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今年6月、『「変化を嫌う人」を動かす』(原題:『The Human Element』)の著者、デイヴィッド・ションタル氏の講演イベントが渋谷で開催された。運営の中心は、日立グループの社内ネットワーク活動「Team Sunrise」。メンバーの1人として、イベントを企画するなど“プロデューサーシップ”を発揮した日立製作所の船木謙一こそ、同書を日本に紹介するために奔走したキーパーソンだった。

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「第1回:15年目を迎えた、日立の社内ネットワーク活動」はこちら>
「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>
「第3回:思考停止からの再起動」はこちら>
「第4回:コロナ禍で挑む『イノベーションのDX」」はこちら>
「第5回:Team Sunriseはなぜ続くのか」はこちら>
「第6回:イノベーションの原動力」はこちら>
「第7回:米国ベストセラー『The Human Element』を、日本に。」

イノベーションの創出を阻む「見えない重力」

Team Sunriseの草創期から活動に関わってきた、日立製作所の船木謙一。1993年の入社以降、生産技術の研究者としてキャリアを積んできた。日立や顧客の工場に、新たな技術を用いた生産管理や業務効率化の手法を提案し続け、手掛けた改革プロジェクトは15を数える。さまざまな組織に触れるなかで、ある問題意識が船木に芽生えていったと言う。

「新しい手法や技術の導入に激しく抵抗なさる方をたくさん見てきました。そういう方に対してわたしは、自分のアイデアがいかに役に立つかを一生懸命アピールしてきたのですが、かえって採用されなかったケースのほうが多いのです。翻って普段の生活を振り返ってみても、新しいデジタルテクノロジーをすんなり受け入れる人がいる一方で、導入に慎重な人、なかには抵抗すら示す人もいます。新しい物事への抵抗は、日立のビジネスだけでなく日本全体の問題なのではないか――そんな考えに至りました」

画像: 日立製作所 船木謙一

日立製作所 船木謙一

船木は現在、イノベーション成長戦略本部コーポレートベンチャリング室の室長を務めている。新たな技術やビジネスモデルで社会や産業の課題に挑戦しているスタートアップに投資し、新規事業開拓や顧客への新たな価値提案を支援している。

「たとえ世界に名だたるイノベーターが生み出した技術であっても、みんながすんなり受け入れるとは限りません。やはり抵抗が生じるわけです。どうすれば抵抗を乗り越えられるだろうか――悩んでいたときに、デイヴィッド・ションタル先生が書かれた『The Human Element』に出会ったのです」

『The Human Element』日本語版への道のり

2021年10月、『The Human Element』が「ウォールストリート・ジャーナル」誌で2週連続ベストセラーに選定され、SNSで話題になっていた。船木はちょうど海外出張の折り、現地で同書を購入し機内で一気に読み進めたと言う。

「『自分のアイデアは素晴らしい』と思って一生懸命売り込むこと自体が間違いである。ステークホルダーの立場に寄り添い、『なぜ相手は抵抗するのか』を考える視点が大切である――そう書かれているのを読んで、『ああ、まさにそのとおりだ』と」

ぜひ、この本を日本に紹介したい――思い立った船木はすぐ、著者の1人であるションタル氏にメールを送った。

画像: デイヴィッド・ションタル氏

デイヴィッド・ションタル氏

すぐに快諾の返信があり、出版元の編集担当者を紹介された。しかし、ここからが長かった。まず、日本語版を刊行してくれる出版社を探さなくてはいけないが、個人による持ち込み企画を受け入れる出版社はごく少数に限られていた。最終的に船木が企画を持ち込んだ先が、草思社だった。

この本が日本社会に与えるインパクトを即座に理解した草思社は、船木の企画を受け入れた。しかし、洋書の日本語化にあたっては、翻訳権を獲得するための長いプロセスを経なければならない。幸いにして、『The Human Element』に着目していた出版社はほかになかったため、日本語への翻訳権を争うことなく、草思社が出版元と契約するに至った。そこから翻訳者の選定と翻訳作業に数カ月。船木による監訳作業に数カ月。ようやくにして日本語版『「変化を嫌う人」を動かす』が出版されたのは今年2月のことだった。船木が初めてションタル氏とコンタクトをとってから実に1年半が経過していた。

画像: 『The Human Element』日本語版への道のり

「組織知」を生み出す場として

日本語版の出版から2カ月後の4月。船木はTeam Sunrise代表の佐藤雅彦に今年6月のションタル氏の来日に合わせた講演イベントの企画を提案し、協力を得る。この時期での開催にこだわった理由を船木はこう明かす。

「ションタル先生はもともと日本のビジネスへの関心が高く、なかでも事業会社で新規事業開発に苦労しているビジネスパーソンに『The Human Element』のエッセンスをアピールしたいという意向をお持ちでした。その思いにいち早くお応えしたかったのです」

こうして6月23日に実現した「デイヴィッド・ションタル教授講演会」には、日立だけでなく大手IT企業や製造業でイノベーション創出に日々取り組むビジネスパーソンが集った。「まさに、あの本を読んでほしい方々にお集まりいただけました」と船木は手応えを口にする。

「大切なのは、そのあとです。講演の場では『うんうん、そうだよね』と納得しても、肝心の仕事や生活に生かせない――そんなケースがほとんどだからです。ションタル先生の本は一種のハウツー本ではありますが、書かれている内容は“How to do”ではなく“How to think”です。それだけに、継続的にトレーニングして実践を積んでいかないと、仕事にも生かせません。実は今、日本のいくつかの企業で、同書を従業員向けの指定図書とする、あるいは従業員教育に活用するという動きが出てきています」

画像: ションタル氏のイベントで語る船木

ションタル氏のイベントで語る船木

Team Sunriseの発足当初から活動に関わってきた船木。最近は直接活動に参加する機会こそ減ったものの、同僚にTeam Sunriseへの参加を勧めることもあると言う。

「今、さまざまな面で時代の変わり目だと思うのです。例えばテクノロジーの面では、数年前にはWeb3やメタバース、今は生成AIなど、新しい技術が次々に生まれています。一方で個人レベルでも、きっと日々さまざまなアイデアが生まれているはずです。社会課題が生じたときに、それぞれが知恵を出し合うことで新たな行動を起こし、困難を乗り越えていく。同じ志を持つ人同士が組織の違いを超えて、新しいムーブメントを起こす――。そのための『組織知』を生み出す場として、Team Sunriseが進化していくことを望んでいます」

次回は、船木の企画の実現を支えた“サポーター”の1人として「デイヴィッド・ションタル教授講演会」で通訳を担当した、郷家達也に話を聞く。

「第8回:グローバルマインドセットと英語力」はこちら>

画像: イノベーションを育てる社内ネットワーク「Team Sunrise」
【第7回】米国ベストセラー『The Human Element』を、日本に。

船木謙一(ふなき けんいち)

株式会社日立製作所 イノベーション成長戦略本部 コーポレートベンチャリング室 室長
1993年日立製作所入社。産業機械、情報機器、電子部品、日用品、アパレルなど複数業種で、業務プロセス刷新や新システム導入を伴う15の改革プロジェクトを経験。近年は研究や事業開発のオープンイノベーションとして、スタートアップとの協創を促進している。改革とオープンイノベーションに共通する鍵は、人々が変化を受け入れるか否かであるという結論に至り、『「変化を嫌う人」を動かす』(草思社,2023年)を監訳。経営工学分野で著述、講演、各種受賞、客員研究員、非常勤講師など。2019年より現職。博士(2001年、工学)。公益社団法人日本経営工学会副会長。

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