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生活のルーティンでいうと、たとえば飲食店の選択。僕は、ネットで検索して「今度はここに行ってみよう」ということはまずやりません。「中華料理だったら、ここ」とか、「お鮨なら、ここ」「天ぷらはあの店」というように、いつもそのジャンルで決まった一つの店に行くんです。食べ物に限らず、消費全体についての僕の原理原則は、「不満がなければ開拓しない」。

もっとどこかにいいものがあると思うから、新しいモノやコトが欲しくなる。現状に不満がないというか、それが十分に自分の好みであれば、それとの関係をずっと続けて、ルーティンを繰り返していくほうが豊かじゃないかなというふうに思う方なんです。ただし、ちょっとでも不満があれば、その店には二度と行きません。ルーティンに組み込まれているものが、僕にとってその時点でのベストなものなのです。

ルーティンに残るほど自分にとって意味があったり、良かったりすることとの出会いは、偶然である場合が多いです。偶然の本質は反経済性にあるというのが僕の考えです。つまり、事前の功利的な計算がないっていうのが偶然の本質で、たまたま誰かに教えてもらって連れて行ってもらったお店がすごく良かったとか、その手のきっかけのほうが結果的に長く続く関係ができる。損得勘定から入ると、なかなか続かないし出会いに驚きがないんですね。

「ルーティン」の対語は「イベント」です。僕は、成熟というのは「イベントからルーティンへのシフト」の過程だと思います。若い頃だと、もっと楽しいことがあるんじゃないかといったことを考えるし、今はそれをSNSがあおりまくる。だんだん年を重ねると、自分にとって何がよくて何が楽しいか、好みの輪郭がよく見えてくる。で、ルーティンが固まっていく。それは、僕はエイジングのポジティブな面じゃないかなというふうに思っているんです。

『ABCマート』※の野口社長と対談する機会がありまして、そこであるブランドのワークブーツを薦められました。それまで革のブーツは重そうだし、疲れそうだし、まったく関心がなかったのですが、ブーツが好きな野口さんの話を聞くと、とてもよさそうに思えた。自分で実際に買って履いてみると、皮なので履き続けることで足に合ってきて、どんどん歩きやすくなって、いい感じで色が褪せてきて、手放せなくなりました。

※『ABCマート』:株式会社エービーシー・マートが展開する、靴や衣料品のチェーン店。

ほかにも、僕の場合、仕事が考え事なので、野球のピッチャーが肩のコンディショニングに終始気を使ってるように、頭のコンディショニングにはそれなりに気を使っています。もちろん質の高い睡眠が大切。そのためにはいい枕が重要なのですが、あるとき見つけた枕がもう最高に良くて、以来へたってくると同じものを買い直しています。販売元でも、20年ぐらい同じものをずっと売っているらしい。ずっと同じものを使い続けるのが好きです。

人間って幸せだから笑ってるんじゃなくて、笑ってるから幸せになるっていう面がある。それと同じで、自分が好きだから長く使い続けるんじゃなくて、使い続けてるから好きになるっていう因果関係がある。僕は、それを「消費を閉じる消費」って言っているんですけれど、「もうこれでいい」っていうものを見つけると、簡単に新しいものを買わなくなる。新しいブランドや新製品に振り回されない。

つまり、ルーティンっていうのは裏返すと、何に関心を持たないかとか、何をしないかっていうことを反映したものだと思います。自分なりのルーティンを作っていくということは、無駄なものをそぎ落としていくということなので、時間の使い方も結果的に効率がよくなっていく。睡眠時間が足りないと言っているビジネスパーソンは、余計なことをやりすぎだと思うんです。テレビを見たり、ベッドの中で意味のないスマホをやってたりとか。

僕の場合で言うと、夜の考え事は絶対にしないようにしています。夜の考え事って、一晩寝て起きてみるといいことがひとつもない、ほんとうに意味がない。その気付きが、夜は考え事はしないっていうルーティンになるわけです。

何をやらないかをはっきりさせて、残ったことでルーティンを組み上げて、それを錬成していく。そして、偶然に進化していく。結果、ほんとうに自分に向いているもの、価値があるもの、好きなもの、心地いいものだけが残り、だからこそ日々繰り返されていく。繰り返すことによって、変わらないものとのズレが生じたときに、変化みたいなものもわかってきます。これが生活の醍醐味なのですが、若いうちはなかなかその良さがわかりませんでした。齢を重ねると失うものも多いのですが、確かに良いこともある。自分のルーティンについては、いつも「いまがベスト」です。

画像: ルーティンを見直す-その2
消費を閉じる消費。

楠木 建
一橋大学ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

新たな企業経営のかたち

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