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「第2回:本が教えてくれたこと」
※ 本記事は、2025年9月26日時点で書かれた内容となっています。
芯を食う確率
山口
「これは芯を食った、ホームランだ」という本に当たる確率は、楠木先生の場合どれくらいですか。
楠木
少ないです。おそらく1割もない。5%くらいでしょうか。
山口
そんなものですよね。僕も全く同感です。読書が苦手な人というのは、そこを勘違いしている人が多いのではないか。面白くないと思っても、見切りが悪くて最後までだらだら読んでいるから、結局読書が嫌いになる。
楠木
そうですね。それは、何かその本を読まなきゃいけないとか、知識を習得しなきゃいけないということが動機になっているからだと思います。読書の目的なり動機が、自分の考えや着想を得たり、何かに気づいたりするための素材に触れることだとすれば、「これは意味ないや」という見切りも早くなる。見切ってもそんなにネガティブな気持ちにはならない。
山口
読めば読むほど、次々に疑問は湧いてきます。自分と世界の境界面が広がっていくと、未知の領域も広がっていくので、何かを分かれば分かるほど、さらに知りたいことが増えていくという感覚はあります。
楠木
良く分かります。ただ、その時何もかもに手を出すわけにはいかないので、それをどう選別するか。僕も自分の中でスクリーニングしているわけですが、その方法を内田和成さん(※)が本で書かれていました。僕が無意識にやっていたことがまさにそうなのですが、それは自分の興味をタグ付けすることでスクリーニングするということです。自分の頭の中にフォルダがあって、そのフォルダには自分だけのタグであるタイトルが付いている。それはせいぜい20個ぐらいしかない。
※ 内田和成:1951年~ 日本の経営学者・コンサルタント。専門は競争戦略論・リーダーシップ論。元早稲田大学商学学術院教授、早稲田大学名誉教授、ボストン・コンサルティング・グループ シニアアドバイザー。東京女子大学特別客員教授。
僕のタグは、例えば仕事に近い方だと「競争優位の持続性」とか、「スキルとセンス」とか、「事後性」、それから僕の大好きな「芸論」とか、「戦争と平和」とか、「ポピュリズム」とか、だいたい同時には20個ぐらいのタグが頭の中にあって、それがフィルターになって、「この記事はじっくり読んでみよう」とか、「この本は買ってみよう」という行動になる。そんなに多くのことを考えることはできないので、スクリーニングのためのタグは有効だと思っています。タグといっても頭の中で意識しておくだけ。データベース・ソフトウェアのようなものがあるわけではありません。
山口
僕もやっぱりありますね。僕は根性がないし義務感では動けない人間なので、つまらない会食はもう衝動的に体が動いて出てしまうし、つまらない本は寝てしまうのです。
楠木
体が反応するんですね。
山口
はい。戦略ファームで働いていた時はそこがつらかったのです。メディアプラクティスいう新しい仕事のリーダーに指名された時、アメリカの最新メディアやインターネット、オウンドメディアといった資料の本を取り寄せました。しかし読み始めると、寝てしまう。いかんと思って目をこらしても、また寝てしまう。それを半年ほど続けて、これはもう無理だと思って会社を辞めました。
楠木
それは会社を辞めるほど大きな経験だったのですね。
山口
はい。僕はこれが人生の中でもターニングポイントになる気づきでした。人は向き不向きとか、みんな頭でっかちに考えるじゃないですか。それよりも、まずその領域の本読んでみる。鼻ちょうちんが吹いたら、その仕事は向いてない。僕はそう言います。

