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株式会社 製作所 サービスプラットフォーム事業本部 場家康雄/森岡俊行
「本質的には、日本の産業の発展に貢献したいというのが我々の思いです」。日立の森岡俊行が発したこの言葉に、サプライチェーンコーディネーションサービス構想に込められた日立の意図が集約されている。それを象徴する取り組みの1つが、ユーザー企業によるコミュニティ構想だ。

「第1回:ESGリスクと過剰在庫問題」はこちら>
「第2回:サプライチェーンのデジタルツイン」はこちら>
「第3回:新たな取引先と出会える場」

フレキシブルな企業間取引をもたらすオープンコミュニティ構想

場家
実は今、サプライチェーンコーディネーションサービスの基盤である「TWX-21」のユーザー企業を中心にしたコミュニティ構想について検討を重ねているところです。

実績ある企業が有形無形のトラストを持ち寄り、バイヤーとサプライヤー同士がマッチングできる、そんな場にしたいと考えています。バイヤーとしてはトラスト評価の高いサプライヤーとつながることでサプライチェーンのレジリエンスを保てますし、サプライヤーにとっては新しい取引先と出会える場になります。

画像: 日立 場家康雄

日立 場家康雄

さまざまな業種のステークホルダーに参加いただくことで、サプライチェーンが寸断されて企業活動が止まってしまうという事態を避けられますし、普段は取引がない企業同士でも、在庫や供給能力を融通しあえる。製造に関わる企業だけでなく流通に関わる企業などにも参加いただくことで、そういった互助的なコミュニティをめざしています。参加する企業が多いほどサプライチェーンが生み出す価値は大きくなり、同時に価値を享受できる可能性も高くなると考えられます。

――コミュニティの構想が生まれた背景にはどんな意図があるのでしょうか。

森岡
本質的には、日本の産業の発展に貢献したいというのが我々の思いです。グローバルには無数のサプライヤーが存在していますが、やはり信用が置けないと取引はできません。サプライチェーンコーディネーションサービスも、あくまで日系企業を主なユーザーに想定しています。サービスの基盤であるTWX-21は、海外に事業展開している日系企業と取引のある現地のサプライヤーにもご利用いただいていますが、あくまでも中心は日系企業です。

日系企業同士であれば、取引実績はなくても社名くらいは聞いたことがあるというケースが多いはずです。いきなり契約とはいかないまでも、まずは見積もりをとるくらいのコミュニケーションがスムーズにとれる。そんなコミュニティづくりをめざしています。

長年の課題だったサプライチェーン情報の「鮮度問題」

場家
ここまでお話ししてきた過剰在庫をはじめとするサプライチェーンの問題点は、ここ数十年変わっていません。2022年の4月にサプライチェーンコーディネーションサービス構想を発表したところ、お客さまからの問い合わせが非常に多く、やはり多くの企業にとっていまだに関心の高い話題であることは間違いないと改めて感じました

――日系企業がずっと解決できなかった課題に、ようやく技術が追い付いてきたことで、サプライチェーンコーディネーションサービス構想が生まれたとも言えますか。

森岡
そのとおりです。例えば、市況の変化に生産計画を同期させながら製造や流通を進めていく同期計画のように、制約条件のもとで最適解を導くのは、本来多くの日系企業が得意としてきたことです。ネックだったのは、タイムリーなデータをいかに収集するか、そもそも正しいデータを取得できるのかといった点でした。近年ようやく、ESGリスクを客観的に評価する機関が登場したり、情報を瞬時に収集し計算できる技術がそろったりと、多くの企業が前々からやりたかった取り組みをようやく実行できる環境が整ってきたというのが実態です。

画像: 日立 森岡俊行

日立 森岡俊行

サプライヤーのデータをカテゴリー別に登録して、自然災害やパンデミックなど不測の事態が起きた場合に、そのデータベースを検索して社内で活用する――多くの日系企業がこの取り組みにトライしてきたはずです。ただ、それを維持していくのはかなり大きな負担でした。日立も10年以上前に社内でそのようなデータベースを設けて、サプライヤーに最新情報を入力いただけるよう試みたことがありますが、サプライヤーからしてみれば、わざわざ社外のデータベースに情報を入力するインセンティブがないのです。その結果日立では、サプライチェーンに関する情報の鮮度がどんどん落ちていくという事態を招いてしまいました。おそらくどの企業も同じような事態に直面し、せっかく構築したデータベースも情報が古くなってしまい運用されないという悪循環に陥ってしまったのではないでしょうか。

――なぜ、日立はサプライチェーンコーディネーションサービスの提供が可能なのでしょうか。

森岡
日立には約8万5千社が利用するTWX-21のデータレイクに、日々の企業間取引のデータがどんどん蓄積されていきます。例えば、あるサプライヤーの直近1カ月の納期回答順守率はどうかといった、鮮度の高い情報がつねに維持できています。

日立単独の技術だけではなく、ERP(※1)やMES(※2)に代表される、さまざまな情報を集計できる基幹システムがお客さまに普及し、精度の高い情報を一元管理できるようになったことも見逃せません。また、外部の評価機関にESG関連のデータを問い合わせるにしても、実際にデータが得られるまで従来は数カ月もかかっていましたが、サプライチェーンコーディネーションサービスなら1つのプラットフォーム上で瞬時に最新のトラスト評価の数値がわかります。そういった、生きたデータを活用できる環境が整ってきました。

※1 ERP:Enterprise Resources Planning 企業資源計画
※2 MES:Manufacturing Execution System 製造実行システム

画像: 長年の課題だったサプライチェーン情報の「鮮度問題」

――最後に、このサービスを通じてどんな社会を実現したいかお聞かせください。

場家
データの利活用を通じて、今まで未解決のまま常態化していたサプライチェーンの「ムリ・ムダ・ムラ」をなくして、地球環境の維持と経済の成長という好循環を生み出せるような世界を、皆さまとともに実現していきたいと考えています。

森岡
これまでTWX-21のデータレイクに蓄積しながら活用には至らなかったノウハウやサプライヤー情報を、ユーザー企業と結び付けて新たな取引をもたらすことが、サプライチェーンのレジリエンスにつながると信じています。サプライチェーンコーディネーションサービスが、日本の産業のさらなる発展を促すトリガーになる。そんな存在に育てていきたいと思います。

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「第3回:新たな取引先と出会える場」

画像1: サプライチェーン強靭化とESG経営、どう両立するか
【第3回】新たな取引先と出会える場

森岡俊行(もりおか としゆき)
株式会社 日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 マネージドサービス事業部 部長
2004年、日立製作所に入社。企業間取引を支援するクラウドサービス「TWX-21」を牽引する部署にて、一貫してサプライチェーンマネジメントシステムの企画・開発に従事。2015年から上海拠点にて中国でのクラウドサービス事業の立ち上げとサプライチェーンマネジメントのコンサルティングを経験したのち、2020年より現職。サプライチェーンコーディネーションサービスのプロジェクトチームを統括している。

画像2: サプライチェーン強靭化とESG経営、どう両立するか
【第3回】新たな取引先と出会える場

場家康雄(ばっけ やすお)
株式会社 日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 マネージドサービス事業部 主任技師
1995年、日立製作所に入社。情報通信事業部にて、通信関連のソフトウエア開発やプロジェクトマネジメントに従事し、米国駐在も経験。2014年から在庫管理システムの開発に携わり、IoT領域において顧客企業との協創に貢献。2019年より現職。サプライチェーン関連の新規サービス立ち上げとサプライチェーンコーディネーション構想を担当している。

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