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山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー/岸見 一郎氏 哲学者
みずからの経験から、確信をもって訴えたことは必ず共感者が現れると語る山口氏の言葉に、岸見氏は、心の中の理性は広く人類とつながっているはずであると応じる。また山口氏は言葉を丁寧に扱うことの大切さを指摘する。

「第1回:自由と責任を引き受けるということ」はこちら>
「第2回:人類を信頼して、声を上げる勇気を」はこちら>
「第3回:孤立はしても孤独ではない」はこちら>
「第4回:私はあなたである」
「第5回:人は生きているだけで価値がある」

共感者は遠くから見つけてくれる

山口
私はアメリカの思想家、ラルフ・ワルド・エマーソンの「内心にひそむ確信を語れば、それは普遍に通ずる」という言葉を座右の銘のように思っているのですが、これは「世界を変えるのはわたし」という岸見先生のお言葉と通じるものがあります。私自身、2017年に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』を上梓したことで、その言葉の意味を実感させられています。その本は、ビジネスの世界であまりにもみっともないことばかりが行われているという問題意識から、価値判断の基準に美意識を持ち込むべきだということを訴えるために書いたものです。今にして思えばよくあんなことを書いたもので、編集者からも部数は期待できないだろうと言われましたが、蓋を開けてみたら今のところ私の著作の中ではいちばん売れています。世の趨勢から逸脱するようなことであっても、「これが大切なんだ」と確信をもって発言すれば、共感してくれる人が遠くから見つけてくれるものなのですね。

岸見
その遠くから見つけてくれるというのがポイントだと思います。

山口
物理的に離れていても精神的にはつながっている人がいる、つまり孤立はしても孤独ではないと信じることができることが、先生のおっしゃる「勇気」につながるのだと思います。アルベール・カミュが『反抗的人間』の中で、人は不条理に反抗することによって同じ反抗する人間と連帯することができると説き、デカルトの言葉をもじって「我反抗する、ゆえに我らあり」と書いています。この言葉も同じ意味ですね。
そのような反抗する勇気、連帯の感覚が持てるようにするには、教育のあり方も関わってくると思うのですが、今の教育はなかなかそうなっていない。

岸見
そうですね。反抗による連帯の経験をしている学生も、さらに言えば教師も、最近は少なくなっているのではないでしょうか。
「内心にひそむ確信」というのは、「理性」あるいは「人間性」のことです。フロムは「人間性」を「内なるヒューマニティ」と言い、その「内なるヒューマニティ」に対して「外なるヒューマニティ」を「人類」であるとしています。フロムが言うように、人は複数の共同体に所属しながら、同時に人類という共同体の一員です。だから、心の中の理性は広く人類とつながっていて、遠くから見つけてくれるのです。フロムの言葉を借りれば「私はあなたである」ということです。そうした確信を持てるようにするには、やはり学びが必要です。周りの人の思惑や多数者の意見に左右されず、本当にこれが正しいと思うことを主張できるような学び方を学生時代からしておかないといけないはずなのです。

画像: 共感者は遠くから見つけてくれる

言葉を大切に扱うことの大切さ

山口
ただ、『嫌われる勇気』の中で哲人が語っていたように「何歳からでも人は変われる」ものですから、学生時代に学ばなかった人も手遅れではありませんよね。昨今、人文科学は役に立たないなどと言われますが、ヒューマニティのベースとして欠かせないものだと思います。人工知能や生命科学などのテクノロジーの急速な発展にルールが追いついていない現代の社会では、組織においても個人においても、それらをどう使うべきか、何をすべきで何をすべきではないのかを自分のアタマで考え、判断する能力が重要になっています。だからこそ、哲学や心理学を学ぶことの意味合いがますます深まっていると思うのですが、先生はどのように思われますか。

岸見
リーダー研修などで、ビジネスパーソンに真正面から哲学の本を読みなさいと言ったことはありませんけれど、哲学を学んでほしいという思いはいつも持っています。近頃は手っ取り早く知識や正解を得ようとする風潮があり、世の中には「答えのない問いがある」ということすら知らない人が多いことが気がかりです。哲学を学ぶ大きな意味の一つは「無知の知」、自分は何も知らないと自覚することにあります。
基本的に哲学とは「こうあるべきである」ということを考えるもので、現状を事後的に解明する学問ではありません。現実主義が事後(post rem)と言われるのに対して、理想主義は事前(ante rem)と言われます。こうあるべきだという理想を掲げることで初めて人はそれに近づくべく努力できるのです。

山口
岸見先生のご著書はとてもわかりやすく書かれていますから、これまで哲学に親しんでいなかった方々の入り口として最適だと思います。そして、言葉というものをとても大切に扱っていらっしゃるのも印象的です。
私も企業のリーダー育成などに関わっていますけれど、リーダーの言葉の重要性というものを意識していない方が多いですね。行動で示すだけでは伝わらないことが多く、また言葉を雑に扱えばさまざまな齟齬や感情的なもつれを引き起こし、精密な組織はつくれません。ですから言葉を丁寧に使うということを意識してほしいと思っているのですが、先生のご著書は、自分が言葉を乱雑に扱っていることを自覚するためのよいテキストでもあると思います。そこはやはり意識されていらっしゃるのですよね。

岸見
もちろんそうです。おっしゃるように、言葉をぞんざいに扱っている人があまりにも多いので、きちんと使ってほしいということは常に思っています。山口さんが『ニュータイプの時代』などで書かれていたように、「要するに◯◯でしょ」と人の話をまとめてしまうビジネスパーソンも多いですね。それは自分の言葉だけでなく相手の言葉も丁寧に扱っていないことの現れだと思います。世の中には「まとめられないこと」がたくさんあるはずです。

山口
「要するに」でまとめてしまうのは、ダウンローディングという浅い聞き方で、相手の話を自分の中のパターンにあてはめて理解しているつもりになっているにすぎません。新たなものの見方を獲得して自分が変わったり、理解を広げたりする契機を逃してしまうことになりますね。(第5回へつづく

「第5回:人は生きているだけで価値がある」はこちら>

画像1: 自分の人生を生きる
ソクラテス、アドラー、フロムに学ぶ「勇気」
【その4】私はあなたである

岸見 一郎(きしみ いちろう)
1956年京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。奈良女子大学文学部非常勤講師などを歴任。
著書に『嫌われる勇気』、『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『生きづらさの克服』(筑摩書房)、『叱らない、ほめない、命じない。』(日経BP)、『三木清 人生論ノート』(NHK出版)、『エーリッヒ・フロム』(講談社)、『つながらない覚悟』(PHP研究所)、訳書にアドラー『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)『ソクラテスの弁明』(KADOKAWA)など多数。

画像2: 自分の人生を生きる
ソクラテス、アドラー、フロムに学ぶ「勇気」
【その4】私はあなたである

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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