「第1回:『時間』という資源の特性。」はこちら>

ポーターとノーリアの調査は、「時間」の使い方の平均値です。これは、ひとつの発見事実としては意味があると思いますが、人それぞれをもうちょっとミクロで具体的に見ていくと、本社で仕事をするといっても実際のところ何をやっているのかには相当ばらつきがあるはずです。

例えば、僕は(株)ファーストリテイリングの仕事の手伝いを10年ほどしていますが、CEOの柳井さんという方を見ていると、彼の「時間」の使い方にはいろいろとユニークなポイントがあります。朝は大体6時半ぐらいに出社されます。あの会社は7時がスタートで、原則的には午後4時終わりという朝型のタイムシフトなので、柳井さんも6時半出社で仕事が始まって、ものすごい過密な予定をこなす。それで、4時にはお帰りになるんです。帰るというのは、単に仕事場を出るだけではなく、本当にご自宅に帰っているらしいんです。

ある日、僕が手伝いでファーストリテイリングに行っていて、ちょうど4時ぐらいにオフィスを出るときに、駐車場でお帰りになる柳井さんとたまたま一緒になったことがありました。「どうも、お疲れさまでした」とご挨拶をしまして、「ところで、柳井さん毎日4時にお帰りになって、ご自宅では何をなさっているんですか」というふうに聞いたんです。すると柳井さんは、「君ね、僕の年になって、朝の6時半から集中して午後の4時まで働いて、そのあと家に帰ってできることといったら“休息”以外に何があるんですか」とお答えになりました。ま、そうかな、と。思わず笑いましたね。

つまり、柳井さんという経営者は、アスリートみたいな方なんですね。本当に(株)ファーストリテイリングという仕事、会社の経営に懸けていて、だからこそきちんと“休息”をとる。これを「時間」の使い方という量で計れば、CEO調査の平均値とそれほど変わらない、典型的なCEOの激務ということになるのかもしれませんが、ミクロで見れば人それぞれユニークな「時間」の使い方の原理原則を持っているはずです。

柳井さんの対極にある、ふわふわした仕事の僕の場合、大体朝は6時ぐらいに起きます。昔は、起きたらコーヒーを飲んですぐに仕事を始めていましたが、最近は家で8時ぐらいまでゆっくりたばこを吸ったり、コーヒーを飲んだり、朝食は食べたり食べなかったりで、前日やり残したメールのやりとりとかをして、仕事場に向かいます。仕事場に着いてそこから仕事をするんですが、昼ご飯は基本取らずにずっとスルーで仕事をして、4時ぐらいには上がります。それで週に3回ぐらいはジムに行って、家に帰る。この繰り返しです。時間の配分でいうと、結構柳井さんと似ているんですが、同じ4時で上がるといってもその中身や重みや意味合いは全然違う。

それで、家に帰ったらご飯を食べて、夜の8時か遅くとも9時ぐらいにはベッドに入る。かなり早いですよね。ほとんど小学生。さすがにすぐには寝られないので、そこから本を読んだりしますが、遅くとも11時までには寝る。11時に寝ると、やっぱり僕の年だと、5時ぐらいに起きちゃうんです、おしっことかも近いんで。でも耐えに耐えて6時までベッドにいて、それから起きる。それの繰り返しです。緩い仕事の典型例だと思うんですけど。

自分の時間の使い方でどんな特徴があるのかを、時間配分以外で考えてみますと、結構同じ種目をまとめてやっている。要するに勉強したり、何かを読んだり、考えたりというインプットは、もうその日は一日インプットの日というふうにして、ずっとその種目を昼ご飯を取らずにやります。

またアウトプットの日には、その日は集中して書く日にして、いろんな原稿の締切に合わせた書き物とか、とりかかっている本の原稿を書くといったことをまとめてやるようにしています。あと、人と会う仕事、ミーティングとか、取材とか、そういうのもできるだけ週に一日にまとめて、そこに30分刻みのバック・トゥ・バックでギチギチに入れていくようにしています。一日にいろんな活動をミックスさせない方が、どうも調子が良さそうだということで定着した、自分の時間の使い方の方針です。

この特徴をもうちょっと別の視点で見ると、僕の体はひとつですが、その中に3つの事業部があるんです。ひとつは大学の仕事で、そこで講義をするとか、教授会に出るとか、教育プログラムを回していくときのミーティングなどをやるという「大学での教育事業部」です。そして2番目は、自分の仕事である“考えて書く”ということをする「自分の仕事事業部」。これが中核事業ですね。3番目が、ファーストリテイリングもそうですが、いくつかの企業の経営の手伝いをする「会社の仕事事業部」です。これを、僕は3分の1ずつぐらいでやるのがどうも調子がいいということがわかってきた。

