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山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー / 冨山 和彦氏 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
今後、生成AIはホワイトカラーの業務を代替していき、残るのは高度な知的生産か、判断と責任を担う仕事、あるいはエッセンシャルワークとなる。第2四半期の日本で問われるのは、みずからのWill・Can・Mustを問い直し、「よりよく生きる」ために仕事を選び直す覚悟であると冨山氏は言う。最終的に提供される付加価値と自分の仕事の因果を認識できるかが、これからは問われることになる。

「第1回:「ダブルイナーシャ」を超えられるか」はこちら>
「第2回:下請け構造に陥らないために」はこちら>
「第3回:フィジカルAI時代、日本企業は主役になれるか」はこちら>
「第4回:人間的衝動と、自分の足で立つ力を持つ」はこちら>
「第5回:「仕事」とは「役に立つことに仕える」という意味」

他者や社会に対して自分はどうあればいいのか

山口
この第2四半期に産業構造の転換や人材の再配置が進むとすると、ある意味では健全な競争が働く社会になるとも言えます。日本人にはその気構えも必要になるのかもしれません。

冨山
そうですね。大きな組織に入ればそこで骨を埋められるという昭和のモデルやノルムがこの第1四半期でほぼ壊れ、第2四半期は違うモードになります。これからの世代は本気でマインドセットを変えていかないと大変です。このまま同じ会社で働き続けるのがいいのか、自分自身というものをメタ的に見たときに、Will(やりたいこと)、Can(できること)、Must(すべきこと)を整理して重複部分を見つけるということを、人生の各段階で繰り返し行う必要があるでしょうね。

山口
自分の人生を事業経営として考える視点が必要ですね。

冨山
それこそがリベラルアーツ=よりよく生きるための知の技法でしょう。これからは、「他者や社会に対して自分はどうあればいいのか」を認識する力、考える力が本質的に問われるようになると思います。スティーブ・ジョブズが、毎朝、自分に問いかけていたという話がありますよね。

山口
「もし今日が人生最後の日だったら、今からすることはほんとうにやりたいことか?という質問に対してノーが何日も続くようなら、何かを変えないといけない証拠だろう」と。

冨山
それは誰もが常に自分に問うべきことです。変えることのリスクや、変わることのコストは時として高くなることもあるため、皆さん考えることを避けがちです。だけど、明らかに環境が変わっていて、くどいようですが、これから日本の社会は間違いなく猛烈な人手不足になります。そして、足りないのはエッセンシャルな仕事です。エッセンシャルということは、これから先もなくならないということです。一方で、デスクワークのホワイトカラーは、僕に言わせれば20世紀の情報化の段階で生まれた徒花(あだばな)的な職種ですよ。

山口
アドホックということですね。今後、AIの実装が本格的に進むとかなり代替されていくと思います。

冨山
生成AIがホワイトカラーの仕事の大半を奪うことは間違いないわけで、そこで残るのはおそらく本当に高度な知的生産、例えばAIを開発するような仕事か、ボス仕事、要するに判断と責任を取る仕事しかない。他方、現場現業で身体性、感情労働性が問われる仕事、まさにエッセンシャルワーカーな仕事は残っていく。この流れが不可避なのだとすれば、その中で自分がどちらに行くかという問いですよね。ボス仕事は性格的に向き不向きがあります。ボスに求められる能力は、決断力と責任をとる度胸と覚悟があるかどうかで、頭のよさは関係ない。むしろ頭がいいと考えすぎてしまうから。

山口
リスクも見えますし。

冨山
参謀には向いているけれど、ボスには向いていないですね。その参謀仕事も半分ぐらいはAIに取って代わられますから、そう考えるとハードルが高い。一方で、AIを開発するような人も大変です。いわば知的アスリートなので35歳ぐらいまでが能力を発揮できる限界でしょう。

だとすれば、むしろエッセンシャル空間へ向かうほうがいい。生成AIやフィジカルAIは、この空間では代替財ではなく補完財となって生産性を上げていきますから、ブルーカラーは今後どんどんライトブルー化していくはずです。

山口
労働市場の需給ギャップで、アメリカでもブルーカラーの収入が上がっているようです。

冨山
やはりエッセンシャルな部分はなかなかAIとロボティクスには置き換わりませんからね。もともと基礎能力が高い方は、山口さんが実際の事例でおっしゃったように、この領域で活躍する余地がものすごく大きいのです。実際にローカル企業の支援や再生の事業を行っていると、そのことを実感します。裏返せば、ホワイトカラー全盛の時代に優秀な人材が東京の大企業に集まってしまい、社会全体での配置が歪んでいると言える。

