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事業所の枠を超えて、ステークホルダーと連携しながらGX実証を展開しているのが「大みかグリーンネットワーク」の特徴だ。今回は、地域や自治体、金融機関などとのコラボレーションを通じて、脱炭素社会の実現をめざす協創活動の成功例を紹介したい。

「第1回:世界をリードする先進の“総合システム工場”をめざして」はこちら>
「第2回:事業成長と脱炭素を両立するために」はこちら>
「第3回:大みか事業所の多彩な実証プロジェクト」はこちら>
「第4回:脱炭素へ向けたステークホルダーとの協創」
「第5回:さらなる協創を広げて、共に脱炭素社会へ――」はこちら>

大みか事業所をハブに、脱炭素化をはじめとする数々の実証を展開する「大みかグリーンネットワーク」。このプロジェクトの大きな特徴が、事業所で完結することなく、「地域」「サプライチェーン」といったフィールドで、さまざまなステークホルダーと環境価値を協創しながら、多岐にわたるGX実証の推進です。

地元企業や自治体、パートナー企業、金融機関などと連携しながら広がる大みかグリーンネットワークの取り組み。そうした協創の広がりは、地域における再生可能エネルギー利用拡大やサプライチェーンにおけるカーボンニュートラル達成といった目標を着実に引き寄せています。

協創の輪に、すべてのステークホルダーを

――「大みかグリーンネットワーク」を、地域やサプライチェーンにまで広げている目的や意義についてお聞かせください。

松本
脱炭素社会の実現に向けたカーボンニュートラルの取り組みは、一企業の枠を超えて社会全体で取り組んでいくべき課題です。だからこそ、さまざまな立場のステークホルダーとの協創を通した拡張性や発展性は、プロジェクトに不可欠な要素と言えます。

一方で、取り組みの対象領域が幅広いこともあり、大みか事業所単体で対応することもできません。こうした状況を打開するために、サプライヤーや地元企業、金融機関や自治体、テクノロジー企業、教育・研究機関など、幅広いパートナーと環境課題を共有して、総合的視点から脱炭素化に向けた最適解を創出していきたいと考えました。

画像1: ――「大みかグリーンネットワーク」を、地域やサプライチェーンにまで広げている目的や意義についてお聞かせください。

沖林
それに、地域・企業間、産官学金など多様な関係性を通じて、より大きな規模で実証や施策を展開できる点は、協創プロジェクトの大きな優位性です。ただしその際には、状況も事情も異なる複数のステークホルダーと課題認識を共有できるか、皆で方向性と足並みをそろえてプロジェクトを前に進められるか、といった点に留意する必要があります。

そういう意味では、日立市などの自治体や官公庁の方々には積極的に協力していただけるのですが、地元企業を含めた地域全体で取り組むためには、今後も各方面への粘り強い働きかけが必要だと感じています。

画像2: ――「大みかグリーンネットワーク」を、地域やサプライチェーンにまで広げている目的や意義についてお聞かせください。

――どのように多くのステークホルダーをまとめてプロジェクトを推進していますか。

松本
企業にとっては設備投資なども必要になる取り組みですから、予算や融資といった財政上の課題に関する議論を深めていくことは肝要です。加えて、まず環境投資の短期的な成果をステークホルダーに提示すること、さらにそれを中長期的にも効果性の高いソリューションサービスとして展開するための体制作りも重要になります。

縦横に広がる協創で、脱炭素化を加速する

――ステークホルダーとの協創活動には、どのようなプロジェクトがあるでしょうか。

沖林
代表的なものに、日立市や地域の企業などと立ち上げた「日立市・中小企業脱炭素経営促進コンソーシアム」があります。

日立市全体のCO₂排出量のおよそ2/3は地元の製造業に由来するもので、さらにその半分は中小企業の事業活動から発生しています。そこで私たちはこのコンソーシアムを通じて、排出量算定やデジタル技術による仕組み作りを提案する活動を推進しているところです。

本プロジェクトではまず、日立の環境情報管理サービス「EcoAssist-Enterprise」を活用してCO₂排出量を可視化するシステムを構築しました。そのうえで、中小企業によるCO₂排出量の把握からCO₂削減計画の立案・進捗管理までを、日立市と連携してコンサルティングなども交えながらサポートしています。

画像: 日立市の中小企業脱炭素見える化の取り組み

日立市の中小企業脱炭素見える化の取り組み

――中小企業では、環境投資のためのファイナンスの裏付けも重視されるのではないでしょうか。

沖林
実際このコンソーシアムにも地域の金融機関が参画しており、GXのための融資のほか、ESG投資からの環境経営開示に対するサポートといった重要な役割を担っています。
また、主体的に地域の脱炭素化に強くコミットしている金融機関もあります。株式会社 滋賀銀行は地域経済の要となる地域金融機関として、その取引先である中堅・中小企業の脱炭素化を支援するクラウドサービス「未来よしサポート®」を日立と共同開発しました。このサービスは、企業全体のCO₂排出量を可視化し、削減目標の設定や削減計画の進捗管理などをサポートするものです。

それまで中堅・中小企業にはハードルの高かった脱炭素経営を、低コストで効果的に支援する画期的なサービスとして地元企業から好評をもって迎えられ、各方面から大きな注目を集めています。なお、このサービスのベースとなったのは、やはり前述の「EcoAssist-Enterprise」です。

画像: 滋賀銀行のCO₂排出量管理ツール「未来よしサポート」

滋賀銀行のCO₂排出量管理ツール「未来よしサポート」

松本
こういったサービスを通じて、中堅・中小企業のみならず、多くのサプライヤー企業を擁する大手メーカーとの接点が新たに生まれることも期待しています。サプライチェーンの上流・下流を対象とするCO₂排出量削減まで求められる中、自社だけでなく取引先である中堅・中小企業の脱炭素化も重要な経営課題となっていますので。(第5回へつづく

※ 「未来よしサポート」は、株式会社 滋賀銀行の商標または登録商標です。

大みかグリーンネットワーク

「第5回:さらなる協創を広げて、共に脱炭素社会へ――」はこちら>

画像1: サプライチェーン全体のカーボンニュートラルをどう実現するか
【第4回】脱炭素へ向けたステークホルダーとの協創

松本一人(まつもと かずひと)
株式会社 日立製作所 制御プラットフォーム統括本部 事業主管 兼 大みか事業所長
1996年、日立製作所 大みか事業所に入社。産業用コンピュータ・プラント制御用コントローラなどの設計開発に従事。2017年からは社会インフラ向け保守サービス事業の立ち上げに注力。2019年からは発電制御システム本部長に就任し、電力分野へのDX/GX導入を推進。2023年より現職。

画像2: サプライチェーン全体のカーボンニュートラルをどう実現するか
【第4回】脱炭素へ向けたステークホルダーとの協創

沖林久徳(おきばやし ひさのり)
株式会社 日立製作所 制御プラットフォーム統括本部 サービス・制御プラットフォームシステム本部 GX事業推進部 部長
2005年、日立製作所 大みか事業所に入社。鉄道運行管理システムのほか、社会インフラシステム向け共通基盤・情報制御LANの設計開発に従事。2017年からは大みか事業所内で20年来実践してきた高効率生産モデルをベースとする生産改革ソリューションの対外発信・外販化に注力。2019年からは中国市場における製造業向けデジタルソリューション事業の立ち上げに参画し、グローバルな製造DX・IoTビジネスを経験。2023年より現職。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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