「第1回:小さな挑戦から始めて、壮大なイノベーションを起こす」はこちら>
「第2回:シリコンバレー研修で、must haveな事業に目覚める」はこちら>
「第3回:LaaSをイノベーションとして花開かせたい」
「正しさよりも楽しさ」を追求したい
株式会社Gab代表取締役CEOの山内萌斗氏は、これからの事業についてこのように展望してくれた。
「『清走中』はゴミ拾いをエンタメ化することが、一番大事な軸だと考えています。『ゴミ拾いは宝探しと同じだ』と強く認識してもらいたいのです。そして、『正しさよりも楽しさ』を追求していく。実際にこのイベントに参加していただくとわかりますが、予定不調和に落ちているゴミを見つけることが一番楽しいんです。そこにポイントを紐付ければ、ゲーム性も担保できます。例えばチーム戦で競えば、『ゲーミフィケーション×社会課題解決』が実現できると思っています。
ただ、難しい言葉を使わずに、とにかく楽しいっていうその一点で人とゴミを集められることがこのイベントの強みだと考えています。それを追求した先には、全国にいるゴミ拾いに無関心な人たちも巻き込んで、ポイ捨てという社会課題を解決する道につながるんじゃないかと思っています」
「シンプルに、捨てられるゴミの総量よりも拾われる総量が増えれば、ゴミのポイ捨てはなくなる」と山内氏は確信している。「清走中」の進化形が常時生まれるような仕組みまで昇華させることが今後の課題だ。
「今はイベント形式ですけれども、アプリ化したり、コンビニと提携してゲームキット化したりという可能性もあると思っています。コンビニを起点に街歩きをしてもらいながら、ゴミ拾いをして回るというゲームもできる。コンビニを拠点にゴミ回収のインフラをつくることもできるでしょう」
まずは国内でポイ捨てがゼロになる仕組みを実現できたら、世界に進出もできるのではないかと想像を膨らませている。
「世界には、めちゃくちゃポイ捨てがひどい街があります。そこに『清走中』のコンテンツを展開していくことができれば、<ゲーミフィケーション×ゴミ拾い>で世界中のポイ捨てがゼロになる可能性だってあります。さらに、ゴミを拾う人たちの収入の道になればいいですね。北村のアイデアなのですが、ゴミ拾いをすると地域のお店や管理者から感謝されますよね。それをうまく活用して、拾った人が地域クーポンを貰えるなどのインセンティブ設計も可能だと思っています」
具体的にどの都市に可能性があるのかはこれからのリサーチだそうだが、日本の都市と似た環境の街は世界中に存在している。ちなみに、北村氏はフィリピンに視察に訪れているという。
「LaaS」はイノベーションの可能性を持つ
「『ポイ捨て撲滅』から始まり、『エシカルな暮らし』を形にしてきてたどり着いたのが“LaaS”という概念です。これはイノベーションにつながるのではと思っています。
LaaSは、リアルな店舗を通じて実装していくものです。店舗スタッフと出店メーカーや商品ブランド、お客さまの垣根をなくし、全員がラボ、つまり実験室のメンバーの一員として、より良い商品開発のために協力し合う空間です。新しいモノづくり、売り方をみんなで模索する、コミュニティ型の実店舗と言えます」
インスタグラムで発信してきたメディアアセットを使いながら、一気に商品情報を拡散し、消費者の声を商品にフィードバック。そのプロセスを通じて、どんどん商品の透明性が担保されることにより、より良い商品開発につながる流れが生まれる。
「さまざまな商品ブランドに、登竜門として僕らの『エシカルな暮らしLAB』を使ってもらいたい。エシカル関連商品は、まだまだ市場も小さいですし、商品として改善できる点はたくさんあります。そこを当社が全力で伴走しながら、素晴らしいプロダクトをたくさん作っていきたい。消費によって社会課題を解決していければと考えています。
将来的には、自分たちが得たデータをもとに、『エシカルな暮らし』プライベートブランドを立ち上げて、取引先にOEMで発注する。取引先と一緒に僕たちがスケールしていき、より良い商品に進化させていく。『エシカルな暮らし』ブランドの商品群がすべての人に届くような活動を続けて行きたいですね」
イノベーションの敷居を下げる3つのポイント
最後に山内氏から、経営者としての活動を通じて確信した、「イノベーションを起こすために必要なこと」を教えてもらった。
「イノベーションの敷居を下げるためには3つのポイントがあると思います。最初の取り組みで大事なのは、絶対にブレない方向性や志だけなんです。すごいイノベーションを起こそうと具体的なサービスを考えても、仮説検証とともにサービスの形は変わるもの。“形”は変わっても“志”は変わらない。これが大事です。絶対ぶれない軸は最初に必要ですが、“サービスの形”、“アウトプット”は変わるものという前提を持っておくと、挑戦しやすいと思っています。ブレない方向性や志の具体期な見つけ方は、前回、前々回の記事でお話したこれまでの僕の原体験エピソードをぜひ参考にしてください。
2つめは、実践を通じて高速でPDCAを回し、仮説の解像度を高め、最適解を追求していく思考です。立ち上げと同時にサービスの方向性はある程度具体的に決めますが、サービスのあるべき姿の解像度が明確になるのは実践の中でしかあり得ません。リリースしてから実際にお客さまに利用していただき、仮説の確からしさを検証。これをひたすらに繰り返すことで、サービスのあるべき姿に近づいていくのだと思います。
3つめは、情熱だけは絶えず持ち続けて、3年間は決して諦めないことです。『石の上にも三年』と言う言葉があるように、周りの起業家を見ていても3年続けられた人は何かしらの成果を得ている傾向があります。ブレない軸をベースにサービスの内容を決める時も、情熱を絶やさないような、自分の気質にあったトピック選びを意識し、とにかく3年間は一つの挑戦に対して向き合い続けることが一番大切だと思っています。」
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山内 萌斗(やまうち・もえと)
株式会社Gab 代表取締役CEO
2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中。東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表。大学1年次の2月にシリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意し、同年12月に「ポイ捨てをゼロにする。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。現在4期目。フォロワー4万人のInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の運営や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」の全国展開など、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる」をミッションに掲げて複数の事業を展開中。
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