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当サイトにて2018年より続く連載をもとにした楠木建氏の著書『絶対悲観主義』が、講談社+α新書より刊行された。本書は過去記事の単なる再録ではなく、絶対悲観主義という独自の切り口で楠木氏自ら編集し、さらに大幅に筆を加えたものであり、すでに連載を読まれている方でも充分お楽しみいただける内容となっている。タイトルに込められた意図や書籍化の舞台裏、EFOでの連載に対する思いについて楠木氏に伺った。

筋トレではなくストレッチ

――約4年にわたり連載いただいている楠木建のEFOビジネスレビューをもとにしたご著書『絶対悲観主義』が刊行されます。まずは、書籍化の動機についてお聞かせください。

楠木
EFOの連載では毎回、自分の思考の断片を思いつくままに書いてきました。書籍化はもともと頭になかったのですが、ある程度コンテンツが蓄積されてきたので、何か1つの切り口で1冊にまとめられるかもしれないという考えに至りました。

――ご著書のタイトル『絶対悲観主義』は、2021年7月の連載テーマでもあります。なぜ、このタイトルにしたのですか。

楠木
僕が今一番言いたいことだからです。その切り口で、過去の50近い連載テーマのなかからセレクトしようとしたのですが、書籍化を想定して書いてきたわけではないので、この際全面的に書き換えました。先に絶対悲観主義を本の柱に据えてから、EFOで書いてきたことを材料にして料理し直したわけです。

本の章立ては、例えば友達、お金、健康、幸福といった、おそらくだれにとっても仕事と生活の基盤となりうるテーマで構成しました。EFOでは複数に分かれていたテーマを本では1つにまとめた章もありますし、新たに書き加えた箇所も相当あります。単なる再録ではないので、EFOを読んでいただいてきた方々にも楽しんでいただけると思います。

画像: 楠木建著『絶対悲観主義』(講談社+α新書) www.amazon.co.jp

楠木建著『絶対悲観主義』(講談社+α新書)

www.amazon.co.jp

――「今一番言いたいことが絶対悲観主義」とのことですが、その意図はどんなところにあるのでしょうか。

楠木
僕は前々からこの絶対悲観主義を仕事の哲学として持っていまして、あちこちでお話ししてきました。すると、わりあい反応がいい。「あの話、面白かったです」みたいな声が結構多く聞かれたので、ぜひどこかで文章化して世に出したいと考えていました。僕の本業である競争戦略以外の本、つまり仕事や生活についての自分の考えを書くとしたら、次は絶対悲観主義がテーマだと。そのタイミングが今回の書籍化だったんです。絶対悲観主義を柱にEFOでの連載を本にしたら、今まで僕が言いたかったことをまとめて言えるんじゃないかと。

書籍化にあたり、出版社の方にまずはタイトル案だけをお伝えしたのですが、最初はピンと来ていない様子でした。確かに絶対悲観主義という言葉だけだと、すごくネガティブな印象がある。キビシイように聞こえますが、ジッサイはユルイ哲学です。僕は人には甘いほうですが、自分にはもっと甘いですから。「夢に向かって全力疾走!」「夢をあきらめるな!」といったアスリート的な構えが筋トレだとすると、僕が主張する絶対悲観主義はストレッチです。出版社の方は原稿をお読みになってご納得くださり、僕の希望どおり『絶対悲観主義』がタイトルになりました。

「EFOビジネスレビュー」と楠木建

――EFOで連載を始められて約4年になります。楠木先生のなかで、この連載はどんな位置づけになのでしょうか。

楠木
僕にとっては、気楽な仕事(笑)。というのは、連載全体の流れを特に考えず、その都度関心があるテーマについて書いているからです。これからもこのスタンスでやっていこうと思っています。

所詮1人の人間が考えていることなので、4年もやっていると自分がどういうことに興味を持つのかが遡及的にわかってくる。逆に、全然興味がないこともわかってくる。コンテンツが蓄積されていくと、そういう面白さがありますよね。

――取り上げてみたいテーマなど、連載の今後についてはどんな展望をお持ちですか。

楠木
今までどおりのスタンスでもいいのですが、そろそろ何か新しい基軸を打ち出してもいいかもしれない。例えば、これまでEFOでは時事的な話題に対してはあまり反応してこなかったのですが、世のなかで起きた出来事の背後にある社会的な価値観や現在の社会の在りようを論じてみたら面白いかもしれません。

――最後に、『絶対悲観主義』をどんな方に読んでほしいですか。

楠木
気が向いたら、ビジネスパーソンに限らずどなたにでも読んでいただきたいと思います。タイトルにピンときたら、ぜひ読んでみてください。

――ぜひ多くの方にお読みいただきたいですね。

楠木
僕は絶対悲観主義者なので、ま、たいして売れないだろうと思っています。細々とでも長く読み継がれるというのが僕の希望です。先日、アダム・グラントという方の『THINK AGAIN』を僕が翻訳したのですが、これがよく売れているそうです。また、以前翻訳したダニエル・コイルという方の『THE CULTURE CODE』が最近増刷されることになったそうです。僕ではなく、他人の本ばかり売れている。自分のことになるとなかなかうまくいかない。そこが味わい深いんです。

画像: 楠木建著『絶対悲観主義』発刊記念インタビュー
「キビシイようでユルイ」仕事論。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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