株式会社 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ ビジョンデザインプロジェクト主任デザイナー 柴田吉隆 / 株式会社 studio-L 代表取締役 山崎亮氏
(株)studio-Lの代表山崎亮氏と、日立のビジョンデザインチームのリーダー柴田吉隆の対談、第2回。山崎氏が、住宅や公園というハードウェアのデザインからスタートし、現在のstudio-Lが『コミュニティデザイン』を手掛けるに至るまでの経緯を、山崎氏は丁寧に話してくれた。

「第1回:企業の変化、地域の本音。」はこちら>

20人の個人事業主

山崎
studio-Lは、20人全員が個人事業主です。それは、地域の人たちと仕事をするときに、「キミたちは給料をもらってやっているんだから、いいよね」って言われて、言葉に窮してしまうようなときが結構ありました。そこでstudio-Lを設立するにあたっては、給料制の人が誰もいない組織を作りました。今では全員が確定申告も個人でやっています。僕たちの仕事の9割は行政からの仕事なので、仕事を受けるための法人は1個用意してありますが、20人はみんな個人事業主で、自主的に転勤していくというか、自分が住みたい所に行ってプロジェクトをやるのです。

これなら現場に出た時に、地域の人たちの速度に合わせてやっていけるし、利益を追求する株主からの圧力がないので、「じゃ、ゆっくり進めますか」ということが可能になるのです。もちろんこれは、日立の皆さんに「このやり方がいいです」と言っているつもりではありません。やろうと思っている事業と自分たちの働き方を合わせることが重要だということです。

柴田
日立はこれまで主に企業からの依頼で動いてきた会社なので、自分たちなりの「こういう社会にしたい」というはっきりとしたビジョンがないまま来てしまったところがあるんじゃないかと思っています。でも、やはり誰かと何かを協創するのなら、「あなたはどうしたいの」という問いに対して、ちゃんとビジョンがある状態にしたいんです。ただ、やっぱり相手のやりたいこととのバランスをとることは難しく、住民の方々と協創するという経験の少ない僕らにとってそれはさらに難しい。“こくベジ”の活動でも、コラボレーションの可能性を感じていただけた一方で、これはまだ「日立がやりたいこと」であって、活動を通じて住民の誰かがハッピーになったわけではないよね、といった愛のある厳しいご意見もいただきました。

ただ、日立のような企業のリソースを、地域で生かせるいい関係というものもあるような気がして、それがまちにひとつひとつ入っていけば、いい方向に社会を変える力になるかもしれないという思いはあります。楽観的かもしれませんが。

画像: 20人の個人事業主

コミュニティにおけるビジョンと現実

山崎
柴田さんの言われるビジョンというものが「ありたい姿」だとすれば、まず「こうありたいな」と思っているものが自分たちの根元にないと、間違った方向の社会を創ってしまう可能性がある。Society 5.0の本質的な意味の、「こうありたいな」と思うものに照らし合わせてみて、「だったら、こうしたらどうですか」としっかり言える状態を作っておきたいということは、よくわかります。

studio-Lのメンバー同士でも、例えば将来世代や地球環境に対して「こうあった方がいいな」というビジョンは共有しています。ただ、そのビジョンのもう少し上澄みに「こんなアイデアが面白いと思うんです」という、自分たちがやりたいことがあります。これを地域に持ち込むと、「それはあなたたちがやりたいことでしょ」と必ず言われます。僕たちもそれをたくさん経験してきています。でも、地域の人からやりたいことを聞いて、ワークショップで付箋を使って意見をまとめるだけなら、僕たちは必要ありません。それで本当に地域が良くなるかどうかもわかりません。このさじ加減は本当に難しいです。

地域の人たちがいろんな案を出した場合、それに照らし合わせて、「では、こんなことをやってみたらどうですか」と言って、皆さんがやりたいことと、こちらのアイデアを混ぜながら投げ返す。このキャッチボールを何回も繰り返す間に、少しだけイノベーティブであり、かつ地域の人たちも受け入れることができそうなアイデア・価値を、地域に生み出すことができるかもしれません。

しかしそれを、日立の社内で説明することは難しいですね。評価する立場の方にとっても、数字で表すことのできない、目に見えない成果を評価するのは難しいことです。

柴田
それはやっぱりありますね。会社の一定の理解があって今のプロジェクトをやらせてもらえているのですが、そうはいっても、研究としての「われわれが明らかにしたかったことはこれです」というのが、ある程度言えないといけないという思いはあります。

『コミュニティデザイン』が生まれるまで

山崎
参考になるかどうかわかりませんが、僕たちが今のような『コミュニティデザイン』に至るまでの話をさせてください。僕も、もともとデザイナーでした。建築設計事務所に就職して、住宅の設計と公園の設計を始めました。個人の住宅はそれなりに納得のいく設計プロセスで、施主が「こうしたい」という思いを伝えてくだされば、それを形にする。ただ、家族の意見を全部聞いて、言われたとおりに設計していると、でき上がったときに「ああ、できましたね」というだけになってしまいます。しかし、その言われたことを少しクリエイティブに高めて提出すると、「ワオー」と、何かの匠のような「なんということでしょう」という状態になることは、仕事をやっている人間としてもすごくワクワクしましたし、施主にも喜んでいただけました。

