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一橋大学特任教授(PDS寄付講座・シグマクシス寄付講座)楠木建氏/独立研究者・著作家・パブリックスピーカー 山口 周氏
恒例になったEFOビジネスレビューの新春対談。今年の対談のお相手は、共著で書籍も上梓されている、本誌ではおなじみの山口周氏だ。今回のテーマは、「知的インプット」。お二人は、日々どんなソースからどんな方法でインプットを行っているのか。お互いの知らない面を発見し合うような親密な対話は、上着を着ることを忘れるほどホットな展開となった。その1は、お二人に共通する最大のインプットについて。

※ 本記事は、2025年9月26日時点で書かれた内容となっています。

新聞について

楠木
今日のテーマは「知的インプット」です。人によってそれぞれだと思いますが、あくまでもわれわれ二人の情報収集のやり方やその背後にある考えについて対話していきたいと思います。周さん、本日はよろしくお願いします。

山口
よろしくお願いします。

楠木
知的インプットというと、何か目的があってそのために情報を収集すると考えている人が多いかもしれません。確かに調べ物をすることはありますが、僕の場合、それはインプット全体の10%程度にしかすぎません。運動に例えると、普段から繰り返しているストレッチや筋トレ、ランニングといったトレーニングが、僕にとって本当の知的インプットだと思っています。僕は毎朝新聞を読むのが習慣なのですが、周さんは新聞を読まれますか。

山口
ちょっと思うところがあって、今まさにやめています。

楠木
そうですか。その思うところとは。

山口
フランク・ゲーリー(※)という建築家が大学の授業で、若手の建築家に「建築雑誌は一切読むな」と言ったことがあります。自分と同年代の人間が賞を取ったとか、自分より若いやつがコンペで勝ったとか、そういう情報を読むともう気が狂いそうになる。情報を入れるか入れないかは、自分のパフォーマンスが上がるかどうかが判断基準だから、気が狂いそうになるくらいなら、読む必要はない。さらに言うと、読むことで流行や他の建築に影響されて、自分が何を作りたいのかわからなくなる。だから読むなと彼は言っていて、これがきっかけのひとつです。

※ フランク・オーウェン・ゲーリー:1929年~ 米国ロスアンゼルスを本拠地とする、カナダのトロント出身の建築家。コロンビア大学建築大学院教授。

楠木
なるほど。

山口
もうひとつは、ゲーテ(※)が「新聞を1カ月やめてみろ。そして1カ月後にまとめて全部読んでみろ。もう嫌になるぞ」と言っていたことです。毎日読むと情報が細切れなので気づかないけれど、30日分の新聞をまとめて読むと、これでまだ3日かとうんざりする。そのわりに何か重要なことを得ているかといえば、そんなことはない。

※ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ:1749年8月28日~1832年3月22日 ドイツの詩人、劇作家、小説家、自然科学者、博学者、政治家、法律家。

楠木
確かにそれは思い当たるフシがありますね。僕もしばらく東京の家を離れる時には新聞を止めておいて、戻ってくるとその間の分を届けてもらうのですが、まったく同じことを感じます。僕の場合は、朝起きたらベランダでコーヒー飲みながら日経新聞を読むという初老の習慣が定着しています。

山口
その時の新聞は紙ですか、電子版ですか。

楠木
紙です。数年前に一度電子版にしたのですが、老眼なのでいちいちズームしたりといった操作が面倒なのと、新聞を読むといってもコーヒーを1杯飲む5~10分ぐらいの時間なんです。その場で関心のある所だけを読む。情報を収集するというほどのことではない。大半の記事は読んでいないわけで、それを究極までもっていくと、読まないという選択になる。

山口
人間自体が呼吸のように情報を入れて代謝してということをやっているわけですが、入れる情報のタイミングをずらすことで何か変わるのかな、という実験をしている感じです。

楠木
それは面白い。要するに即時性を一度停止してみようという試みですね。僕もやってみようかな。

画像: 新聞について

SNSについて

楠木
広い意味での経営学者で唯一ノーベル賞を取ったハーバート・サイモン(※)という人が、「情報の豊かさが注意の貧困を作る」と言っています。これは至言だと思っていまして、人間の脳の処理量というのはほとんど変わらないとすれば、情報と注意はトレードオフの関係になる。入ってくる情報が多いと一つひとつの情報に注がれる注意が減少するのは当たり前の話。だとすれば、いかに注意を大切にするか、すなわち情報に触れる量を少なくするかが問題になります。注意を向ける対象の見極めがポイントになると思っています。その点で、僕にとっては最低最悪なのがSNSなのですが、周さんは、インプットとしてSNSは活用されていますか。

※ ハーバート・アレクサンダー・サイモン:1916年6月15日~2001年2月9日 米国の政治学者、認知心理学者、経営学者、情報科学者。大組織の経営行動と意思決定に関する生涯にわたる研究で、1978年にノーベル経済学賞を受賞した。

