新業態「WORKMAN Plus」がヒットし、8期連続で増収増益を記録。さらに、2019年度「ポーター賞」(*)を受賞するなど、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの作業服SPA大手・株式会社ワークマン。モノが売れないと言われる時代に、なぜ飛躍的な成長を遂げることができるのか。”世の中をよくすること”を事業の目的としながら利益を生み出す経営戦略「J-CSV」の切り口から、ワークマンという会社の強さを3回にわたって掘り下げていく。インタビューにお答えいただくのは、同社のマーケティング戦略を担い、「WORKMAN Plus」の仕掛け人でもある専務取締役の土屋哲雄氏。第1回では、「高機能・低価格ウェア」市場における一人勝ちを可能にした、メーカーやフランチャイズ加盟店との関係づくりに迫った。

*ポーター賞:独自性のある優れた戦略を実践し、高い収益性を達成・維持している日本の企業・事業に贈られる賞。名称はCSV(Creating Shared Value)経営を提唱するハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授に由来する。一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻が主催。

ブルーオーシャンへの参入を阻む「64%」

――ワークマンのマーケティング戦略を担当なさっている土屋さんは、大ヒット中の新業態「WORKMAN Plus」の仕掛け人としても知られています。もともと建設現場の職人さんを主な顧客としてきた御社が2018年に一般客向けに出店した「WORKMAN Plus」ですが、競合がないそうですね。

土屋
ええ。アパレル業界のなかで空白市場だった「高機能・低価格ウェア」のカテゴリーで、いまのところ弊社の一人勝ち状態が続いています。

――なぜ、この市場に他社が参入できないのでしょうか。

土屋
原価率64%という数字が、高い壁になっているのではないでしょうか。近年は、国内のアパレルブランドなら平均原価率20%以下と言われています。婦人服のしまむらさんやベビー服の西松屋さんが弊社に近い原価率だと聞いています。

弊社の商品はとにかく低価格です。例えば、高級アウトドアメーカーなら2万円前後するレインウェアが、弊社のプライベートブランドなら上下セットで5,000円しません。しかも、水が染み込みにくく体にフィットしやすいなど機能性が高い。原価率が高い=販売価格に対する原価の割合が高いということは、それだけ利益を抑えて消費者に商品を安く提供できているということなのです。

画像: ブルーオーシャンへの参入を阻む「64%」

――なぜ御社では、原価率64%での価格設定が可能なのですか。

土屋
プライベートブランド商品の場合、大量につくるから生産コストを低減できます。弊社はサンプル品でも1アイテムにつき5万~10万着つくります。GMS(総合スーパー)さんですと、通常1万着程度しかつくらないそうです。もともとは弊社も3万着しかつくらなかったのですが、加盟店から「すぐなくなってしまう」とクレームが殺到したので、大量につくるようになりました。

――プライベートブランド商品はどこで製造しているのですか。

土屋
東南アジアを中心に、15社ほどのメーカーさんに委託しています。プライベートブランドを始めてから10年近くになりますが、委託先はずっと固定です。

――委託先を固定するメリットは何でしょうか。

土屋
メーカーと弊社との呼吸が合うまでに、すごく時間がかかるんですよ。初めてお付き合いするメーカーに製造を委託するときには、弊社の品質管理担当者が現地に付きっきりにならなければいけません。その手間を人件費に換算すると、おそらく1,000万円くらいになるはずです。仮に1着10円20円安くつくってくれるメーカーが現れたとしても、その都度委託先を変えていたらコストがかかる。メーカーとしても、同じ会社と長く取り引きできたほうが、経営が安定する。だからずっと同じメーカーに委託しています。概してそういう社風なんですよ、ワークマンは。

「自主判断納品」というセオリー破り

土屋
弊社はプライベートブランドと仕入れ商品の売上がだいたい半々なのですが、仕入れ商品を製造している国内の主要メーカー約30社もほぼずっと固定です。もう30年くらい変わっていません。

設立当初は問屋を介してメーカーと取り引きしていました。その古い体質を変えようと、メーカーに「直接取引しませんか」と呼びかけたのです。約2割のメーカーが弊社の呼びかけに賛同してくださって、いまもずっとお付き合いが続いています。年に1回、各メーカーが一堂に会する「ベンダー会」を開催しているのですが、皆さんいろいろなことをご存じで、入社して7年のわたしなどとてもとても……。会話についていくだけで必死です(笑)。そのくらい、付き合いが長い。

画像: ワークマンの土屋哲雄氏。この日は全身自社ブランドの商品で身を包み、インタビューに臨んでくださった。

ワークマンの土屋哲雄氏。この日は全身自社ブランドの商品で身を包み、インタビューに臨んでくださった。

弊社とメーカーとの関係で象徴的なのが、メーカーが自社判断で商品を納品し、それをワークマンが全部買い取るというしくみです。社内では「善意型SCM(Supply Chain Management)」と呼んでいます。

