状況と、例えば渋谷の街角でナンパしようと思って声を掛けずにただ立っている状況、どちらも「ゼロの段階」なんですね。それが、1人に声をかけることで、見える景色が変わるんです。

例えばMICHIKARAは、これまで5期やってきて、27のテーマから参加者に課題を提示している。それと併せて、塩尻市が今までどんな事業をやってきて、将来どうありたいかをまとめてペーパーとして参加者に渡すんです。それをつくるにあたって、「なんでそれが課題なのか」の裏付けを取るために、当事者である住民に話を聞きに行かなきゃいけない、政策の受益者の声を、ペーパーにしっかり書かなきゃいけないっていうことに気づきました。MICHIKARAで生まれたアイデアが政策になったときに、最初に泣いて喜ぶ人、一番に笑顔にしたい人のことを、頭に思い浮かべる。それがすごく大切だなって、MICHIKARAを始めてからわかりました。

塩尻市の人口は約6万7千人、66の地区に分かれています。一人ひとりの声を聞きに行くのはかなり時間がかかりますけど、66ある地区のなかでどこから声を聞きに行こうかなって考えれば、1つの地区の平均が1千人くらいだから有限なんです。もちろん、毎回不安や怖さがあるけど、聞けば聞くほど地域課題のファクトが得られることになるので、その分、課題解決の可能性が高まると思うんです。

画像: 山田氏のノートパソコンには、過去に参加したイベントやプロジェクトのステッカーが所狭しと貼られている。「相手との距離を近づけたいので、いただいたらその場で重ね貼りしています」。当然、古いステッカーは隠れてしまうが「それだけ付き合いが深いっていうことですよ」と言うと喜ばれるそうだ。

山田氏のノートパソコンには、過去に参加したイベントやプロジェクトのステッカーが所狭しと貼られている。「相手との距離を近づけたいので、いただいたらその場で重ね貼りしています」。当然、古いステッカーは隠れてしまうが「それだけ付き合いが深いっていうことですよ」と言うと喜ばれるそうだ。

コミュニケーションの醍醐味は「つかむこと」「ちょっと揺らすこと」

――山田さんは人とのコミュニケーションのどんなところに面白味を感じていますか。

山田
人から言われたんですけど、「山田さんのコミュニケーションって“観察法”だね」と。心理学の用語らしいです。目の前の人をじっと観察して、その人の関心がどっちに動くかをキャッチして、「いいじゃん、それ。『nanoda』でやってみよう!」って。そうやって目の前の人が思ったことを行動に持っていくのが得意だねって。

逆に、「何のアクションもしない人をちょっと揺らすのも上手だ」とも言われました。渋谷でナンパしてた頃によく使ってた手なんですけど、「このくらいの白いペンギン探してるんです」って女の子に話しかけるんです。ひざ丈くらいの。それで笑ってくれたら脈ありです。そうやって相手をちょっと揺らしてみて、小さな関心をつかむのは確かに好きですね。

整理すると、コミュニケーションにおけるわたしの興味は2つですね。

1つは、目の前の人の関心がいまどっちに向いているか。それが、「nanoda」とか、企業との新規事業とか、市民の声を政策に反映するっていうことにつながっているし、わたし自身そういう仕事が向いているんだなって思います。生活保護とか高齢者福祉の仕事だと、向いてないんですよ。あまりにも感受性が強すぎて、どっぷり当事者側に気持ちが行っちゃうんです。

2つめの興味は、一見どんなことに関心があるのかわからない人をちょっと揺らしてみること。そこから生まれてくるコミュニケーションによって、ナンパだったら「一緒に飲みに行こう」とか、仕事だったら新しい取り組みが生まれるとか、そういう新しい動きが起こることにすごくワクワクしますね。

画像: コミュニケーションの醍醐味は「つかむこと」「ちょっと揺らすこと」

山田
ただ、仕事をしているとワクワクするやりとりばかりではなくて、市民の方からお叱りを受けることもありますし、ときには理不尽な出来事もあります。でも、去年あるワークショップに参加したことで、相手の感情をうまく受け止められるようになりました。

『アクティブ・ホープ』という本を書かれたアメリカの仏教哲学者、ジョアンナ・メイシ―さんの弟子の齊藤由香さんという方が島根県の海士町(あまちょう)で開催なさった「つながりを取り戻すワーク」に参加したんです。

そのときに知ったのが、人間の「悲しみ・怒り・恐れ・無力感」という4つの感情表現にはそれぞれ裏があると。「悲しみ」の裏には愛がある。例えば、飼っている猫が死んで悲しい。それは猫への愛があるからですよね。「怒り」の裏には正義が隠れている。「本来こうじゃなきゃいけないのに、どうしてだ!」っていう思いです。「恐れ」の裏には勇気。こわいと感じるのは、新しい挑戦をするからだと。そして最後の「無力感」、実はわたしが最近この状態なんですけど、その裏には新しい可能性が秘められているんですって。

市役所に対する市民のお叱りの声って、一見ネガティブな言葉のように感じますけど、そうじゃないんですね。そのワークショップに参加してから、目の前の人がどうして怒っているのか、その裏側にどんな願いがあるのかを見るようになって、だれと向き合ってもコミュニケーションをとるのが怖くなくなりました。

画像: 仕掛けつづける公務員
【第3回】元ナンパ師がつかんだコミュニケーションの勘どころ

山田崇(やまだたかし)

1975年、長野県塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業。1998年、塩尻市役所に入庁。現在、塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当)。空き家プロジェクトnanoda代表、内閣府地域活性化伝道師。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。同年、TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」に登壇し、話題になった。自身が手掛ける「MICHIKARA 地方創生協働リーダーシッププログラム」がグッドデザイン賞2016を受賞。2019年、『日本一おかしな公務員』(日本経済新聞出版社)を上梓。信州大学 キャリア教育・サポートセンター 特任講師(教育・産学官地域連携)を務め、ローカルイノベーター養成コース特別講師/地域ブランド実践ゼミを担当している。

「第4回:次の山田崇の見つけ方・見つけてもらい方」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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