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磨くべきはマーケティング力
第1回でも触れたように、日本ではマーケティングに対する認識が不十分な企業も少なくない。ただ、逆に言えば伸び代も大きい。確たるマーケティング戦略を構築し、具体的な施策を実行できるようになれば大きく成長することができるはずだ。慶應義塾大学大学院教授の余田拓郎氏はこう話す。
「韓国のサムスン電子が急成長を見せ始めたのは1990年代の後半ですが、それは同社がマーケティング重視の姿勢を鮮明に打ち出した時期と重なっています。『技術×マーケティング』をエンジンに、同社は成長速度を速めました。翻って、日本には優れた技術を持つ企業が多数あります。マーケティング力を磨けば、大きな成果につながるはずです」。
余田氏によると、差別化された製品、高品質の製品を扱う企業ほど、マーケティングの重要性は高まるという。「良いものを作れば勝手に売れる」と考える人もいるかもしれないが、余田氏の論理はその逆である。
「突出した製品に、最初から顧客がついているわけではありません。開発した企業は、そこに価値を見いだしてくれる顧客を探す必要がある。つまり、マーケティング活動が欠かせません」(余田氏)。
加えて、余田氏はマーケティング戦略の司令塔となる体制や機能の強化を訴える。
「改めて言うまでもなく、イノベーションとマーケティングは企業の成長の両輪です。しかし、多くの日本企業では後者への意識がまだ弱い。顧客や市場の変化を素早くキャッチし分析する仕組みづくり、マーケティング戦略を策定する部門の拡充を急ぐ必要があります」。
強力なマーケティング体制を構築するためには、縦割り型の組織を統合する機能も重要だ。業務の高度化に伴い専門分化が進むのは当然としても、それを束ねる力が弱ければマーケティング戦略そのものの有効性もそがれてしまう。
「製品コンセプトづくりや価格設定、販売チャネル対策、プロモーションなど、マーケティングには様々な側面があります。これらを担当する部門の方向性、実行する施策に一貫性を持たせなければなりません。そのためのアプローチは組織や権限の見直しなど様々でしょう。また、CMO(最高マーケティング責任者)のようなポジションを設けることも、一つのきっかけになると思います」と余田氏は語る。
環境変化に適合する戦略を描ける経営人材の育成を急げ
強いマーケティング部門を構築するうえで、人材が鍵を握ることは言うまでもない。では、具体的にはどのような人材を集めるべきか。余田氏は次のように語る。
「マーケティングの領域では、次々に新しい道具が登場しています。その最たるものがITであり、ビッグデータや分析ツールなどを上手に使って成果を上げる企業も増えています。新しい道具を使いこなして価値を創出するためには、新しいタイプの人材が必要。それは、柔軟な思考や創造力とビジネス知識を併せ持った人材です。あるいは、そうした能力を少人数チームで分担、補完し合う形でもいいと思います」。
最後に、余田氏に日本企業の経営者に対するメッセージを聞いた。余田氏が言及するのは、やはり人材。将来の経営を担う人材の育成についてである。
「環境変化が加速する時代、戦略の巧拙は企業の成長を左右します。マーケティング戦略だけでなく、あらゆる分野での戦略、それらを統合した経営戦略の重要性はかつてないほど高まっています」としたうえで、余田氏はこう続ける。
「結局のところは、企業の中枢で環境変化を読み解き、それに適合する戦略を描ける人材がいるかどうか。かつてのある時期には、課長や部長の延長線上で社長になっても、それなりに務まったかもしれません。しかし、今は違います。ミドルマネジメントの延長ではなく、計画的に将来のトップマネジメントを担う人材を育てていただきたいと思います」。
ビジネススクールで教鞭を執る余田氏は、最近マーケティング戦略への関心の高まりを実感しているという。日本企業は確かな足取りで前進している。しかし、そのスピードはさらに速める必要がありそうだ。
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