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日立製作所 加治 慶光 EXILE/EXILE THE SECOND 橘 ケンチ氏 日立製作所 馬島 知恵 澤 円
2024年2月29日、『デジタルの力が導く日本の未来 ~共にめざすSociety 5.0』をテーマに日立製作所主催のイベントを開催した。ゲストは、EXILE/EXILE THE SECONDのパフォーマーとして、また所属するLDH JAPANのSocial Innovation Officerとして活躍されている橘ケンチ氏。Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光の進行のもと、日立製作所 執行役常務 馬島知恵、Lumada Innovation Evangelistの澤円の4名で行われたトークセッション。イベント採録の第4回は、地域創生の成功事例からその共通点を探る。

「第1回:LDHの地域創生」はこちら>
「第2回:ビジネスとしての地域創生」はこちら>
「第3回:日立の地域創生」はこちら>
「第4回:成功事例の共通点」
「第5回:グローバルでのビジネス展開」はこちら>

人を通して解像度を上げる

加治
お二方とも、それぞれのアプローチで地域創生と取り組まれていることはよく理解できましたので、ここからはそれを成功に導くためのコツやヒントを探っていきたいと思います。ケンチさんがこれまでの取り組みから学ばれた共通点というか、これは絶対にはずせないポイントがあれば教えてください。

画像: 人を通して解像度を上げる


地域創生は、本当に地域ごとに特性が違えば悩みも全く違います。その課題を正しく理解するために重要なのは、人と人とのつながりだと僕は思います。地域を知るためには、できるだけ人とつながって、いろいろな話をして、そこから学ばせていただく。僕の場合、それはどこでも共通です。例えば東日本大震災のあとに、僕は宮城県気仙沼市にご縁があって、実際に訪ねたり、知りあった方々と何年かやりとりをさせていただきました。その後都内で開催されたあるイベントに参加した時、気仙沼ニッティングの代表である御手洗さんと偶然知り合うことができました。

気仙沼ニッティングは、気仙沼の女性の編み手さんが編んだニットのセーターやカーディガンを販売している会社です。彼女は震災後の女性たちにとって、みんなでコミュニケーションを取りながら編み物をすることが、どれだけ女性の心を癒したのかを語られました。そういう方が気仙沼をベースに、世界に向けて気仙沼ならではのプロダクトを販売されていること。被災された場所から新しい仕事が生まれていることに僕は大きな希望を感じましたし、気仙沼という地域をさらに深く知ることができました。

加治
気仙沼ニッティングの本を読みますと、気仙沼は遠洋漁業のまちで、漁に出かけて旦那様が居ない時に漁網を修繕するという習慣があって、それが編み物に役立つのではないかということで手編みのプロジェクトがはじまったそうです。まさに埋もれた地域の宝を、代表の御手洗瑞子さんは見つけられた。地域創生のお手本となる事例だと思います。澤さん、いかがですか。


僕はPDCAと並び称されるOODAループが好きなのです。Observe(観察)、Orient(方向付け)、Decide(意思決定)、Action(行動)というフレームワークで、「まず観察をしなさい」という考え方です。現地に行って観察することで、地域への解像度が上がる。ここが何より重要なポイントだと思います。

地域創生の成功事例

加治
馬島さんはさまざまなプロジェクトに参加されていると思いますが、成功につなげる共通点みたいなものはありますか。

馬島
私たちのチームはもう10年以上も地域創生に取り組んでいて、かなり失敗もしてきました。その経験から、成功に必要な要素は4つのポイントに整理できると考えています。1つ目は、ケンチさんが話されていた「人の関係」です。2つ目は「テーマ」で、まさに気仙沼ニッティングのように地域の特性に合ったテーマを設定することが大切です。3つ目は「投資のレンジ」です。こういった取り組みというのは長い時間が必要ですから、最低でも3年ぐらいのレンジで投資していく必要があります。4つ目は、「住民の共感」です。地域の主役である住民の方に共感していただいて、これは一緒にやろうと腹落ちしてご参加いただける仕組みを作れるかどうか。この4つが地域創生を成功に導くポイントだと思います。

加治
その具体的な成功例がありましたら、紹介していただけますか。

画像1: 地域創生の成功事例

馬島
それでは2014年から三井不動産様と一緒に取り組んでおります、千葉県柏市「柏の葉スマートシティ」の事例をご紹介します。先ほどの4つのポイントに重ねてご説明したいと思います。まず「人との関係」ですが、このプロジェクトでは三井不動産のトップの方にコミットしていただけたこと、そして専任部隊を作っていただいたことが非常に重要でした。次に「テーマ」は、エネルギーマネジメントです。これは東日本大震災の数年後ということで、グリーンエネルギーが非常に注目されていました。「投資のレンジ」という面でも、三井不動産様は長期レンジでの取り組みの必要性を熟知されていました。「住民の共感」という意味では、高い意識を持ったまちづくりの組織が住民の方々とのハブになり、それぞれのステークホルダーと意見を交わすシステムが機能しました。この事例は、全国のスマートシティの先駆けであり、大きな注目を集めました。

