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山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー / 冨山 和彦氏 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
人口減少社会では、規模拡大は必ずしも競争優位を意味しない。重要なのは、確固たる差別性と高収益構造であると冨山氏は指摘する。半導体材料などに見られるように、日本の中小企業にはグローバルニッチトップの可能性がある。一方で、フィジカルAI時代には「ハードウェアディファインド」から「ソフトウェアディファインド」への転換が不可避となり、民族的エートスに根差したモノづくりの強みをどう進化させるかが問われている。

「第1回:「ダブルイナーシャ」を超えられるか」はこちら>
「第2回:下請け構造に陥らないために」

規模よりも付加価値の追求を

山口
「昭和型のよい会社」から脱却しなければいけないということですけれども、真のよい会社、強い会社とはどういうものなのか、冨山さんの考えをお聞かせいただけますか。

冨山
結論から言えば、高収益、高収入、それから持続性の三つをクリアしていることです。その根拠となるのが確固たる優位性です。それによって高い給料を払い、高品質な人材を雇うことができる。そうなるための手段というのが、従来は規模の拡大でした。とにかく大きくなることが競争優位につながるという考え方です。

山口
特に大量生産型の製造業ではそうなりますね。

冨山
けれど、その大量生産型製造業で、かつ生産プロセスを内在化したモデルで、今それなりに成り立っているのは自動車産業ぐらいでしょう。それは世界的に見ても言えることで、アップルだってモノづくりはしていませんからね。

日本もかつてはどんどん人口が増え、かつみんな貧乏という状況でしたから、規模を追いかける戦略は間違っていませんでした。しかし、今の中国もそうですが、人口が減っていく国ではナンセンスです。

人口減少の局面で重要なのは、付加価値を高めることです。その意味では大企業になる必然性はなく、むしろグローバルニッチトップのほうがいい。世界全体の市場規模が100億円しかない製品でも、7割のシェアを握っていれば間違いなく高収益ですよ。そうした日本企業は、半導体分野を中心に結構多くあります。半導体バリューチェーンにおいて決定的な影響力を持っているのは、実は川上の材料の領域で、当然そこは高収益です。

山口
デンマークの企業戦略がそうですね。A.P.モラー・マースクやレゴなどの大きな企業もありますけれど、ほとんどが中小企業で、しかもニッチに特化することでグローバルに競争力を持っている企業が多い。IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力ランキングで、2022年と2023年に連続1位、2024年は3位と、21世紀に最も国際競争力を上げた国の一つがデンマークです。

冨山
大事なのは企業規模よりも圧倒的な優位性、差別性を持っているかどうかで、その点では中堅中小企業のほうが強みを発揮できます。ですから、大量生産型製造業の大企業があって、その下請けや孫請けの中小企業があるというモデルからは脱却すべきです。そのモデルには明日はありません。

山口
依然、そのモデルのイメージが根強く残っています。

冨山
根強いですよね。政府は中小企業に対して価格転嫁策を打ち出していますけれど、価格転嫁の議論をしているようではダメです。なぜなら競争力がある企業はとっくに価格転嫁していますから。自動車産業で言えば競争力のあるヨーロッパの部品メーカーは高価格で売っていますし、値上げもしている。一方で部品を使う側、自動車メーカーやTier1(一次サプライヤ)の企業は値上げできないから苦しくなる。その構図もイナーシャの影響ですね。

山口
実際の数字として、直近10年間の産業小分類別でのGDP成長率を調べてみると、平均値を超えている分野は製造業では少なく、まして自動車産業はそもそもゼロを上回っていません。成長していないんですよね。逆に、高度部品メーカーは平均が7~8%という高度経済成長並みの成長をしています。世の中にはあまり知られていませんが。

冨山
自動車分野でさえ産業構造が変わりつつありますから、いつまでも旧来モデルでは通用しません。アメリカのテスラ社のほか、中国の自動車メーカーにも新しいモデルを構築し始めた企業がありますから、甘く見てはいけないと思います。

自動車産業が変容すると、工作機械や産業ロボットの分野も変容します。同時に、ソフトウェアディファインドからAIディファインドへの移行が進むと、これからのモノづくりは大きく変わるはずです。

