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いま、ビジネスの現場で、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)がキーワードとなっている。さまざまなモノがインターネットでつながり、デジタルな世界と現実の世界が結ばれることで、社会や経済のあり方が大きく変わるという。パラダイムシフトを起こすとして期待されるIoTが、ビジネスをいかに変え、産業界全体にどのようなインパクトをもたらすのか。IoT技術などを活用した生産革新を推進する株式会社ダイセルの取締役常務執行役員である小河 義美氏に、同社の取り組みについて聞いた。

組立加工型領域でも生産革新を強化したい

熟練工のノウハウや技能をいかに継承し、生産性や品質、安全性をさらに高めていくか。これは多くの製造業に共通する課題だ。このような状況を打破する手法として注目されているのが「ダイセル式生産革新」である。当初は、自社の改革を念頭にした取り組みであったが、その効果が着目され徐々に他社へも広がり、今では様々な製造業がその取り組みを導入している。

「熟練工が大量に定年退職する2007年問題を、当社はそれよりも早いタイミングで迎えていました。そこで、熟練工のノウハウや技能を徹底的に見える化し、誰もが活用できるようにすることで、安心して作業が行える『人にやさしいモノづくり』 を目指すことになったのです」と同社 取締役常務執行役員 小河 義美氏は紹介する。

この取り組みは、化学のような、生産工程の大半が目視できないプロセス型生産領域特有の取り組みとして展開されてきた。一方、自動車エアバッグ用インフレータ事業に代表される、組立加工型生産領域では、その基本的な思想を継承しつつ、トヨタ生産方式なども導入して、安全、品質の確保や、生産性の向上に取り組んできたという。

しかし課題も残されていた。「現場の人間が安心して作業できる環境の実現に向け、教育を充実したり、現場でその作業を確認・指導したりといった施策を継続して行ってきました。ただ、人間はどうしてもミスしてしまう。それをあげつらうのではなく、仮にミスをしても安心して作業できる仕組みができないか。これをずっと模索し続けてきました」と小河氏は振り返る。

その解決に向けた糸口を探すため、小河氏が日立製作所(以下、日立)の中央研究所を訪れたのは、2014年8月のこと。ここで画像解析技術や制御技術に触れたことで、新しい仕組みが具体的な像を結ぶことになったという。

「何より驚いたのは、研究者の方がお客さまの課題を意識したソリューションを念頭において、研究開発に取り組んでいること。1つひとつの技術が素晴らしいことに加え、それを複数の技術をもってストーリーの中で説明していただいたのには感動しました。これは一緒になって面白いことができるんじゃないかと直感しました」と小河氏。こうして日立の最先端IoT技術やAIを活用した、新たな生産革新の進化に向けたプロジェクトが始動した。

わずか半年で「画像解析システム」を開発

その後、両社はエアバッグの基幹部品であるインフレータ(ガス発生装置)を製造している播磨工場において、2015年2月から16カ月にわたった実証試験を実施。製造実績データを3M(Man:人/Machine:設備/Material:材料)の観点から解析した結果、製造現場における作業者の動作や設備・材料の状態を定量的に把握することが、製品の品質改善や生産性、安全性の向上を図る上で有効であることが分かったという。この結果のもと、製造現場における作業員の逸脱動作やライン設備の動作不具合などの予兆を検出する「画像解析システム」を開発。わずか半年で作り上げた。ダイセルの作業手順がしっかりと標準化されていたため、人物動作解析を開発する上で重要だった標準動作モデルの構築が素早く完了するなど、早期開発を実現した裏側には、トヨタ生産方式やダイセル式生産革新が重要な役割を果たしていたという。

実際のシステムは、「人」に対応する人物動作解析、「設備」に対応する設備異常解析、「材料」に対応する溶接異常解析で構成される。人物動作解析では、3次元形状を取得できる距離カメラを用いて作業者の手やひじ、肩などの関節位置情報を取得し、標準動作モデルと関節位置情報を統計的に比較することで逸脱動作を検知する。「両手」「目視」「屈み」の3項目について、規定したしきい値を超えると、生産ラインの監督者に通知が送られる仕組みだ。

同じ仕組みを設備や材料監視にも活用。通常画像との差分を分析することにより異常を検知している。例えば溶接の場合なら、カメラが溶接の様子とその過程で生じる光の波長データを常時収録。グラフ化した発光データに通常と違う偏りがあれば異常と検知されるといった具合だ。さらに万が一、生産工程に不適切な作業が発見された時は、シリアル単位で最終製品を追跡できるトレーサビリティも実現した。

画像解析システムに取り込まれた画像の一例

画像: 複数のカメラを使って作業者や設備、材料の状態を撮影。撮影した映像を専用アルゴリズムで解析し、その解析結果を通知する

複数のカメラを使って作業者や設備、材料の状態を撮影。撮影した映像を専用アルゴリズムで解析し、その解析結果を通知する

人間同士のぶつかり合いが成功の原動力に

導入してから日が浅いものの、すでに様々な効果が表れつつある。従来との一番大きな違いは、管理手法が大きく変わった点だ。これまでは、3Mに対する検査をロット単位の「代表点管理」でしか捉えることができなかった。それが今回の新システムの導入で、シリアル単位での「全点管理」へと移行した。

「人、設備、材料は、生産工程において密接につながっています。それを連続的に管理することができれば、さらなる品質や作業効率の改善が期待できます」と小河氏は期待を寄せる。

しかしそれ以上に重要なのは、この仕組みが人にやさしいモノづくりを体現する存在になることだという。「ミスの傾向がわかれば、その対策を打てますし、それぞれの現場作業者の弱点や強みもわかるようになれば、この担当者はこういう形で教育しよう、この弱点があるからもっと得意なことを生かせるようにしようなど、各担当者に寄り添った最適配置やモチベーションアップも行えるはずです。それが人にやさしいモノづくりを支える、システムのあるべき姿ではないでしょうか」(小河氏)。

今後、同社では播磨工場だけでなく、海外のインフレータ6工場にも導入していく計画だ。そこで得られた多様な情報を収集・分析し、グローバル統合管理による技術レベルと品質レベルのさらなる底上げ、さらには、解析結果を活用したエンジニアリングチェーンやサプライチェーンの最適化なども視野に入れているという。

それに伴い日立が果たす役割や期待も大きくなる。

「今回のプロジェクトがスムーズにいった要因――それはその根底に『協創』があったからだと考えています。協創は協力し合って作り上げることで、一方通行の会話では成り立ちません。そのためには、お互いが人間性も含めて想いをぶつけあう必要がある。もちろん、そのときいちばん大事なのはおもしろがってやること。今回はそれができたし、嬉しかった。これからも日立とワクワクすることを仕掛けていきたい」と小河氏は最後に話した。

User Profile
株式会社ダイセル
代表:代表取締役社長 札場 操
本社住所:
(大阪)大阪市北区大深町3-1 (グランフロント大阪 タワーB)
(東京)東京都港区港南2-18-1(JR品川イーストビル)
設立:1919年9月8日
URL:http://www.daicel.com/
事業概要:セルロース事業、有機合成事業、キラル分離事業、合成樹脂事業、火工品事業など。

画像: 小河 義美(おがわ よしみ)氏 株式会社ダイセル 取締役常務執行役員

小河 義美(おがわ よしみ)氏
株式会社ダイセル
取締役常務執行役員

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