日立のCSR施策「SDGs協創ワークショップ」レポート
3日間にわたって行われた日立の情報通信部門のCSR施策、「SDGs協創ワークショップ」。前回長野県塩尻市でフィールドワークを行った日立の社員が、最終日は再び都内に集結した。社会課題が起きている現場で手に入れた情報や初日のレクチャー、グループワークで得た視点を生かし、ディスカッションやワーク、プレゼンなどで、塩尻が抱える課題解決のアイデア創出に一人ひとりが取り組んだ。

「1日目:社会課題に向き合う思考法を学ぶ」はこちら>
「2日目:木曽漆器をフィールドワークする」はこちら>

ディスカッション「次の100年につながるアイデア」

塩尻でのフィールドワークから2週間後の7月31日、SDGs協創ワークショップの最終日。午前9:00、再び東京・田町のSHIBAURA HOUSEに日立の社員が集まった。2週間ぶりの再会に各テーブルで会話が弾むなか、3日間のプログラムを運営するNPO法人ミラツクの代表理事・西村勇哉氏が口を開いた。

「これまでの2日間で、さまざまな視点で課題を解決するアイデアを考えてもらいました。それらを収束して、今日は具体的な行動に結びつくアイデアを考えてもらいます」

まずは5つの課題テーマ「子ども・教育」「山・森」「高齢者・障がい者雇用」「空き家・空間」「文化・伝統産業の継承」に分かれ、参加者間でフィールドワークの振り返りを行った。

画像: ディスカッション「次の100年につながるアイデア」

前回、フィールドワーク後のアイデア提案で、塩尻市の職員・山田崇氏から「次の100年につながるぶっ飛んだ案を」と注文を受けた「文化・伝統産業の継承」グループの4人は、なんとかアイデアの糸口を見つけ出そうと必死に意見を出し合った。

「例えば100年後、『プラスチックは全面使用禁止。一度つくったものは捨てずに使い続けなさい』みたいな法律ができたと仮定して、エコの方向性で考えるのはどうですか? 漆器の“壊れても修復可能”な特長を生かして」
「なるほど。消耗品をうまいこと安く組み込めば、普及できるかも」
「カミソリで、替刃でどんどん儲けていくビジネスモデルがあるじゃないですか。あれみたいに、『一度ご購入いただいたあなたの漆器、一生面倒見ます』みたいな」
「それ、いいかも。1年に1回、何かの記念日のタイミングで漆器を職人さんに預けると、新しく模様を入れてくれるとか」

振り返りの後は、フィールドワーク後に抽出した「現場の課題と可能性」から、アイデアの源泉や断片になりそうなものを1人3つ選ぶワークを行った。その間も、4人のディスカッションは止まらない。

「木曽漆器だけではなく、街づくりの問題なのでは? 木曽漆器を買う人は、おそらくほかに目的があって塩尻に来て、おみやげに漆器を買っているはず。もしそうだとすると、木曽漆器をブランド化するよりも、人が来るような街づくりが大事なのだと思う」
「確かに。塩尻に行けば漆器を買うだろうけど、そもそも塩尻に行くことがなかなかない」
「インバウンドを呼び込むとか、ネットで販売するってやり方もあるんじゃないですか?」
「外国人って、気に入ると現地まで行ったりしますよね」
「そうそう。秘湯中の秘湯に行く外国人っているじゃないですか。不便な場所だからといって行かないわけではないですよね」

直線的に掘り下げるのではなく、新しい文脈を持ち込む

ここからはフィールドワークの内容から一旦離れ、アイデアのコンセプトを検討するワークに入る。西村氏は宇宙船を例に、コンセプト検討の肝を語った。

画像: 現在の宇宙船内部の様子を例に挙げ、アイデアのコンセプト検討の肝を語る西村氏。

現在の宇宙船内部の様子を例に挙げ、アイデアのコンセプト検討の肝を語る西村氏。

「50年前のロケットの内部と比べて、現在の宇宙船内部の見た目はほとんど変わっていません。コンピュータの性能は100億倍くらいよくなっているのに。ただ線形にまっすぐ進化するだけだとこうなります。

塩尻で社会課題に直面している現場の当事者は、きっとたくさん解決策を考えている。そこに敢えてわたしたちが関わる理由は、『こういう切り口もありませんか』と、新しい文脈を提供することです。新しいテクノロジーでも、新しい考え方でもいい。そのために必要な『文脈としてのコンセプト』を形成しましょう」

まず1つめのワーク。未来学者らが言う「未来予測」が書かれた552枚のカードから、「未来社会の可能性」を考えるにあたって重要度が高いと感じたカードを1人10枚ずつ選ぶ。例えば「医学・薬学の進歩により寿命が延びる」「近い将来、誰でも宇宙旅行に行く機会がある」「2060年にはチベット高原の氷河の3分の2が消えてしまう」「人体から心臓や肺などの臓器は取り除かれる」などさまざまな未来に対する予測情報が並ぶ。

