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「第3回:さらに深い読書の沼へ」
※ 本記事は、2025年9月26日時点で書かれた内容となっています。
読書というジグソーパズル
山口
これまで読んだ本の中で一番夢中になった本はと聞かれたら、僕は『馬券偽造師』をあげます。これは知人に「今年なんか面白い本はありました?」と尋ねた時に、教わった本でした。
楠木
僕もその後に周さんから教わって、夢中になって読みました。あれはとんでもなく面白い本ですね。稀代の名著です。
山口
人に薦められて読んだ本は、ヒットの確率が高いです。
楠木
確かにそうです。
山口
読んで面白かった本の中で引用されている本というのも、当たる確率が高い。
楠木
そうですね。僕の場合、本から本へと乗り継いでいく「ずるずる読み」というのをよくやっています。例えばアンディ・ウォーホルでいうと、『ぼくの哲学』を振り出しにして、ハケットという人が編集した『ウォーホル日記』を読み、ウォーホルのスタジオに出入りしていた『イーディ』という人の伝記に行き、自己破壊型の人間でジョン・ベルーシを思い出したので『ベルーシ最期の事件』を読む。またウォーホルに戻って、すごく面白い評伝である『パーティーのあとの孤独』を読むと、そこにトルーマン・カポーティが出てくるので、今度はカポーティ―の評伝を読む。このように関連する本をずるずると20冊くらい読んでいく。ひとつの自分の興味に対して、すごく多面的にとらえることができるし、読めば読むほど文脈が分かってくるので気に入っています。
山口
それはすごく良く分かります。僕もある時期、南極に関する本を読みまくっていたことがありました。本多勝一さんの『アムンセンとスコット』から始まって、アーネスト・シャクルトンなどの本を読む。そうするとだんだん海洋冒険に興味が出てきて、ヘイエルダールの『コン・ティキ号探検記』に手を出す。
楠木
ずるずる系ですね。
山口
ええ。それからさらに、エベレストで6人同時遭難みたいな雪山探検に広がっていきました。そうすると、それぞれがやっぱりつながっていきます。
楠木
事実としてつながっているとか、登場人物がつながっているとかでなくても、冒険とか遭難とか、そういう局面に直面したときの人間の物の考え方とか行動で、「そういえばあの時も、こう考えて意思決定していたな」とつながりだす。つながっていく中で、予想もしなかったような展開が生まれる。それが本当に面白い。
山口
つながってくる面白さというのは、なんかジグソーパズルを作るときに近いような感じです。どこか一部から始めて、そこを広げてひと固まりを作っていく。広がらなくなると、また違う所を広げていく。それを何度も繰り返していくうちに、やがてその固まり同士がつながりはじめる。
楠木
分かります。周さんの100冊ぐらい並行して読むというのも、そういう面があるのかもしれないですね。
山口
そうですね。
楠木
ジグソーパズルの途中の固まりとして読みかけの本が取りあえず置いてあって、やがてそれがつながってくる。
山口
そうかもしれません。

読書とフォーム
山口
楠木先生は、どんな姿勢で本を読まれるのですか。
楠木
僕の場合お酒は飲まない、社交もあまりない、テレビも見ない。1日のかなり長い時間を読書に費やしているので、寝転がって読みます。それがいちばんラクなので。周さんはどうですか。
山口
僕は気合を入れて本を読む時には、気合を入れて脱力するための体勢が決まっています。アーロンチェアを後ろに倒して、足を机の脇のベッドに乗せて、肘掛けに肘を乗せて本を読みます。本は長時間持っていると、腕が疲れますからね。そのまま眠くなったら寝る。起きたらまた読むというのが僕の読書スタイルです。
楠木
読書もフォームが大切ですね。
山口
非常に重要だと思います。
読書の後処理
楠木
本を読み終えると、僕はすぐにその本の主張や自分の感想をメモします。以前は手書きでやっていましたが、今はパソコンの音声入力でメモします。一度そこでメモを取っておかないと、僕は読んだ本のほぼ全てを処分してしまうので、自分がその時何を考えたかが分からなくなるのです。
山口
それだと、本棚はいっぱいにならない?
楠木
はい。よほどのことがない限り、本は読後にすぐに処分します。本棚は常時スカスカ。しかし後で使うこともあるので、メモは必須です。もともとはスペースの問題で本の処分を始めたのですが、今は自分の頭の中に本で得たことを定着させるために本を処分していると言ってもよい。鹿島茂さんがやられている「PASSAGE」に棚を持っていて、年間で300冊くらいは売っていると思います。
山口
あとで見返すかもしれないという、後ろ髪みたいなことはないのですか。
楠木
全部メモに取りたいぐらいナイスな本は残します。100冊中1、2冊しかありませんが。あとでどうしても必要になった本は買い直します。

読まないジャンル
楠木
僕の場合フィクションはあまり読みませんし、ノンフィクションでもサイエンス系はあまり読みません。ロジックが素人の自分では追えないので外しているのですが、周さんはどうですか。
山口
丸善オアゾでいくと、1階はカバーの範囲内にあります。為替や経済学の本は読みますが、金融に関しては読みません。2階に行くと文学のところはさっと見て、かっこ良さそうで本棚に置いておくといいな、という本は買います。
楠木
僕は本をばんばん売ってしまうので愛書とか蔵書という要素がまったくないのですが、周さんはハードウェアとして本を置いておきたいタイプですか。
山口
はい。トマス・ピンチョンなんて装丁がすごくかっこいいので、もうそれだけで持っていますね。
楠木
気持ちは分かります。ただ、それをやりだすときりがなくなってしまうので、自制しています。
山口
それから3階に行くと人文科学で、新書や文庫のコーナーを見て、哲学、宗教、美術、歴史といったコーナーを見ます。ここは見ないというところは、医学とかプログラミング系、土木の橋梁工事といった専門分野は見ないです。
楠木
本を処分するときは、ブックオフですか。
山口
ブックオフです。僕の書斎部屋の外の廊下に段ボール箱が置いてあるので、そこにどんどん入れていって、定期的に処分しています。
楠木
古本を買うことはありますか。
山口
あります。キリスト教の神学に関する書籍などは絶版になっていることが多いですが、Amazonで探すと簡単に手に入るのですごいと思います。メルカリも、古本を探す時に便利です。しかも安いし。だから古本は、結構買います。
第4回は、1月26日公開予定です。

楠木建(くすのきけん)
経営学者。一橋大学特任教授(PDS寄付講座・シグマクシス寄付講座)。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。著書として『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』(2024年、日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(2022、講談社)、『逆・タイムマシン経営論』(2020、日経BP、杉浦泰との共著)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。
楠木特任教授からのお知らせ
思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。
・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける
「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。
お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/
ご参加をお待ちしております。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
寄稿
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。