大学での講義というのは、総枠というか仕事の総量が大体決まっているので読みやすいのですが、企業の手伝いは受注業務で、これがあまり大きくなると何となくバランスが崩れるような気がしています。ですから、総量規制というかキャップをかぶせて、そこまではやるということにしています。各事業部の部門編成のバランスは、時間配分で重要にしていることです。

自分の仕事、「時間」の使い方ってこんな感じなんですけれども、これは習慣なので、ずっと同じルーティンでやっているとあまりほかの手を考えなくなってくる。本当はもっと生産性が上がるような「時間」の使い方があるかもしれない。ただ、一人の人生しか生きていないので、なかなか修正とか改善というのが起きにくい、これも「時間」という資源の特徴だと思います。

つまり、「時間」は見えないということなんです。「時間」はものすごい大切で、時は金なりとみんな言うんだけれども、見えない。流れていってしまう。金だと貯蔵性があるので、たとえばエクセルで自分のお小遣い帳をつけるとかしながら、かなり具体的なレベルで改善しやすいのですが、「時間」はすぐに過去へと流れて行ってしまうので、ついつい見過ごしてしまう。裏を返すと、みんなもうちょっと「時間」の使い方を何とかしたいと薄々思っている。だから古今東西「時間管理」の話がうけるんだと思うんです。「手帳術」とか「スケジューリングのコツ」とか。もう何十年も前から同じ話を繰り返しているだけなのに、需要は枯渇しない。

僕が時間配分とは別にもうひとつ重要だと思っているのが、自分の仕事と生活のリズムです。同じ24時間でも、16ビートでチャカチャカ生きている人と、4ビートぐらいでスイングしている人、シャッフルでタッタタッタとずっと跳ねている人とか、なにかしら自分のビートを見つけるってすごい大切で、ビートがいつも決まっているから仕事も調子が出るということがある。

僕は、昔は結構普通の8ビートで跳ね気味でやっていたんです。何を言っているかわからないと思いますが、自分の意識というか感覚ですね。最近は意識的にゆったりとした4ビートにしています。そのきっかけになったのは、僕が体を診てもらっている小林弘幸先生※というお医者さまがいて、この先生は、“とにかく全部自律神経の問題だから”とおっしゃるんです。

※小林弘幸:順天堂大学医学部教授。『なぜ「これ」は健康にいいのか?』など多くの著書あり。

自律神経には交感神経と副交感神経というのがあって、これは筋肉とは違って自分ではコントロールできません。この交感神経と副交感神経のバランスが大切で、交感神経というのは緊張を高めたり心拍数を上げるアクセルで、副交感神経はリラックスというブレーキの役割を担っている。副交感神経が優位な状態というのは、赤ちゃんとか子どもで、とにかくリラックスのほうが活性化しているので、しょっちゅう寝ています。年を取るということは、どんどん副交感神経の活動が弱まって、交感神経のほうが上がっていくということで、男だと大体30歳、女の人だと40歳で、急速に副交感神経の自然な活動量が落ちてくる。その結果、いろんな形で体調が崩れてくる。要するに肝となるのは、意識的に副交感神経を活性化させるような生活が大切ということです。

例えば深呼吸とか、何でも前もって余裕を持ってやっておきましょうとか、決まったペースでゆっくり歩きましょうとか、手のひらを上にして寝ましょうとか、そういう間接的なアプローチで、なるべく副交感神経を活性化させる生活の重要性が先生の本に書いてあって、確かにそうだよなあと思いました。

やっぱり「時間」って希少だからこそ、ゆとりが大切なんだなあと考えまして、ビートを意識的に4ビートのスイングにするようにしてから、心身ともに調子が良い。スイングが大切ですね。で、ここぞというときは一気に16ビートのゴーゴーのリズムに切り替える。ゴーゴーというのは、リズム楽器をやる人はわかると思いますが、後ろにアクセントを置いた、ハネた16ビート。ちょっと何を言っているのかわからないと思いますが、そういうことなんです。

(撮影協力:六本木ヒルズライブラリー)

画像: 「時間」という平等な資源-その2 4ビートで生きる。

楠木 建

一橋大学ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第3回:『何をするか』より、『何をしないか』」はこちら>

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一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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