GAFAそれぞれの中核事業がどんなものかを見ていきましょう。
まず、右上のGoogle。Googleは、わりとピュアに「情報技術」の会社です。Googleの持ち株会社であるAlphabetのアニュアルレポートを見ると、「We do not intend to become one」と言っているんです。私たちは、ひとつの会社ではないんだと。
現に今、Alphabetはいろいろな新しい技術やサービスとか製品に投資をしてますが、Googleの会計上の単位だとOther Betsと言われていて、わずか1%ぐらいにすぎません。結局はGoogleなんです。Googleであるということは、広告の会社であるということです。
ただしGoogleは、図でいう右側のインフラの会社で、特定少数の強力なサービスや商品、プロダクトに絞っていくというよりも、検索エンジンからOS、メール、マップ、YouTubeと、もうどんどんいろんな情報のタイプとか技術で幅を広げていって、それがお互いにつながって、いま情報インフラになっているわけです。本当の意味でITプラットフォーマーというのは、僕はGoogleだと思うんです。
幅広く水平的なインフラを動かしてるので、ものすごく集客のポイントがいっぱいあります。それを使ったGoogleの独自の広告、従来の広告代理店がやっていた広告ではない、検索連動型の広告というロジックで広告収入を得て儲けていく。それがGoogleです。
次に、左上のFacebook。「コミュニティ」の会社です。リアルなオペレーションを持たないバーチャル領域の会社という意味ではGoogleと共通していますが、広範なインフラを整えていくというよりは、二本足打法ですよね。FacebookとInstagram。GoogleがITインフラだとすると、Facebookは広告を通じてコミュニティをお金に換える会社だと思っています。
Facebookはコミュニティの会社ですが、より直接的に言えば、僕は「自己愛をお金に換える商売」だと思うんです。Facebookの「いいね」って、多くの人は心からいいとは思っていないですよね、反射で押してるだけなんで。ところが、ついた側はうれしいと。これは、自己愛、セルフラブですよね。これはもう、古今東西、過去から未来永劫、人間のものすごく太い需要です。これを金に換えるというのは、マーク・ザッカーバーグの天才的なところだと思います。彼はテクノロジーに対するセンスもいいのでしょうが、やっぱり「人間の本性についての洞察」という、経営者にとって最も必要な点が優れていると思うんです。
Facebookで展開されている情報は、知り合いにひも付いた情報なので、当然人間のアテンション(注目)が強くかかります。そうすると、広告としてもコンバージョン(ネット上での商品購入や資料請求などの行動)が上がるわけです。これだけでも素晴らしいですが、さらにすごいと思うのは、Facebookは多分アメリカでも半分ぐらいの人しか使っていない。それは、アメリカの格差社会できゅうきゅうと暮らしている人たちは、顕示すべき日常生活が乏しい。Facebookに上げたい情報があまりない上に、いったん入ったら最後、知り合いがこんなに幸せ、あんなにハッピーっていう攻撃をかけてくるので、気分悪いですよね。そういう人はFacebookユーザーにはならない。ということは、最初から金払いがいい人だけがセルフスクリーニングされて入ってくる。しかも、検索よりもアテンションが強く働く。これで、儲からないわけがない。
そして、左下のApple。すごくわかりやすい「ハードウェア」の会社です。ビジネス自体は全然新しくはない。ものすごく優れたハードウェアがあって、売っているものは絞り込まれています。特に最近の目玉はiPhoneなんですが、iPhoneで突破して全面展開という、きわめてプロダクトかつリアルな領域のハードウェアの会社です。売上だと、iPhoneがハードウェアの62%。ソフトウェアを一体化したハードウェア、そのデザインの力がAppleという会社の価値であり、強みなわけです。
最後に、右下のAmazon。「小売と物流」の会社です。Appleと共通してるのは非常にリアルなサービスで、とにかくガサガサとモノや人が動いている会社です。本質的には「小売」、もっと本質はやはり「物流」だと思うんです。物流というのは分散的なものなので、世界1カ所に統合することはできません。それぞれの国に出ていけば、大きな設備投資、物流センターが必要だし、トラックは動かさなきゃならない。そんなリアルな分散オペレーションの経営マネジメントに非常に優れている会社で、小売り、物流のインフラとしてはものすごく水平的で汎用的です。
AmazonがGoogleと全然違うのは、広告みたいなBtoBの収入というのはAWS以外はほとんどありません。とにかく、儲かったら儲かった分、全部小売りのインフラ、特に物流に投資していく。日本だと宅配便とかいろいろありますが、アメリカだと自社物流でやる場合も多いので、そっちへの先行投資をひたすらやっていくわけです。実質的に儲かっているのはAWSだけで、あとはカツカツと。これは、意図的にそうしているわけです。
少し長くなりましたが、このように商売として見るならば「GAFAもいろいろ」だということです。
楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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