――普通は小売店の発注量に応じてメーカーが商品を生産しますが、逆なのですね。

土屋
そうです。弊社は需要予測データをはじめ、各店舗のPOSデータや店舗単位・エリア単位の在庫情報、弊社の倉庫の在庫・出荷・入荷などの情報をメーカーに開示しています。メーカーはそれを見て商品の生産量を決めます。これと似たやり方で、小売店とメーカーが需要予測データなどの情報を共有し、メーカーが在庫を管理・補充するVMI(Vendor Managed Inventory)という方式がありますが、弊社の善意型SCMの場合、ワークマンの倉庫にメーカーが商品を納入した段階でそれは弊社の所有になり、弊社は全量分の金額を支払うことになります。

なぜこういう方式にしたかと言うと、要するにメーカー側のほうが情報優位者だからです。もともとは、弊社の入社3、4年目の社員がメーカーに発注していたのですが、メーカー側は10年も20年も弊社の商品を担当なさっている方ばかりです。それに、全国のほかの小売店とも取引をしているから、弊社より断然ノウハウを持っている。だったら、生産量の判断はメーカーにお任せして、全量買い取ろうと。万が一在庫過剰になってしまったら、そのときは弊社が販売をがんばりましょうと。現状では、メーカーからの仕入れ商品の9割近くがこの善意型SCMによる納品です。

子どもに継がせたいフランチャイズ加盟店

画像: 「WORKMAN Plus」の店舗イメージ

「WORKMAN Plus」の店舗イメージ

――御社は全国に843店舗(2019年10月時点)を構えています。フランチャイズ加盟店と本部との関係づくりについてはどうお考えですか。

土屋
加盟店の個性を尊重し、品ぞろえは本部の標準品の中から、ある程度店舗に選んでもらっています。商品によって、その地域に合うもの・合わないものがありますからね。ただ、作業服や高所作業靴、作業用手袋などのプロ(建設現場の職人)向け商品は本部が決めた商品を必ず陳列してもらうようにしています。と言うのは、職人さんたちは建設現場に向かう朝のたった5分間でそれらの商品を買わなければいけないから、売り場にないとお困りになってしまいます。そういった本部の方針はもちろんありますが、加盟店とは和気あいあいとお付き合いさせていただいています。

弊社は843店舗の約9割がフランチャイズ(ほかは直営店や1年契約の業務委託店)で、2019年3月期のフランチャイズ契約(6年契約)更新率は97%でした。相当高い数字だと思いますが、100%の年も結構あります。病気で入院するとか、70歳になったから引退するといった理由で更新なさらなかった方はいますが、健康なのにお辞めになる方はめったにいません。

――1店舗あたりの年商はどのくらいですか。

土屋
平均1億2,000万円~3,000万円です。年収にすると税引き前で1,200万円くらいです。結構高いほうだと思います。地方の加盟店の経営者から、「息子や娘のために家を建てることができた」なんて感謝されたこともありました。加盟店はご夫婦で経営していただくという前提で、基本的には1家族1店舗経営としています。全体の約半数の加盟店から「息子や娘など家族に継がせたい」という声をいただいています。実際に親子で継承した加盟店は全然珍しくないですね。

やっぱり弊社としては、加盟店とも長期的な関係を築きたいのです。そうじゃないと、加盟店になっていただいた意味がないですから。

――加盟店の経営者を選考するにあたって、どんな点を重視なさっていますか。

土屋
協調性があるかどうか、ですね。それを見極めるために、6回も面接を重ねてじっくり選考しています。仕事の能力がものすごく高いとか、売上を上げてくれそうな方ではなく、仲良くやっていけそうな方がいいですね。あんまりとがりすぎた方だと、弊社の尺に合わないんですよ。うち、ノルマがない会社なので(笑)。

画像: 作り手よし、売り手よし、買い手よし、社員よし。
【第1回】30年変わらないサプライチェーンの築き方

土屋哲雄(つちやてつお)

1952年、埼玉県深谷市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、三井物産株式会社に入社。1988年、社内ベンチャー制度を利用して三井物産デジタル株式会社を起業。その後、三井物産経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司董事兼総経理、三井情報開発株式会社(現・三井情報株式会社)取締役執行役員を歴任した。2012年に株式会社ワークマンに入社し、常務取締役として情報システム部・ロジスティクス部を担当。2017年から経営企画部も担当し、2018年出店の新業態「WORKMAN Plus」を仕掛けた。2019年からは専務取締役として開発本部と情報システム部、ロジスティクス部を担当している。

「第2回:ブルーオーシャンを見つけた企画屋視点」はこちら>

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一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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