加治
日立市も柏の葉も大変素晴らしい取り組みだと思いますが、どちらもスケールの大きなプロジェクトです。もう少し規模の小さい、私たちにも身近な課題を解決した事例があればご紹介していただきたいのですが。

画像2: 地域創生の成功事例

馬島
それでは人口約7万5,000人の北海道岩見沢市で取り組んでいる事例をご紹介いたします。岩見沢市は非常に出生率が低いことに加えて、生まれた時の赤ちゃんの体重が少ない低出生体重児という課題があることが、北海道大学と日立の調査で明らかになりました。そこで、まずお母さんが妊娠をされてからの健康状態を調べ、妊娠期の食事の指導など森永乳業様など地元の企業と一体になってケアする取り組みを行いました。その結果、2015年の調査では10.4%だった低出生体重児の割合が、2019年には6.3%まで改善しました。

加治
これはわかりやすい事例だと思います。ケンチさんも、何か良い事例があればご紹介いただけますか。


これも福井県の事例なのですが、福井市の東部に美山地区というところがあります。もともと林業が盛んなエリアだったそうですが、最近では後継者不足が深刻な課題となっていました。この課題に対してLDHは、ショートムービーを作ることで林業を再認識してもらうというアイデアで取り組むことにしました。都会から、林業に魅力を感じた若者が美山地区に移り住み、実際に林業を学んでいくというストーリーなのですが、主人公に林業を教えるのは美山地区で実際に林業をされている本物の皆さんという、ドキュメンタリーとフィクションが半々のショートムービーを制作しました。地元の人たちにご協力いただいて、その地域を舞台に主人公の俳優が演じるというやり方は、今後は他の地区でも展開する予定です。

加治
それはLDHさんならではの表現であり、地域創生の新しいアプローチですね。馬島さんとケンチさんからそれぞれの取り組みをご紹介いただきましたが、澤さん、いかがでしょう。

画像3: 地域創生の成功事例


岩見沢市の事例は、まさに地域への解像度を上げてしっかりと観察をした結果ですよね。人口減少だけだと日本全国、あるいは先進国の問題としか認識されないので、あまりに粗過ぎる。でも目を凝らすと、低体重の出生が多いことが見えてくる。解像度を1段上げると、解決へのアプローチが明確になります。また、LDHさんのショートムービーのような新しいことは、必ずうまくいくとは限りません。でもフェイルファストで、失敗を糧に次のステップに生かすということの方が重要で、それがわかっているからLDHさんは積極的に新しいチャレンジができるのでしょう。(第5回へつづく

「第5回:グローバルでのビジネス展開」はこちら>

画像1: デジタルの力が導く日本の未来 ~共にめざすSociety 5.0 ~
【第4回】成功事例の共通点

橘 ケンチ(Tachibana Kenchi)
2007年に二代目J Soul Brothersのメンバーに抜擢され、2009年にEXILEに加入。EXILE/EXILE THE SECONDのパフォーマーとして活躍する傍ら、ライフワークとして日本酒の魅力を発信。多くの実力派酒蔵や醸造家とコラボを実現している他、2023年SAKEの魅力を網羅した書籍『橘ケンチの日本酒最強バイブル』(宝島社)及び処女小説『パーマネント・ブルー』(文芸春秋)を上梓。2018年13代酒サムライ、2021年福井市食のPR大使に就任。2023年10月より所属するLDH JAPANのSocial Innovation Officerに就任。

画像2: デジタルの力が導く日本の未来 ~共にめざすSociety 5.0 ~
【第4回】成功事例の共通点

馬島 知恵(Mashima Chie)
1989年、日立製作所入社。2018年、社会ビジネスユニット 公共システム営業統括本部 営業統括本部長。2019年、理事/日立オーストラリア社 社長。2023年4月、執行役常務 営業統括本部副統括本部長 兼 デジタルシステム&サービス担当 CMO兼 社会イノベーション事業統括本部長。

画像3: デジタルの力が導く日本の未来 ~共にめざすSociety 5.0 ~
【第4回】成功事例の共通点

澤 円(Sawa Madoka)
株式会社日立製作所 Lumada Innovation Evangelist。株式会社圓窓 代表取締役。元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。武蔵野大学 専任教員。SBテクノロジー株式会社 社外取締役。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年に大手外資系IT企業に転職。情報共有系コンサルタントを経てプリセールスSEへ。最新のITテクノロジーに関する情報発信の役割を担う。2006年よりマネジメントに職掌を転換し、ピープルマネジメントを行う。

画像4: デジタルの力が導く日本の未来 ~共にめざすSociety 5.0 ~
【第4回】成功事例の共通点

加治 慶光(Kaji Yoshimitsu)
株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

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ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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