人文科学への興味
山口
その頃メディアの本を放り出してつい読んでしまうのは、歴史物だったり社会心理学だったり、哲学や宗教の本でした。
楠木
つまり、人間に関わること。
山口
はい、やっぱり自分は人文科学が好きなのだと気づきました。人や組織や社会について考える仕事であれば、戦略ファームより組織コンサルの方が近いのではないか。そう気づいて転職したら、めちゃめちゃ仕事が楽しくなりました。
楠木
それは本当に良い転換でしたね。
山口
だから僕の場合、タグ付けが先にあるのではなくて、自分はメディアとか最新のWebマーケティングよりも、組織とかリーダーシップといったタグが帰納的に出てきて、そこに関する本を読むようになりました。
楠木
僕の場合も同じです。タグ付けインプット、タグ付けインプットというのは常に行ったり来たりしていて、消えたタグがあれば増えたタグもあります。
山口
やっぱりタグが入れ替わってくるのですね。
勘違いの8年
楠木
僕も周さんの戦略ファームでの気づきと同じような経験があります。僕がこの仕事を始めた20代の終わりから30代半ばぐらいまでは、ものづくり経営学の藤本隆宏(※)さんに影響を受けていました。今から考えると、研究そのものというよりも藤本さんという人間の魅力というかスタイルに惹かれていただけなのですが、藤本さんが製品開発のマネジメントやテクノロジーマネジメント、オペレーションマネジメントを研究されていたので、僕も8年ぐらいその分野の研究をしました。しかし、やればやるほどつらくなってきた。それはなぜかと考えてみると、それほど好きなテーマではなかったんですね。元も子もない話ですが。
※ 藤本 隆宏(ふじもと たかひろ):1955年6月12日~ 日本の経営学者。早稲田大学大学院経営管理研究科ビジネス・ファイナンス研究センター研究員教授、東京大学名誉教授。専門は技術・生産管理、進化経済学。トヨタ生産方式をはじめとした製造業の生産管理方式の研究で知られる。
山口
そのつらさに気づくのは、なかなか難しいものなのですね。
楠木
自分のことなのだから、もっと早く気づけばいいのですが、これがなかなか難しい。ずいぶん回り道をしました。
山口
いや、分かります。
僕は本を通じて、自分は何に興味がないのかを教えてもらいました。マーケティングの本を読んでも、何かぴんとこない。理屈は分かるし面白いなとも思いましたけど、これを10年続けるのは無理だと思いました。広告に関してもそうでした。
楠木
自分のセンスの方向性とか興味関心の範囲みたいなことを、本が教えてくれる。それもまた読書の重要な効用です。

本の選び方
楠木
本の選び方に関して、周さんのスタイルはありますか。
山口
僕は、スクリーニングにコストをかけるぐらいなら全部買って、取りあえず読んでいく。つまらなければすぐブックオフに出すというスタイルです。実際に読む量の10倍は買っていますから。
楠木
本はAmazonで購入するのですか。
山口
はい、書店はもうあまり使っていないです。
楠木
本を選ぶのは、何かの情報を見て決めるのですか。
山口
Amazonのお薦めがいっぱい出てきますので、それで決めたりします。
楠木
本は電子書籍ではなく、紙の本ですか。
山口
電子書籍のケースもあります。ここは自分なりの方法論が見つけられていなくて、一時期全部を電子書籍にしたのですが、どうも内容が記憶に残らないのです。
楠木
僕も何回か試して、電子書籍はダメでした。紙にこだわっているわけではなくて、慣れだとは思うのですが。
山口
楠木先生の本の選び方は、どんな感じですか。
楠木
僕はさっきのタグを総動員して、スクリーニングする方だと思います。頻繁には行きませんが、一覧性という意味ではやはり本屋がいいです。
山口
どの本屋に行かれますか。
楠木
東京駅に行ったときには、丸善オアゾです。
山口
好きな本屋も丸善ですか。
楠木
いや、丸善は便利だということで利用しています。
山口
好きな本屋はありますか。
楠木
かつての神保町の東京堂書店ですかね。
山口
なるほど。
楠木
山口さんは好きな本屋、ありますか。
山口
僕は、青山にある青山ブックセンターが好きです。明るくてクリエーティブや人文科学系の本が揃っています。丸善オアゾはもちろん僕も行きますが、1階の閉塞感がすごいですよね。もう、「これを読まなければあなたの人生は終わる」というような本が、ぶわーっと平積みで並んでいて。
楠木
僕は1階を見ないようにしています。時間がある時には、丸善日本橋店の方に行きます。
山口
ああ、なるほど。
楠木
僕が本を選ぶ時には、書評が結構重要です。現役の書評家で僕が信頼しているのは鹿島茂さんです。その鹿島さんご自身が、ありとあらゆる書評記事をオンラインでアーカイブ化しているサイトがあって、それを見ると自分と合う書評家が分かるので、本を選ぶ時に本当に参考になります。
山口
それはいいですね。
楠木
プロの書評家の中でも、僕と気が合う人の書評しか信用しません。ましてやインターネットの匿名の評価、コメントみたいなのは本当に意味がないと思います。
第3回は、1月19日公開予定です。

楠木建(くすのきけん)
経営学者。一橋大学特任教授(PDS寄付講座・シグマクシス寄付講座)。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。著書として『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』(2024年、日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(2022、講談社)、『逆・タイムマシン経営論』(2020、日経BP、杉浦泰との共著)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。
楠木特任教授からのお知らせ
思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。
・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける
「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。
お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/
ご参加をお待ちしております。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
寄稿
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。



