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※本記事は、2022年6月12日時点で書かれた内容となっています。

毎週月曜日に配信されている、楠木建の「EFOビジネスレビュー」。その中で載せきれなかった話をご紹介する、アウトテイク。これが、めちゃめちゃ面白いです。

僕は軽井沢がスキです。最初の記憶は、南アフリカ共和国から日本に帰ってきた小学校高学年の頃。当時、旧道(※)の奥に祖父の会社の別荘があって、だいたい夏になると家族で軽井沢に滞在していました。あの頃の旧道の人通りの多さはものすごかった。僕も子ども心に高揚しまして、毎年夏が来るのを楽しみにしていました。碓氷峠で必ず峠の釜めしを買って、軽井沢に着いてから食べる。当時は高速道路がなく、東京からずっと下道を通って行ったのでかなり時間はかかったのですが、道中とてもウキウキしていたものです。

※ 旧軽井沢メインストリート、旧軽井沢銀座通り。かつて中山道の軽井沢宿があり、明治期以降は軽井沢に別荘を持つ人々のための商店街として発展した。古くから親しみを込めて旧道と呼ばれている。

自転車で旧軽のロータリー辺りまで南下して、弟と2人、毎日ウロウロしていました。お決まりは、軽井沢会テニスコートの向かいにあったお肉屋さんの店先でソフトクリームを買って、ユニオンチャーチで食べる。当時のユニオンチャーチは完全に一般開放されていて、なかにあった卓球台で遊ぶこともできました。あとは「らくやき」。素焼きの陶器に絵を描いて焼いてもらうのが面白かった。今ではらくやきのお店は1軒しか残っていませんが、僕が子どもの頃は旧軽界隈のそこかしこにありました。で、駄菓子屋へ。「こんな楽しいところがあるのか!」と思いながら過ごしていました。

子ども心をくすぐるお店がたくさんあった一方で、ファッションビルのベルコモンズが進出するなど、非常におしゃれな土地柄でもありました。忘れもしないのは、中学生の夏。毎年遊び場にしていた通りの小さな本屋に入ろうとしたら、なんとジョン・レノンが出てきたことです。その本屋はすでになく、今、旧軽井沢にある本屋と言えばやなぎ書房1軒だけです。

画像1: 僕と軽井沢。

そんな感じで高校生くらいまでは毎年軽井沢に来ていました。その後、祖父が亡くなってから、万平ホテルに泊まったり貸別荘を借りたりしたことはありますが、軽井沢に長くいることはなくなりました。で、中年になってようやく自分の別荘を持つようになりました。以来、年間40泊はしていると思います。

子どもの頃と比べると旧道の人通りは随分落ち着きましたが、今も昔も変わらず「気」がイイ。標高が高いとか緑があるとか、物理的な理由はあるでしょうが、それだけでは説明がつかないイイ「気」がここ軽井沢には流れています。僕にとって本を読むには最適の場所ですし、軽井沢大賀ホール(※)にコンサートを聴きに行けるので、クラシック好きの妻もこの土地をたいへん気に入っている。単に自然に囲まれているというだけでなく、独特な文化の積み重なりを感じます。

※ ソニーの社長を務め、声楽家でもあった大賀典雄(おおがのりお:1930~2011年)の寄付金を基に建築された音楽ホール。

僕はパピヨンという小型犬を飼っています。別荘なら犬も一緒に泊まれるので、ここ6~7年はどこにも旅行に行かず、もっぱら軽井沢に来ています。別荘から犬を連れて旧軽近辺を散歩し、やなぎ書房の隣にあるSajilo Cafe Forestでおいしいカレーを食べて帰る。これを繰り返しています。

軽井沢で嫌なことと言えば、湿度が高いのでカビが発生しやすいとか、冬になると水道管が凍って破裂してしまうので水を抜かないといけないことくらいです。1~2月はさすがに来ませんが、年間10カ月は僕にとって軽井沢のシーズンなんです。

軽井沢と言っても町内にはいろいろなエリアがあって、軽井沢駅の近辺とここ旧軽とではやっぱり流れている「気」が異なります。駅周辺は地方都市の住宅都市といった感じで、森に囲まれ独特の雰囲気を持つ旧軽とはやっぱり違う。

昔から旧軽が緑豊かだったわけではありません。先日、100年ほど昔の軽井沢の写真を見たのですが、一面はげ山。当時日本中がそうだったように、山林が燃料として伐採されていたためです。旧軽の場合、人の手が加わって、時間をかけて意図的に森をつくっていった。100年あれば土地の風貌は変わることに驚きを覚えます。

睡眠の質も、首都圏での生活に比べて明らかにイイ。雑音がないですし、緑から出てくる深くてイイ匂い、俗に言うマイナスイオンの効果を実感します。ですから読書もはかどる。ただ、別荘のテラスだと横になれないので、結局室内のソファに寝転がって読んでいますが。

画像2: 僕と軽井沢。

(撮影協力:旧軽井沢 やなぎ書房)

画像3: 僕と軽井沢。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

やなぎ書房(長野県軽井沢町)

画像4: 僕と軽井沢。

今回撮影にご協力いただいたのは、旧軽井沢の「やなぎ書房」。築100年の古民家を改装して2021年8月にオープンしたセレクトブックショップだ。店主は創薬ベンチャーの起業家で楠木氏とは一橋大学の同僚でもあった所源亮(ところげんすけ)氏。「知的欲求をくすぐる本」というコンセプトで、岩波文庫、中公新書、講談社ブルーバック各全冊のほか、文明論から宗教論、科学全般まで古典として長く読み継がれてきた本を多く取り揃えている。一般の書店とは異なり、書籍はすべて出版社からの買い取りという点も特徴の1つだ。「避暑に訪れた人たちが、軽井沢のゆったりとした時間のなかで読書に浸れる空間を提供したい」という所氏の思いから、店内の本は1階の大テーブルや2階の和室などの読書コーナーで自由に読むことができる。宇宙科学をはじめ各界の第一人者が語る「夜話(よばなし)」を昨年は数回開催し、今年はインド仏教や仏教建築などの専門家によるトークを計画している。11月まで営業の予定。軽井沢にお越しの際は、路地裏にさり気なく佇むやなぎ書房をお探しになってみてはいかがだろうか。

画像5: 僕と軽井沢。

<やなぎ書房イベント「やなぎサロン」開催のお知らせ>
『楠木建お茶会トーク』―楠木建先生の点てる抹茶を一服差し上げます―

9月4日(日)、やなぎ書房にて楠木建氏によるお茶会トークを開催。楠木氏のお点前による抹茶を一服いただいたのち、楠木氏を囲んでのフリートークを予定しています。時間は ①10:00〜12:00、②14:00〜16:00。それぞれ8名様限定、会費7,000円。参加ご希望の方は下記までお電話にてお問い合わせください。

やなぎ書房
〒389-0102 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢 859-1
電話番号 090-9548-8090 (平日13:00~17:00)

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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