「第1回:企業の連鎖で、未解決の社会課題に立ち向かう」はこちら>
「第2回:ブロックチェーンで解決する、引っ越し・相続・基地局の困りごと」はこちら>
デジタル化が損保業界にもたらした、猛烈な危機感
2020年9月4日、EFOは公開取材「ブロックチェーンを活用した企業間情報連携という新たな潮流」をイベント形式でオンライン配信した。その中で「協創のプラットフォーム『NEXCHAIN』とは」と題して開催された座談会に、NEXCHAINに参画する企業から4名が登壇。損害保険ジャパン株式会社の市川裕邦氏、東京ガス株式会社の大森隆平氏、株式会社 ゆうちょ銀行の橋本佳和氏に加え、NEXCHAINの設立メンバーで業務執行理事を務める日立製作所・齊藤紳一郎の司会のもと、ディスカッションが進んだ。
齊藤(日立)
NEXCHAINのコミュニティ運営を担当しております、日立製作所の齊藤でございます。NEXCHAINはさまざまな企業にご参画いただき、生活者の利便性の向上やデータ利活用の活性化を検討していく枠組みとして生まれました。「社会課題・業界課題の解決」と「新たな価値の創造」という観点で、非競争領域における問題を参画企業の皆さまと解決することをモチベーションに活動しております。
本日の座談会では、NEXCHAINの活動に賛同してくださった企業の皆さまとディスカッションしたいと思います。まずは自己紹介と参画の理由について、各社さまよりお願いいたします。
市川(損保ジャパン)
損保ジャパンの市川でございます。わたしは2019年から企業営業第一部という部署で、保険の企業営業とイノベーションを掛け合わせた共創という活動をメインの業務としております。
今、損保業界で何が起きているのかを簡単にご説明させていただきます。当社では種目別収入保険料(売り上げ)の50%が自動車保険、13%が自賠責保険、つまり6割超を自動車分野が占めています(下図左側)。ところが昨今、「CASE(※)」というワードに象徴されますように(下図右側)、デジタル化によって自動車および自賠責保険のあり方が大きく変わろうとしており、当社としましては猛烈な危機感を持っています。
※ Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Sharing(カーシェアリング)、Electric(電気自動車)の頭文字をとった造語。
デジタル化が保険業界に与える影響は自動車保険だけにとどまりません。火災保険を例にとりますと、センシング技術の発達やAIによる災害予測などの新しい技術がどんどん出てくることで住宅がスマートホーム化し、火災発生のリスク自体が減っていくと考えられます。いずれ「火災保険ってそもそも必要だっけ?」と多くの方が疑問に思う世の中が来ると思います。あるいは、生命保険や医療保険の分野にも当社は参入しておりますけれども、ウエアラブル端末によるバイタルセンシングやAIを使った疾病予測、ゲノム解析などの技術も発達してきていますので、ヘルスケアに関わるリスクのあり方も大きく変わろうとしており、当社は非常に強い危機感を抱いています。
一方で、デジタル化によって新しいリスクが発生してくるであろうとも捉えていまして、例えばサイバー攻撃に対するブロックチェーンの技術は、将来の新しいサービスとして非常に有用なマーケットになるのではという期待も持っています。
エネルギー自由化でガス会社が急ぐ「共創」
大森(東京ガス)
東京ガスの大森と申します。わたしは2020年よりデジタルイノベーション本部の価値創造部という部署で、新規事業開発検討を担当しています。
2017年に都市ガスの販売が自由化され、お客さまがどこの会社からガスを買うか選べるようになりました。そうした状況下で、弊社が引き続きお客さまに選ばれるにはどうしたらよいかが課題となっています。実は、どこの会社と契約してもガスの質は変わりません。ではお客さまがガス会社を選ぶ際に何を重視するかというと、価格や付帯サービスということになります。
20年ほど前にエネルギーが自由化されたヨーロッパを見てみますと、自由化が始まった当初、お客さまは価格でエネルギー会社を選んでいました。やがて価格が落ち着いてくると、付帯サービスの付加価値でエネルギー会社を選ぶお客さまが増えてきたと言われています。日本でもすでに、保険と電気、あるいは定額制の動画配信サービスと電気をセットで販売している企業さまがいらっしゃいます。このようにエネルギーとサービスを融合して販売する形が今後進んでいくだろうと予想しております。
弊社もサービスを拡充するにあたって、エネルギー業界にとどまらずビジネスモデルの変革につながるような、まったくの異業種の方々とアライアンスを組むことが必要だと考えています。各社固有のデータやアセットを掛け合わせるのはもちろん、弊社のお客さまからもエネルギーの使用量や居住空間、生活環境などのデータを提供していただくことで、新しい価値、新しいサービスを生み出していくことがこれからは必要です。
当社がめざしているのは、価値共創のエコシステムの実現です。NEXCHAINでの取り組みが、まさにいろいろな企業の方々と協力して新しい価値を生み出していくのではという期待を込めて参加させていただいております。
銀行業の枠を超え、新たなデジタルサービスを
橋本(ゆうちょ銀行)
ゆうちょ銀行の橋本でございます。わたしは今年、営業部門に新設されましたデジタルサービス事業部という組織で、スマホで通帳の入出金の明細が見られる「通帳アプリ」や、スマホでQR決済ができる「ゆうちょPay」といった新しいサービスを推進しております。また、弊行の口座をFintech事業者さまのサービスと連携するといったことにも取り組んでおります。要するに、いつでもどこでも銀行サービスを提供できること、そして、お客さまがご自分の趣向に合わせて使い方を選択できる、使い勝手のよい口座をめざしています。
NEXCHAINに参加させていただいた動機ですが、海外でデジタルサービスがかなり浸透してきているという状況が背景にあります。例えば中国では、決済アプリで知られるAlipayやWeChatといった企業が台頭しています。単に決済が手軽にできるというだけでなく、その背後ではお客さまの消費情報や位置情報などの膨大なデータを収集・分析し、それを活用したサービスをどんどん生み出し、マネタイズにも成功していると聞き、非常に危機感を覚えております。
もちろん日本とは社会背景が異なりますが、これまで銀行業の視点でお客さまを見てきた弊行としても、今後はいろいろな業種の方々と意見交換をし、必要とあればデータを連携しながら、業法に縛られない、新しい分野でお客さまの生活に関わるサービスを創造していかなくてはならない時代に来ているということを痛烈に感じています。オープンイノベーションを起こせる場として、NEXCHAINに期待しています。
次回は、オープンイノベーションに対する切実な思いやNEXCHAINで検討したいテーマについて、各社に語っていただく。
「第4回:イノベーションの壁、オープンイノベーションの可能性。」はこちら>
【イベントレポート公開のお知らせ】NEXCHAINオンラインセミナー「企業間連携の現在地」
2021年3月12日に開催したNEXHCAIN主催オンラインセミナー『企業間連携の現在地』のイベントレポートを公開。
NEXCHAIN取り組みの現在と今後の展望、DXを推進する経団連DXタスクフォース浦川座長のご講演や参画企業様のパネルディスカッションなど、オンラインセミナーの4セッションのアーカイブ映像と各講演内容のエッセンスを紹介。
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