「第1回:日本でトップレベルに「M&A」を成し遂げている会社」
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「第3回:社会の果樹園の創造に向けてひた走る」はこちら>
世界で注目されるECロールアップ事業の先駆者
「弊社はEコマース(以下EC)領域のスタートアップで、2つの事業を展開しております。1つがCXといわれるコマーストランスフォーメーション事業。メーカーや小売業様向けの支援サービスです。弊社独自のECモール分析ツールを活用して、ECの立上げ、売上げ向上につながる施策立案から実行までを並走しています。
もう1つがECロールアップ事業です。Amazonや楽天など、主にECモール上で展開されているブランドのM&Aを実現し、グループ会社化し、ブランドの価値最大化を図る事業です。人的リソース不足、資金不足、マーケティングノウハウ不足等で悩まれている事業者様に対して、M&Aを通じてブランドを譲り受け、弊社で培ってきたノウハウやリソース等を活用し、ブランドの更なる価値向上を図ります。
ACROVEが手掛けるCX事業は主に月額課金制の形態で、年間契約を現在約200社と結んでいて、ECの売り上げ成長率は平均300%以上を達成しています。後者ECロールアップ事業は今まで13件のM&Aを実施しました。正確な数字はどの企業も明らかにしていないので、おそらくという表現で恐縮ですが、20代の経営者の中では小さいものも含めて、日本で一番勢いをもってM&Aを手がけていると思います」
荒井さんはハキハキとACROVEの現状について話を切り出した。なぜ、これだけ急拡大ができているのかについては、このように語る。
「ECの領域でしっかりとデータを使いながら、売上げを伸ばすツールはありそうでないんです。弊社の開発した『ACROVE FORCE』はそこが強みです。さらに、人の部分でECの売上げを伸ばしていくこともこの業界では稀です。例えば、メーカーでも小売業でも、EC部門に30-50人も割いている会社は日本で数十社程度。ほとんどの会社で専任担当者は1-2名です。さらにシステムもきちんと統合がされていないケースも多い。そうしたニーズに弊社が応えられているのも大きいです」
会社としての利益追求と、個性発揮の両立を目指す
創業から6年で、3人の社員から約200人に拡大を遂げたACROVEは、人材育成の観点でも、ユニークな取り組みをしている。個性と組織という相反するテーマについての考えを荒井さんに問うと……。
「会社として利益を出すことをもっとも重要視しています。そのために『人を人材にするのが経営者の役目である』と自分自身にいい聞かせています。スタートアップは優秀な人が集まっていればうまくいくだろうと思われがち。うちの社員も自信をもって優秀だと断言できます。ただ一方で、誰であっても利益を出せる仕組みを作ることが、経営者が優秀であるかどうかの指標になると考えています。経営者として、ACROVEに入社してくれた人たちが、より利益を上げやすい仕組みを作るのが大事です。
また、個性も重要です。営業が得意な方もいれば、広報、マーケティング、ファイナンスに向いた人がいます。経験もありますが、もって生まれた性格という軸も無視できません。そこは組織開発として力を入れています。例えば、16タイプに性格を見分け、採用の議事録にはどんなタイプかをメモし、次の採用面接の担当者とイメージが明確に共有できるように引き継ぐようにしています。その性格ならばこのポジションが向いているのでは?ということがわかりますし、本人がやりたいことと、自分の得意なことにギャップがあるのでは?といった指摘もできます。そうしたフィードバックを組織的に取り組んでいます。だからこそスピード感をもって人材を採用しているにも関わらず、離職率が低いのです。そこは誇れるところですね」
日本の事業承継問題に本質的に応えるECロールアップ
ACROVEがM&Aをするブランドには3つの共通点がある。それは、
1.ACROVEの既存ビジネスと親和性があるかどうか
2.ECで事業拡大を伸ばす戦略を描けるかどうか
3.魂の責任者がいるかどうか
同社がECロールアップ事業を展開したのは、先に開始したCX事業による売上向上支援での限界を感じたという理由がある。荒井氏には日本企業が抱える、「事業承継」問題に自身が貢献したい思いもモチベーションになっている。
「ECモール分析を活用して販売支援をしていたため、メーカーのお客様と事業に関して本音の話をすることも多くあります。その中で、特に中堅企業のお客様が事業承継のフェーズにあり、社長も高齢で『社業をこれからどうするか迷っているんだよ』と相談されることも多くありました。そこで、売上向上支援という社外からの働きかけでは、事業継続の抜本的な課題解決の一助となるには限界があると感じるようになりました。世界ではECロールアップというビジネスがあり、ECの文脈で事業を展開する弊社との親和性が高く、グループジョインをすることで本質的な課題を解決する方法として効果的だと思い、事業を展開するに至りました。日本が抱える人口減少、高齢化社会におけるつまるところ事業承継の問題にも応えられると思ったんです。国内の領域に限りますが、社長の平均年齢は60歳を超えています。後継者不在率も57%というデータがあります。現在20代の私が事業の譲受先となれたならば、今後30-40年は現役として事業を継続できます。そんな自分の強みと、マーケットから見た需要、世界的流れや日本社会の抱える課題が、非常にマッチしていると思えたことが、この事業に力を込める理由です。20代の自分がやるテーマとして非常にやりがいがあり、社会貢献に繋がると思いました」
そう語る荒井さんは、特に大事にしているM&Aに必要な条件をこう断言する。
「事業なので、そこに“魂の責任者”がいるかどうかです。そこは重要視しています。いい案件だと私が思っても、グループにジョインしていただく際に、我々の社内から『私がやります』と手が挙がらなければ、やるべきではないと判断しています。
責任者がいない事業はやっぱりうまくいきません。責任者が2人いる、トップが「やらされている」となった瞬間に事業は瓦解してしまいます。例えば、日本マクドナルドの創業者である故・藤田田さんは、最初から店長を大事にしていました。最近では、ユニクロの柳井正さんも店長あるいは、スーパーバイザーを大切にすることを強調されています。私もブランドリーダーは、店長であり事業責任者だと考えます。責任者がいなければ、弊社のM&Aは実現しないというのが決まりごとです」(第2回へつづく)
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荒井 俊亮(あらい しゅんすけ)
1996年東京生まれ。学生時代にACROVE(アクローブ)の前身となる株式会社アノマを創業。日本初のエンドウ豆由来のピープロテインブランド「anoma」を販売。2020年ACROVEに商号変更。2024年5月に、30歳以下の経営者に送られる「Forbes30 under 30 Asia」に選出される。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。