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なんで日本からGAFAみたいなプラットフォーマーが出てこないのか。日本にはイノベーションが少ないとか、起業家精神が足りない、とか言われたりします。面白いのは、以前僕がEUの国際会議に出たときの議題が、「なぜEUからGAFAのようなメガプラットフォーマーが出てこないのか」。フランスとかドイツとか、イタリアのおじさんたちが顔を突き合わせて議論をしていました。
ようするに、ほとんどの場合、アメリカからしか出てこないんです、こういうのは。その国や地域が持ってる特性とか条件で、お家芸みたいなものってあります。日本はやっぱり自動車ですね。ハイブリッドエンジンなんてもう、日本のいいところが全部出たみたいな技術を世に送り出した。大体こんな極東の島国にですよ、乗用車の完成車メーカーが8社も存在しているわけです。これは考えてみれば奇跡に近い。
自動車が日本のお家芸だとしたら、メガプラットフォーマーみたいな商売は、これはかなりアメリカのお家芸的なところがあるのかなと思います。その理由を考えてみましょう。
まず、アメリカの起業家精神というものがあると思います。この起業家精神というのは、言ってみると「それまでをなかったことにする精神」なんです。非連続な精神で、これまでを全部なしにしてこれからはこれだ、と。ですから、新しいもの作るというよりも、それまでをなかったことにする力というのが非常に重要なんです。日本とかヨーロッパ社会というのは、アメリカと比べると、文化的な蓄積も厚いしもともと連続的なんです。
EUの国際会議で、なぜEUからメガプラットフォーマーが出てこないのかという議論のコンセンサスが、「我々の社会は、こういう企業が出てくるには文化的に豊かすぎる」。モノは言いようだと感心しました。
今のアメリカでいうと、イーロン・マスクみたいな、もう起業家精神の塊みたいな人が出てきます。僕はイーロン・マスクとすごく似ているなと思うのは、ハワード・ヒューズ。そして、トーマス・エジソン。ようするに、奇人変人ですね。この顔ぶれを見ても、やっぱりアメリカのお家芸だと思うんです。
もちろん、プラットフォーマーになるからには多くの人が使用しなければならないので、英語というのはものすごいアドバンテージです。それから、世の中にないサービスを作る最初の段階では、制度的にもかなりグレーなところがある。そうすると、アメリカみたいに規制がゆるい国というのは、とにかくやっちゃえということで、起業家精神が発露しやすい。
初めはどこもすごくリスクがあるベンチャーなんで、これにガツンとお金を振り向ける資本市場が必要となります。この点で、アメリカは圧倒的に進んでいます。また、金だけでなく労働市場が流動的なので優秀な人ががっつり取れる。中国にもそういう面がありますが。特にITエンジニアは、やっぱりアメリカは本当に層が厚いです。
あと、電気代が安いっていうのも意外に大きいと思うんです。果てしなく電気を使っていくビジネスですから。プラットフォーマーがアメリカのお家芸である理由は、このように挙げることができますし、もっといろいろとリストアップできるかもしれません。
この図は、GAFAの北米での売上比率、つまり自分たちのドメスティックな売上比率です。
全部アメリカの会社であるにしても、かなり高いですよね。
「グローバルメガプラットフォーマー」って、どこがグローバルなんだ、と。日本の製造業の企業と比べるとよくわかりますが、トヨタみたいなBtoCでも日本での売上比率は約30%です。村田製作所やマブチモーターといった部品メーカーになると、もう10%以下ですからね。日本の伝統的な製造業のほうが、全然グローバルなんです。
つまりアメリカの需要の特性が、こういう企業を成長させるんです。アメリカというのは、物理的にも機能的にも構造的にも、すごく分散した市場であり社会なんです。物理的な分散で言えば、アメリカだといちばん近いお店が車で18キロ飛ばしたウォルマートみたいな人はいっぱいいるわけです。そこにAmazonって、もう腰が抜けるほど便利だったと思うんですね。
あと、機能的な分散性でいうと、フリーランスで働く人がすごく多い社会なんですよ、アメリカは。そうすると、労働する側から見ると、GoogleもAmazonもすごく優秀なプラットフォームなんです。例えば、ちょっと自分でモノを作るだけでAmazonで売れるとか、GoogleやFacebookで広告を出せるとか。Amazonは、決済から在庫管理までもう全部やってくれるわけですから。日本で便利に暮らしている人たちとは比較にならない大きな需要が、そもそもアメリカという分散的な社会にはあったと思います。
メガプラットフォーマーがアメリカ以外から生まれない最大の理由は何かというと、元も子もない話ですが、「世の中がメガプラットフォーマーをいくつも必要としていない」からです。というのは、メガプラットフォーマーの成立要件というのは独占だけなんです。つまり、いっぱいは要らないんです、性質からして。ひと昔前のMicrosoftと似ていますね。
ですからそれぞれの領域、小売りだったらAmazon、情報だったらGoogle、SNSだったらFacebook、スマホはAppleみたいにどうしてもなってしまうものなので、そもそもなんでメガプラットフォーマーが出てこないんだっていう問い自体が論理的に言って間違っていると思います。
楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
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