山口
機会費用(選択しなかったものから得られたであろう価値)が大きくなってしまっているわけですね。

画像: 他者や社会に対して自分はどうあればいいのか

自分の仕事と付加価値の関係を見つめ直そう

冨山
優秀なのに大企業で漫然とホワイトカラーをやっている人材は、中堅中小企業、あるいはローカルなエッセンシャルな領域に移っていったほうが社会全体の持続性も生産性も上がるはずだし、おそらく早晩、そちらのほうが賃金の高い時代になると思います。

例えば、電力供給をほんとうの意味で支えているのは、東京の本社ではなく、高圧線のメンテナンスをしている人たちですよね。本来はそうしたエッセンシャルワークにもっと給料を払って然るべきなんです。今後、人手不足の状況下で、おそらく社会において本質的に重要な仕事は何であるかが明らかになっていくでしょう。そうした意味では、この第2四半期はフェアな方向へ向かう風が吹き始めると思います。

山口
仕事の価値が公正に評価されるようになる。

冨山
そう。勉強ができるだけでいい大学へ行っていい会社に勤めて何となく65歳まで暮らしていけるというような時代ではなくなるわけです。私はそういうフェアな時代が来たほうがいいと思う。無理してホワイトカラーを維持しようとせず、むしろ消滅していったほうが日本はいい国になると思います。
要するに、「仕事の本質は何か」という話です。仕事というのは誰かの役に立って、役に立った相手が原価以上のお金を払ってくれるから成り立つものです。付加価値というのはそういうものですね。現在のような産業革命期には、そこを考え直さなきゃいけない。なぜなら、革命によって価値がなくなるものがあるからです。

山口
AI産業革命ですね。

冨山
人間の大脳新皮質のかなりの部分がAIに置き替わる。そのときに自分がどうやったら他人のため、世の中のために役立つことができるのかということを、従来の出世レールに乗っかってしまうと考えなくなってしまうんですよ。試験でいい点をとれば世の中の役に立てるなんてウソでしょう。大企業に入ったからというだけで役に立てるというのもウソです、はっきり言って。

もちろん大企業は社会や消費者に対して実際に役に立つものを提供しているでしょう。けれど、それをどんどん因数分解していって自分の仕事を取り出したときに、その仕事が最終顧客の役に立っているかどうかが本質的な問題です。もし、自分の仕事が役に立っていないと感じたら、その組織の中で立ち位置を変えるか、別のところに移るべきでしょう。

自分の給料の出処は、会社が最終的に提供している付加価値に対してお客さんが払ってくれるお金です。だから、その付加価値と自分の仕事の因果の鎖をちゃんと認識することが必要です。これからの時代、それをできる能力のある人とない人では、天と地の差が開きます。それができる人は、仕事で結果を出せるはずです。

山口
大事なことですね。

冨山
認識した結果としてエッセンシャルワークに行く人がもっと増えるといいと私は思っています。この対談の前に理髪店で髪を切ってきましたけれど、理容師・美容師は私の髪を切ったことで「ありがとう」と言われ、対価を払ってもらえる。そういうふうに自分の仕事と付加価値の関係性がリアルなのがエッセンシャルワークのいいところです。だから、極めてやりがいのある仕事が多い。

山口
フィードバックも明確で、金銭的報酬だけでなく感情報酬ももらえる。

冨山
そうそう。仕事というのは「事に仕える」と書きますけれど、それは「役に立つことに仕える」という意味です。その原点に戻るには、AI革命はいいタイミングではないでしょうか。この対談をお読みになった方はぜひとも、従業員だけでなく経営者も、自分がステークホルダーに対してほんとうに役に立っているかどうかを見つめ直してみてください。そして、自分の「仕事」について考える機会にしていただければ幸いです。

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画像1: 日本企業再起の鍵は、アニマルスピリッツとリベラルアーツ AI革命と人口減少の時代だからこそ構造転換が可能に
【その5】「仕事」とは「役に立つことに仕える」という意味

冨山 和彦
日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。その後経営共創基盤(IGPI)を設立し、代表取締役CEO、グループ会長として活動。現在は日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長を務めるほか、メルカリの社外取締役、日本取締役協会の会長も務める。さらに、政府関係委員も多数務める。主著に『日本経済AI成長戦略』(文藝春秋)、『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)、『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』(文藝春秋)など。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

画像2: 日本企業再起の鍵は、アニマルスピリッツとリベラルアーツ AI革命と人口減少の時代だからこそ構造転換が可能に
【その5】「仕事」とは「役に立つことに仕える」という意味

山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

寄稿

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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