資本主義はこれからどうなるのかとか、今の金融資本主義は行き詰まってるとか、そうした話がこのところずっと続いています。今回は、資本主義をどう考えるのか、これからの世の中はどうなるのかというやたらにマクロなテーマについて、僕の考えをお話ししたいと思います。

まず確認したいことがあります。超長期的、巨視的に見ると、人間の社会を統治している根本原理というのは、そうそう変わるものではありません。これまでの長い人間社会の歴史の中でも、根本原理と呼べるものは3つしかありません。

まず1つめは、『伝統』です。伝統っていうのは、「これまでもそうやってきたからそれが正しいんだ、そうすべきだ」っていうガバナンスメカニズムです。2つめが『指令』。指令というのは、特定少数の非常に優れた人間、つまり「王様」とか「皇帝」なんですけど、リーダーが右へ行け、左へ行けとか、これはやってはいけないとかを決める。他の人は、それに従うっていうガバナンスメカニズムです。

それがひと通り終わって、次に出てきたのが3つめの『レッセフェール(自由放任主義)』なんです。個人の自由意志ですね。勝手にそれぞれがそれぞれの意思でやれという世の中です。この原理の経済的な現れが、「資本主義」であり「市場メカニズム」。政治的な現れは「民主主義」というようになった。経済的に見たときに、資本主義は変容し、今日的な状況としては「金融資本主義」といわれるように行き過ぎの面があるわけですが、いずれにせよ基本的には世の中はレッセフェールという原理で動いていることには変わりありません。

考えてみれば、これだけ長い人間の歴史の中で、社会を統治する原理が3つしかないってことがすごいと思うんです。僕は、最近の○○3.0という種の話は、あまり信用しないほうです。いまは「○○3.0!」とかいっているけど、再来年あたりには「○○4.0!」と言い出すおそれが十分にある。本当に質的な変化があるのかな、と思うんですね。

資本主義の次は何が来るのか。本当の意味での「世の中4.0」ですね。僕はそれはほぼ間違いなく「社会主義」だと思っているんです。そうすると、「おまえは社会主義者か」とか言われるのですが、次が社会主義になるのは実はすごく自然な話なんです。歴史を振り返って長い目で考えれば、こういう本質的な変化というのは、あくまでも振り返ったときに変わっているものなんです。つまり、ものすごくゆっくり、徐々にしか変わらない。

ある短い時間幅の中で、世の中が一変することを「レボリューション(革命)」と言います。「伝統」から「指令」、「指令」から「自由意志」、こういうシフトは本当に大きな変化でしたが、実際には「革命」ではない。これだけマクロなレベルでの変化というのは、徐々にしか進まない。革命というより「エボリューション(進化)」なんですね。

進化の過程では、異なるモードが混在し、並走している。で、この並走期間がやたらと長い。「伝統」と「指令」にしても、多分1000年ぐらい並走してるわけです。「指令」モードの時代、王様が絶対的な権威権限をもっていても、商業経済もまた動いていたわけで、両者のミックスでずっと何百年も並走してきた。

今はどうかというと、資本主義的なものと社会主義的なものが相当長く並走している時代にあります。世の中を動かしている原理の中に両方が混在している。資本主義は修正を繰り返してきました。それは資本主義の中に社会主義的なメカニズムが入っていくというプロセスです。

例えばイギリスの産業革命やアメリカの開拓経済の時代と比べると、政府による富の再配分は、イギリスでも世界中どこでも、はるかに進んでいる。社会福祉も、国によって大きな違いはありますが、ヨーロッパや日本のような成熟した国や地域では、100年前と比べてはるかに発達しています。ベースにあるのは資本主義ですが、そこに社会主義的な要素が入ってきている。

最近の話で言えば、例えばSDGs※。これは資本主義下でのプレーヤーである上場株式会社の経営に、社会的な視点を入れていこうという動きです。資本のルールだけで突っ走ると、いろいろと長期的に人間社会にまずいことが起きるという話で、これも資本主義の修正ですよね。

※Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標):2015年9月の国連サミットで全会一致で採択。「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標(その下に169のターゲット、232の指標が決められている)。 

ここ数百年はそういう状況が続いている。多分今後数百年続くでしょう。徐々に社会主義的な割合が増えていく。で、西暦3000年ぐらいになって過去を振り返ると、「知ってた?昔は資本主義だったんだって」という社会主義の時代になっているかもしれません。長い目で見るというのは、そういうことです。

画像: 資本主義のこれから-その1
ゆっくりとしか変わらない。

楠木 建
一橋大学ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「第2回:金融資本主義の本質は「手段の目的化」。」はこちら>

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