山口
いや、インプットには全く使っていません。僕のXのフォロワーは大体20万人ぐらいですが、フォローしているのは0で、主にご挨拶とか報告のための道具として使っています。年賀状をやめる代わりに「あけましておめでとうございます」とか、「おかげさまで本が増刷になりました」といったアウトプットに使っています。

楠木
僕のXにはそれほどフォロワーはいませんが、フォローしている人は同じく0です。僕はXをオンラインメディアに寄稿した記事の保存手段として使っています。あちこちに書いているとどこに何を書いたか分からなくなってしまうので。Facebookはどうですか。

山口
まったく使っていません。

楠木
僕も一刻も早くFacebookから離脱したいと思っているのですが、なかなかできません。バンドのライブの告知をする手段としてどうしても使ってしまう。そうすると、二人ともSNSをインプットに活用はしていないし、周さんはルーティンとして目を通すものはないということですね。

山口
ないです。

画像: SNSについて

インプットの7割は読書

楠木
ライフネット生命保険の創始者である出口治明さんは、インプットのソースで重要なのは「本と人と旅」の3つだと言われていました。ここからは、この3つのソースをそれぞれ順番に議論していきたいと思います。

山口
わかりました。

楠木
まずは本というテーマですが、僕の場合は仕事でのべつ幕なしに何かを読んでいます。論文を読まなければいけないとか、何かについて考えたくて経営学に関連する本を読むといったことは、日常業務の一部です。

山口
ちなみにそれは、日本語のものと英語のものと両方あるのですか。

楠木
論文はほとんどが英語ですね。書籍は日本語に翻訳されているものがあれば、日本語で読むようにしています。そのほうがラクなので。ただし、こういう仕事で読む行為を僕は「読書」の中に入れていません。仕事以外で本を読むのが僕にとっての読書で、1年間で大体300冊くらいになります。周さんは、自身のインプット全体で読書が占める割合はどれくらいになりますか。

山口
僕の場合はもう圧倒的で、インプットの7割は読書だと思います。本を年間何冊読んでいるかは、なかなか難しい質問で、本によっては一部しか読まないものもたくさんありますから。

楠木
僕の場合あまりそれがないのです。というのも、最初の数ページ読んで、これはダメだと思った本はすぐに読むのをやめてしまう。そこをクリアした本は大体最後まで読みます。

山口
ああ、そうですか。僕はまず、同時に読んでいる本の数がすごく多いです。たぶん延べでいうと、100冊ぐらい同時に読んでいる感じで、一部の本は読み始めたら全部最後まで読み切ってしまうけれど、一部の本はぱたっと止まって3年間ずっと置きっぱなしみたい場合がある。

楠木
でもそれは、俗にいう「積ん読(つんどく)」ではないですよね。

山口
そう、積ん読ではないんです。頭の中では、またどこかで続きを読みたいと思っている。場合によってはそのままさよならということもありますが。この間Amazonで買っている冊数を調べたら、400から500冊ぐらいを年間で購入していました。その中で最後まで読了しているのは、おそらく10分の1ぐらいだと思います。

楠木
僕も本は並行して読みますが、3冊くらいまでなんです。なぜかというと、脳の負荷の問題で重量級と中量級と軽量級の本を並行して読んでいく。重量級を読んでいて疲れると、中量級に切り替える。中量級に疲れると、軽量級で一息入れる。はたから見ると、ずっと読んでいるように見えるのですが。

山口
分かります、分かります。

楠木
読書の動機ということを考えると、僕の場合知識欲が旺盛なわけではありません。世の中にはまだ知らないことがいっぱいあるから、ぜひ知りたいということではないし、もっと軽い意味での情報の収集でもない。おそらく何か考える素材を常に欲しているので、考える素材収集というのが僕の読書の動機なのかなと思っています。周さんは、いかがですか。

山口
考える素材というのもなかなか広がりがありますが、僕の最大の動機は“謎解き”ですね。「あ、そういうことだったのか」と疑問が解けることが面白い。そして面白いことはやっぱ人に話して聞かせたくなる。一番はそこですかね。

楠木
それは僕も大いに共感します。「なるほど、そういうことか……」というのが読書の最大の喜びですね。これが仕事の原動力になっています。

第2回は、1月12日公開予定です。

画像1: 新春対談 知的インプット―その1
インプットの7割は読書

楠木建(くすのきけん)
経営学者。一橋大学特任教授(PDS寄付講座・シグマクシス寄付講座)。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。著書として『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』(2024年、日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(2022、講談社)、『逆・タイムマシン経営論』(2020、日経BP、杉浦泰との共著)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

画像2: 新春対談 知的インプット―その1
インプットの7割は読書

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

楠木特任教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

寄稿

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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