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すでに始まっている『こくベジ』の自走化
『こくベジ』は、農家、飲食店、JA、商工会、観光協会、市民が連携し、地産地消を推進するプロジェクトであり、これまで、農業や農畜産物の魅力を体感できるさまざまな取り組みを行なってきた。地産地消の機運醸成イベントである産直マルシェ「こくベジのじかん」や、農を切り口として世代を超えた交流を生み出す「こくベジファーマーズパーク」、旬を味わうトマトフェスタ、食べたい野菜を飲食店に持ち込んで調理してもらう『つれてって、たべる。わたしの野菜』などのイベントを企画し、実施してきた。そのたびに、こくベジプロジェクトメンバーをはじめとする多くの人たちが自ら手を挙げて参加している。
新保氏「イベントを行うたびに感じるのは、皆さんがこれをやりたくて参加しているということですね。『こくベジプロジェクト』を運営するメンバー、農家、飲食店、関係機関、私たちのような市の職員、NPO、企業、学生などさまざまな人によって支えられています。そしてイベントを通じてまた新しい人や団体が加わり、ネットワークが広がっていき、そこからまた新しいアイデアが生まれる。その熱が、『こくベジ』を動かしていると、そばにいていつも感じます」
2019年の4月から、『こくベジ』は市役所の担当部署が市政戦略室から経済課に移った。 榎本氏「『こくベジ』の取り組みは、今までの農業振興施策とは異なり、飲食店、商工会、観光協会、市民を含めて相互に連携し、一体となって、この土地で生産された農畜産物の地産地消を推進しています。このような取り組みは、単に農業振興にとどまらず、商業振興、観光振興、地域振興など、人と人がつながることでさまざまな部門の活性化を生んでいると感じます」
西脇氏「『こくベジ』のような活動が、飲食店を含めた農畜産物の新たな消費拡大や販路拡大につながることや、顔が見える農業ならではの手ごたえといったことを通じて、生産する農家の世代交代へのモチベーションとなり、さらには、“こくベジメニュー”がそれぞれの飲食店を盛り上げることにより、国分寺市の産業活性化につながっていくことを期待しています」
地元の野菜を地元のお店でおいしく食べる。イベントに参加することで、地元の野菜を楽しむ。それが、地元の農家の支援になり、国分寺の食という文化を守ることになる。4年間でこんな幸せなサイクルができたことは、地元を愛する人のつながりがもたらした賜物だ。
しかし、『こくベジ』のもたらすシナジー(波及)効果は、それにとどまらない。現在国分寺市は、『こくベジ』を通じた“農福連携”の可能性を模索している。それは、障がい者の雇用創出機会の提供や、食育の提供につながる仕組みの検討だ。障がい者の雇用創出の取り組みは、畑を障がい者の就労の場として活用することで、農業者の負担軽減と障がい者の就労支援に役立てるというものだ。
2017年に実証実験として、こくベジプロジェクトメンバーである中村農園と清水農園で、人参・ほうれん草の袋詰めや苺の収穫などの農作業を実施した。指導を担当された農家の中村さんと清水さんは、農福連携の可能性を探りたいと自ら進んで取り組まれており、後日訪れた清水農園では、実際に障がい者の方々が満面の笑顔で農作業をしていた。
“食育”に関しても、子ども食堂で『こくベジ』を使った料理を提供したり、『こくベジ』をモチーフにした紙芝居の読み聞かせを行なっている。紙芝居では、国分寺の畑で育つ里芋がタイムスリップして国分寺の土が300年前から育てられてきたことや、自分達が時代の変化の波の中で育てられてきた貴重な野菜であることを知るストーリーで、子どもでも無理なく『こくベジ』と国分寺農業を理解してもらえる内容になっている。
新保氏「『こくベジ』の役割は、農業・商業や観光の振興にとどまらず、食育の推進や買い物弱者対策などの福祉の分野、緑地保全やフードマイレージ(食料の輸送距離)といった環境分野、学校給食への野菜の供給など、いろいろな取り組みにつなげることで、行政の課題解決にもつながると考えています」
国の地方創生先行型交付金を使って、国分寺のご当地メニューを作りたい。そんなスタートからは予想もできなかった現在の『こくベジ』は、5年目を迎える。仕事も年齢も性別も役割もバラバラな人たちの力で、この4年間『こくベジ』は育てられてきた。売上目標とかKPIとかブランドアイデンティティとか、そんなお題目がなくても、自分ができることをする。地域を支えるという思いが作った、このフラットでオープンなネットワークは、形を変えながらこれからもつながっていくのだろう。
次回は、そんな『こくベジ』を、実際に野菜を集配することで支えている2名のメンバーの話をお届けする。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
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岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。