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女優、歌手 ナタリー・エモンズ氏/株式会社日立製作所 理事 システム&サービスビジネス統括 本部CSO 松原康範
来日し、初めて身を置いたのは人情の町、大阪。物怖じせず、積極的に周囲とコミュニケーションをとることで、日本語を学んだというナタリー・エモンズさん。ナタリーさんに文化を越えたコミュニケーションの取り方についてお話を伺いました。

「第1回:日本文化への思い」はこちら>

積極的なコミュニケーションで広がる輪

松原
ナタリーさんは、まず大阪のUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の舞台に出演するために来日されたと聞きました。日本に来る前に日本語を勉強されて来たのですか。

ナタリー
いえ、日本に来てから覚えました。ほんとうは、きちんと日本語を勉強したいのですが、まだその機会がありません。

松原
アメリカでは、わりとストレートにものを言いますが、日本では遠まわしな表現も多いでしょう。もっと極端に言うと、お天気の話をしていても、本当に伝えたいことは別のことだったりします。言葉と本当に伝えたいことが違っているような日本のコミュニケーションの取り方は、難しくありませんでしたか。

ナタリー
その点は、最初に大阪に住んだのが良かったと思います。大阪では、割合はっきりと言うでしょう? 私も、日本に来る前に日本の人はシャイとか、おとなしいとか聞いていました。でも、大阪では、電車の中で知らない人にも声を掛けたりします。ですから、「日本の人、ちっともシャイじゃないですね」と思いました。

松原
なるほど、日本でも地域によって、コミュニケーションの取り方がかなり違うかもしれませんね。

ナタリー
もっとも大阪に来たばかりの頃は、日本語が全然できなかったので、周りの人たちとコミュニケーションを取るのが難しかったです。それでも、自分の考えていることを少しでもきちんと伝えようと思い、言葉で表現できないところはジェスチャーを交えて、コミュニケーションを取りました。

松原
そういう積極性が、コミュニケーションを取るうえでは大切なのでしょうね。いま日立は世界中で事業を展開していて、従業員は約30万人に上りますが、そのうちの半数近くが海外の人です。ですから、海外の人とのコミュニケーションが大切になっています。私自身は英語での会話が得意ではないので、そういう海外の人とのコミュニケーションの場に行った時に、気後れしてしまって、十分に話せなかったりすることがあります。積極性を持っていかないといけないとは思いますが、とても難しいと感じています。

ナタリー
私は学生の頃から、グループの中で積極的にコミュニケーションを取れない人がいると気になる性格でした。それで、あまり話をしていない人がいると、その人のところに行って、話しかけてみるのです。アメリカにいた時に友だちになった日本人の留学生は、まだあまり英語をたくさん話せなかった様子でしたので、もっと一緒に話をしたいと思って話しかけました。友だちをつくるにしても、コミュニケーションがとても大事ですよね。

画像: 積極的なコミュニケーションで広がる輪

「にんげんだもの」間違えて良いんだ

松原
先ほど、日本語は学校で習ったわけではないとおっしゃっていましたが、どのように覚えたのですか。

ナタリー
もともとは友だちと話したり、ドラマを見たりして覚えたのですが、その時は、男言葉と女言葉の区別も知らなくて、たまに間違って覚えていました。

松原
確かに日本語には、英語にはないような男女による言葉の使い分けがありますね。でも、今話していても、正確に使い分けができています。

ナタリー
そうですか。でも、怒ったりすると、使い分けを間違えますね、まだ。

松原
もっとも、今では日本の若い人たちの間でも、男女の言葉の使い分けが、それほど厳格に守られなくなってきました。私などの世代からすると、守るべきものは守った方がいいと感じますが。ナタリーさんが、日本語のコミュニケーションで気をつけている点は、何かありますか。

ナタリー
私はけっこう物事をはっきりと言う方なのですが、先ほど松原さんも言われたように、日本ではあまりストレートに言っても、失礼になる場合がありますね。アメリカなどでは、冗談を交えてみんながストレートに言い合います。日本で同じようにした場合、冗談だということが日本の人に伝わらないと、ものすごく礼儀に反したことになってしまうでしょう。最初の頃は、そこのところを気にかけていました。それで、テレビのレポートなどでも控えめにしていたら、周りの人が「もう少し話した方がいいよ」と言ってくれました。その後、「日本遺産」の番組で栃木県の足利に行った時に、相田みつをさんの「にんげんだもの」という言葉を教えてもらって、「あ、間違えてもいいんだ」ととても安心することができました。外国人だから少しくらい間違っても大丈夫と、周りの日本の人たちはみんな思ってくれています。それなら、自分らしさを見せた方がいいんだと、思えるようになりましたね。でも、日本の文化も人も、とても尊敬しているので、その気持ちが伝わるように気をつけています。 

松原
そういうふうに相手に対する尊敬の気持ちを持ちながら、積極的にコミュニケーションを取る努力が必要だということですね。最初は言葉が通じなくても、積極的にコミュニケーションを取りながら、だんだんと理解し合っていくことが一番重要なことでしょう。

ナタリー
言葉や文化が違っていても、どこの国の人も同じなんだと気づいた体験がありました。大阪に来たばかりの頃、電車に乗ったら、私の左隣に座っていた男の人が居眠りをしていて、空いたほうの席に私が移ったのです。そうしたら、居眠りをしていた男の人は、それまで私が座っていて空席になったところに、どーんと横倒しに……。まるでコメディ映画を観ているようで、ついつい笑ってしまって……そうしたら、それを見ていた周りの人もみんな笑いをこらえていたようで、私が笑ったらみんな噴き出してしまったんです(笑)。その瞬間に、言葉は違っていても、みんな面白いことは面白いと、同じように感じるんだと気がつきました。それで、自分は日本にいても一人じゃなくて、みんなと一緒にいるんだと感じることができました。

松原
それは、とても大事な気づきですね。言葉や文化の違いがあっても、人と人は共感できるし、そういう共感を基盤にしてコミュニケーションが成り立っていくのだと思います。

ナタリー
みんなと通じ合えたと感じたその瞬間を、ショートムービーで表現してみたいと思いました。

画像: 「にんげんだもの」間違えて良いんだ
画像1: 心から認め合えば文化の違いを超えた絆が生まれる
【第2回】異文化コミュニケーションの肝

ナタリー・エモンズ

アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ出身。2010~2013年 ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでシンガー、ダンサー、MCとして活動、1日4,000人以上が鑑賞に訪れるショー『ユニバーサル・レインボー・サーカス』ではリングマスター役(主役)を演じ、数々の賞を受賞。その後、ジブリ映画のテーマ曲をカバーした動画がYahoo! JAPANに掲載されるなど話題となる。NHKワールドの歌番組"We Love Japanese Songs"では司会も務めた。現在、毎週日曜放映の「じょんのび日本遺産」(TBS)ほか、多数のテレビCM、TV番組に出演。シンガーソングライターとしても活動中。

画像2: 心から認め合えば文化の違いを超えた絆が生まれる
【第2回】異文化コミュニケーションの肝

松原康範(まつばら・やすのり)

1984年 株式会社 日立製作所入社、2005年 営業企画本部 企画部 担当部長、2009年 情報・通信グループ 金融システム営業統括本部 ビジネス企画本部長、2012年 営業統括本部 営業企画本部長、2016年 ICT事業統括本部 経営戦略統括本部長、2017年 システム&サービスビジネス統括本部 経営戦略統括本部長、2018年 理事/システム&サービスビジネス統括本部CSO

「第3回:アーティストのまなざしで日米の架け橋に」はこちら>

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