画像: 規模よりも付加価値の追求を

ソフトウェアディファインドに転換できるか

山口
AIは純粋にソフトウェアの勝負なのでアメリカがダントツに強く、中国が続いていますけど、ヒューマノイド型のロボットになるとメカトロニクスとソフトウェアの組み合わせで、すり合わせなどのモノづくりの能力が関わってきます。そこでは日本にオポチュニティがあると期待しているのですが。

冨山
あることは事実ですが、それをどう生かせるかが勝負ですね。AIの側に根っこを押さえられてしまうと、スマホやPC、黒物家電などと同様にハードウェア産業が下請けになってしまう可能性があります。

日本企業の従来のモノづくりは、「ハードウェア ディファインド ソフトウェア」なんです。はじめにハードありきで、その機能拡張のためにソフトを使いましょうという順番になっているためソフトの地位が低い。フィジカルAIの場合は逆に、最初に標準AIができ、それを生かすためにハードつくり込むという順番になっています。この転換は決定的です。というのも、ソフトはいくらでもタダでコピーができますから規模の経済の利き方が桁違いです。けれど、ハードはそういうわけにいかない。

山口
生産を増やそうとすればコストがかかってしまう。

冨山
そのため、ソフト側に主導権を握られると市場を制圧されてしまいます。そうした意味では、日本のモノづくりを、ガチガチのハードウェアディファインドからソフトウェアディファインドに転換できるかどうかが勝負になります。

ただし、それはかなりの挑戦になるでしょう。日本のモノづくりの強さというのは、トヨタ生産方式に象徴されるように、現場の具体的な課題をベースとした工夫や改善の力によるもので、抽象的なコンセプトから生み出されるものではないからです。

山口
確かにそうですね。ボトムアップです。

冨山
われわれは「具体」に拠って立つ民族なんですね。例えば、日本の文学には具象表現が多いですよね。「蛙飛びこむ水の音」と言われても西洋人はわからないけれど、われわれは感応するわけです。逆に言うと、抽象的哲学論は得意ではない。だから「神様」というのは山だったり滝だったりするほうがピンとくるわけです。

山口
モノに一体化するわけですね。

冨山
そうそう。製造業というのはまさにその具体化・個別化の勝負なので、実はすごく日本人の民族性に合っているところがあるんです。ところがソフトウェアは抽象論、特にOSや汎用ソフトは抽象概念から入るため、正直に言ってあまり得意ではないですね、

つまりチャンスがあることは間違いないけれど、そのチャンスをものにするためには大きなチャレンジが必要ということです。ハードウェアがきちんと機能しないと自動車は走らないし、ロボットも動かない。本質は一緒ですから日本に潜在的な比較優位はあります。けれど、油断していると下請けになってしまうおそれがある。ヒューマノイドもモジュール化が進むことが予想され、そうなると組み立てメーカーは儲けるのが難しくなります。

山口
むしろ部品にフォーカスしたほうがいいということですか。

冨山
そうかもしれない。これまでの流れから考えると、部品やコンポーネントの中にすり合わせ要素が閉じ込められていて、コンポーネント同士は極めて単純に組み合わされるというモノづくりになっていく可能性がある。しかも、ソフトウェア ディファインド ハードウェアになっていくとすると、極めて精緻な手足というようなモジュールで勝負したほうがよさそうです。逆に、日本企業からフィジカルAIのOSが出てくるというようなことは、あまりイメージできませんよね。

山口
ソフトかハードかというのは、能力や知識の問題というよりは民族的なエートス(性質、倫理)の問題ですね。

冨山
そうです。だからそこをクリアしようと思ったら、民族混成部隊にしないと難しいでしょう。AIディファインドの世界で戦うには、真剣に会社の中の多様化・グローバル化を進める必要があると思います。

第3回は、4月7日公開予定です。

画像1: 日本企業再起の鍵は、アニマルスピリッツとリベラルアーツ AI革命と人口減少の時代だからこそ構造転換が可能に
【その2】下請け構造に陥らないために

冨山 和彦
日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。その後経営共創基盤(IGPI)を設立し、代表取締役CEO、グループ会長として活動。現在は日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長を務めるほか、メルカリの社外取締役、日本取締役協会の会長も務める。さらに、政府関係委員も多数務める。主著に『日本経済AI成長戦略』(文藝春秋)、『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)、『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』(文藝春秋)など。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

画像2: 日本企業再起の鍵は、アニマルスピリッツとリベラルアーツ AI革命と人口減少の時代だからこそ構造転換が可能に
【その2】下請け構造に陥らないために

山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

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