しかし公園などの公共建築は、「こうしてください」という人は役所の職員、という場合があります。その人たちの話を聞いて作っても、この人は別の市に住んでいて実際には公園を使わない可能性があります。この人の意見だけを聞いて作っていいのか、という状況が増えてきました。公園緑地課長が言ったから、そのまま作りました、では済まない。その人がユーザーではないこともありますから。

そう思って、ユーザーに会いに行ってユーザーの話を聞きたかったのですが、これが住宅とは全然違いました。圧倒的に人数が多すぎて、意見がまとまりません。誰かまとめてくれ、と思うのですが、まとまらない。だからこれをまとめる方法が欲しいなと思って、ワークショップを学びました。少人数で話しながら意見をまとめていく経験を積み、公共の設計を住民参加で設計していくことができるようになってきました。

画像: 『コミュニティデザイン』が生まれるまで

さらに深くコミュニティへ

山崎
そうすると、図書館を設計したい、美術館を作りたい、新聞社を新しく建てたい、病院を建てたいというときにも、呼んでいただけるようになってきました。そのたびに地域の人たちに集まっていただき、少しクリエイティブなアイデアを皆さんと一緒に学び、皆さんがやりたいことを計画図面に反映させていくということをやってきました。

ところがよく見てみると、ワークショップに参加して色々と意見は言うけれど、完成した後、ほとんど来ない人がいることがわかってきました。そこで「そのアイデアを実際にやってみましょう」と、関わりの深度を高めることにも取り組みました。ですが、地域の人が1人で関わり続けるのは難しいので、「この仲間だったら一緒にずっとやりたいな」と思えるチームを作っていく、チームビルディングの手法を学んでいきました。

例えば新しい図書館を考えるワークショップに100人が集まったら、やりたいことを分類して10チームぐらいに分けます。10個のチームそれぞれが、取り組んでみたい活動の事例を見に行ったり、学んだり、自分たちの組織を作ったりして、部活みたいなチームを10種類作ります。その人たちの意見が反映された図書館ができ上がったら、オープニングとともに10チームが、ヨガ教室やカフェなど図書館の内部でいろんな活動を始めます。「ようこそ」と言って迎えてくれる地域の人たちがすでに図書館にいることになります。

公園がオープンしても、「ようこそ」と10チームが迎えてくれる。この間も信濃毎日新聞という長野の新聞社のビルがオープンするときに、1階から3階で地域の人たちが「ようこそ」と迎えてくれました。このようなコミュニティのつくり方をするようになってきました。

モノを作らないデザインへの離陸

山崎
そうなってきたら、もう建物のデザインじゃなくていいじゃないか。モノの形ではないデザインに行ってもいいなと思うようになりました。これからは教育や福祉、医療、地域包括ケア、地域共生社会などの仕組みをつくっていきたい。例えば、地域包括ケアの仕組みなら、地域の人たちと共にその課題を学び、皆さんが自分たちでできることを提案し、できることをやりたいことに変えていって、やりたいことが共通する人たちで10ほどのチームを作る。このように地域包括ケアに関わる活動を起こす人たちが生まれたという状況と、その10年計画という計画書を依頼者に納品するということが仕事になってきました。

だから柴田さんと同じように、僕たちも住宅や公園のハードウェアからスタートして、デザインという概念を少しずつ広げていったら、現在の『コミュニティデザイン』に至りました。

今の僕たちの活動は、こちらからソリューションやアイデアを出すことは努めてやらないようにしています。地域の人たちと対話して、皆さんが自分たちの力で実現したから、今がある。「studio-Lさん、何かやってくれましたっけ?」という状態、それがある種の僕らの成功なのです。

話が戻りますが、例えば“こくベジ”の活動でも、「日立の柴田さん、何かやってくれましたっけ?」という状態は本人たちには成功でも、会社がどう評価するかはやっぱり難しいですね。

柴田
そうですね。僕らはやはり企業なので、そして技術の会社なので、住民にとって余計なお世話かもしれないものを提案してしまう傾向はありますね。そういった意味では、我々のような企業が完全にニュートラルな立場に立つことはできないでしょう。でも、これまでのようなソリューションを提案していくような形からは、まちで必要とされる新しいしくみを生み出すことはできない。バランスがとても難しいですね。

画像: モノを作らないデザインへの離陸
画像1: 対談 「モノを作らないデザインの力」
【第2回】『コミュニティデザイン』という仕事。

山崎亮(やまざき・りょう)

studio-L代表。コミュニティデザイナー。社会福祉士。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』、『地域ごはん日記(パイインターナショナル)』、『ケアするまちをデザインする(医学書院)』などがある。

画像2: 対談 「モノを作らないデザインの力」
【第2回】『コミュニティデザイン』という仕事。

柴田吉隆(しばた・よしたか)

株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ ビジョンデザインプロジェクト 主任デザイナー。1999年日立製作所入社。ATMなどのプロダクトデザインを担当ののち、デジタルサイネージや交通系ICカードを用いたサービスの開発を担当。2009年からは、顧客協創スタイルによる業務改革に従事。その後、サービスデザイン領域を立ち上げ、現在は、デザイン的アプローチで形成したビジョンによって社会イノベーションのあり方を考察する、ビジョンデザインプロジェクトのリーダーを務める。

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