城宝氏は、大学生3年生、21歳の時にテーブルクロスを立ち上げた。ビジネスを通じて社会的課題の解決を図り、利益創造と社会貢献を両立する「CSV: Creating Shared Value (共通価値の創造)」という考え方に基づく経営を貫き、国境を越え「食」にまつわる課題と向き合い続けている。そのルーツは、小学生の頃に訪れたインドネシア、高校時代に親善大使として派遣されたアメリカでの体験だ。その二つの見聞こそが、ビジネスの発想と、起業という大きな決断を産んだ。

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「第2回:経営者・城宝薫氏を産んだ2つの原体験」
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子どもの頃の口グセは「社長になる!」

城宝氏は子どものころから「社長になりたい」という夢を持っていたのだという。理由は、身内の祖父が経営者だったことから憧れがあったからだ。優しい人で、特に仕事をしている時の姿を見たことはなかったが、「祖父に憧れがありました」と城宝氏はいう。物心ついた時から周囲に「私は将来、社長になる!」と公言していた。「自分の記憶にはない」ようだが、幼なじみからは「おまえ、本当に社長になったんだな」と感心されたという。

そんな城宝氏を、起業へと向かわせたきっかけは二つある。

「一つ目は幼少期に家族旅行で訪れたインドネシアでの体験でした。私と同じ年頃の子どもが、ストリートチルドレンとして暮らしている姿を見て衝撃を受けました。ただ、絶対的貧困を目の当たりにして、彼らがかわいそうだと思ったわけでなく、自分がいかに幸せな環境で生きているのかを気づかされたのです。世界にはそういう現実があるのだと……。それからは、寄付やボランティアなど、自分ができることを積極的にするようになりました」

画像: 起業家だった祖父への憧れが、「社長になる夢」を後押しした

起業家だった祖父への憧れが、「社長になる夢」を後押しした

フロリダで知った“CSV”という概念

さらに、もう一つの転機は、高校1年のとき。出身地の千葉県浦安市から、姉妹都市であるフロリダ州オーランドに親善大使として派遣されたのだ。現地では小・中・高校のクラスの様子やNPOの活動を見学した。城宝氏はその見聞の中で「ああ、これからはこれなんだ!」と気づいたことがあった。それは人々が“社会貢献と利益追求を同時にすることで社会が良くなる”という「CSV(Creating Shared Value: 共通価値の創造)」の考え方を持つことだ。

もちろん高校1年生でその言葉を知るはずもなく、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱する概念だと知るのは、ずっと後のことだったが。

「私が視察したNPOは、地元のお母さんたちが運営する障害者支援の小さな団体でした。でも、打ち合わせをしているときに、数字が書かれた紙を広げて電卓を叩いていたんです。自分たちの団体の価値をどのように社会に対して提供して、対価として売上や利益をいただくかという議論をしていて……。私には“NPOイコールボランティア”として活動するイメージしかなかったので、その姿勢に刺激を受けました」

ただ、当時の城宝氏は、その損益にこだわるというスタンスを理解できず、「社会貢献活動なのに、どうして利益をあげるのですか」と尋ねたという。するとNPOスタッフから、「目の前の社会課題を解決しようとするとき、いちばん大事なのは継続なのよ」という、こたえが返ってきた。「1度や2度のイベントをやるだけでは、社会課題は解決しない。だから、自分たちの提供できる付加価値の対価をいただき、事業を継続することこそ大切なのですよ」と、城宝氏に力説した。その言葉に「なるほど」と、腑に落ちた彼女は、日本では、NPOが損益にこだわる運営をすると叩かれる風潮について疑問を持った。また、社会課題の解決は寄付やボランティア、そして公的な補助金で賄われるべきだと考える人が多い日本の風土にも風穴を開けるようなビジネスモデルがあるのではないかと考えるようになる。

画像: 高校1年時のアメリカ留学で価値観を揺さぶられる体験をした

高校1年時のアメリカ留学で価値観を揺さぶられる体験をした

グルメサイトの広告営業アルバイトが起業のモチベーションに

幼い頃から起業を夢見ていた城宝氏を、最終的に起業へと踏み切らせるきっかけは、大学1年生で始めた、某グルメサイトでの飲食店向けの広告営業のアルバイトだった。

「私はサイト運営会社ではなく、サイトの営業を受託する会社のアルバイトでした。そこは営業成績にシビアなことで有名でしたが、数字ばかりを追いかける中で、ふと『自分は誰のためにこのサイトの営業をしているんだろう?日々飲食店オーナーさんから飲食広告業界の課題を聞くなかで解決策があるのではないか?』と思ったのです。その疑問符が、『自分だったら“誰かのためになれる”レストラン予約の仕組みが作れるかもしれない』につながったんです」

当時のグルメサイトの広告形態は、月額40万円ほどの広告費を払うことで、「新宿×焼肉」と検索したときに、上位にその飲食店が表示される仕組み。そうした固定費はオープンしたてのオーナーや、運転資金に乏しい店にとっては、ハードルが高いものだった。そこに、2014年あたりから、成果報酬型の広告モデルが登場してきた。人材紹介事業の企業も、そのビジネスモデルで上場を果たすなど、月額課金の固定費モデルから、成果報酬型へとパラダイムシフトが起きていた。

「成果報酬型の広告形態で飲食業界も変えていきたいと思ったことと、ビジネスパートナーとの出会いもあって、大学3年生の6月に、えいやっと起業しました。それまで時給970円のバイト経験しかなかったので、資金集めから、銀行口座の開設、オフィスの確保まで、困難な道が続きました。一度は会社勤めをしてから起業しようというプランもあったのですが、営業先の飲食店オーナーさんの苦労を日々聞いていた自分としては、なんとかその問題を解決したいなという気持ちが大きかったんです」と、城宝氏はことも無げに明かしてくれた。(第3回へつづく)

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画像: 「食」で世界の笑顔をつなぎ、社会課題に“CSV”で挑む
【第2回】経営者・城宝薫氏を産んだ2つの原体験

城宝 薫(じょうほう かおる)
立教大学経済学部卒。高校時代の米国フロリダ州オーランドでの親善大使、大学時代のアルバイトなどを通じて、ビジネスと社会貢献を両立させる「CSV」への関心が高まり、大学3年生の6月に株式会社テーブルクロスを起業。モバイルアプリ「テーブルクロス」、グルメプラットフォーム「byFood.com」の運営を行う。食体験と、途上国の子どもたちへの給食支援をつなぐ事業、さらに地域創生へもアプローチするなど、精力的に活動している。

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

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新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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