画像: 未来の予測情報が書かれた552枚のカードから、重要度が高いと感じたものを1人10枚選ぶ。

未来の予測情報が書かれた552枚のカードから、重要度が高いと感じたものを1人10枚選ぶ。

次に、選んだ10枚のカードを起点に、さらに先に考えられる「望ましい可能性」「避けたい危険性」をポストイットに書き出す。例えば、「医学・薬学の進歩により寿命が延びる」というカードを選んだある社員は、望ましい可能性として「健康寿命が延びることによるQOLの向上」を挙げた。一方で、避けたい危険性として「貧富の差による寿命格差」が生まれると指摘した。

画像: 予測情報カードごとに書かれた「望ましい可能性」「避けたい危険性」のポストイットを、1人3枚ずつ選ぶ。

予測情報カードごとに書かれた「望ましい可能性」「避けたい危険性」のポストイットを、1人3枚ずつ選ぶ。

次に、「望ましい可能性」「避けたい危険性」が書かれたポストイットをもとに、1対1のインタビューセッションを実施。「『望ましい未来の可能性』がうまく展開されたとしたら、どのような暮らしの姿が描けますか?」「避けたい未来の危険性を低減するために、どのような考えや動き、流れや潮流が求められるでしょう?」など13の質問を通じて、望ましい地域社会の未来をイメージし、フィールドワークで得た課題と可能性を起点としたアイデア創出につなげるのがねらいだ。

その後は個人作業。インタビューのメモを参考に、各自が実現したい「望ましい未来社会」のコンセプト・ワードをつくり、そのコンセプトを実現する未来に至るまでの歴史的な変遷を、未来史として紙に書く。ここで言う未来とは、2050年くらいを指す。

画像: 「望ましい未来社会」が実現される2050年までの未来史を、イラストを交えて書いていく。

「望ましい未来社会」が実現される2050年までの未来史を、イラストを交えて書いていく。

1.5分に込めた未来のイメージ、課題解決のアイデア

午後は、これまでの取り組みをまとめて一人ひとりが発表する「1.5分間プレゼン」を行った。実現したい未来のコンセプト、未来の社会のイメージ、課題だと感じた社会の状況、その解決のアイデアを語る。本連載で追ってきた「文化・伝統産業の継承」グループの4人からは、次のアイデアが挙がった。

「未来を共有し、技術力を生かせる楽しい街」
新製品や新サービスがどんどん生まれる街、異業種交流が盛んな街をイメージした。塩尻の課題は、販路開拓や後継者不足など未来への不安。それを解決するアイデアとして、何度も漆を塗り重ねられる技術を活かし、記念日が来るたびに漆器に日付を入れるサービスや、サブスクリプション型で漆器を貸し出すサービスを考えた。また、国内外の漆器に対する興味を集め、フィードバックするためのワーキンググループを塩尻につくってはどうか。そのなかで協創し、新しいものをどんどん生み出す。我々日立がそれをサポートしてはどうか。

「あらゆるものへの想像力と思いやりをもつ 循環する社会」
日用品がプラスチック製や使い捨てになっているいま、木曽漆器の需要が減っている。ただ、自然のもので作られた漆器が長く使い続けられることに可能性を感じる。めざす未来のイメージは、それぞれの地方に人が集まっていて、その人たちが地元に愛着を持っている社会。そしてものを使い続けること、自然に還るものを使うこと。課題解決のアイデアとして、漆器やワインを中心に据えた街づくりや、コンパクトな街づくりを提案する。漆や木材、ワインなどを活用した実験場として街を貸し出すのもどうか。

「日常に楽しさがある木曽漆器生活」
塩尻の課題は、木曽漆器がほかの産地の漆器と差別化できてないこと。現地でのヒアリングでは、木曽漆器が日常品扱いで売られていることがわかった。日常品というキーワードをとがらすため、木曽漆器がより身近に手に入るようにしたい。日常品を大量に作るには人が必要なので、高齢の職人さんの技能・ノウハウをAIで継承して木曽漆器を大量生産し、より身近で買えるような形で販売していけたらよいのでは。

画像: テーマ「文化・伝統産業の継承」の課題解決アイデアをプレゼンする日立社員。

テーマ「文化・伝統産業の継承」の課題解決アイデアをプレゼンする日立社員。

「漆器の魅力をグローバルに発信!!」
フィールドワークでは、「インバウンドの対応ってどうなっているんだろう?」という疑問が個人的なテーマだった。実際、英語や中国語の対応ができていないのが現状。木曽漆器の魅力は海外の人に伝わっていない。それに対する解決策として、まずは日立のグローバル社員に実際に漆器を手に取ってもらえるよう、会社や社員食堂に導入し、触れてもらって、そこから少しずつ家族や友人を通じて漆器の魅力をグローバルに発信していけたら。

「パソコンにピアノ」の発想を

ほかの4つのテーマ「空き家・空間」「子ども・教育」「山・森」「高齢者・障がい者雇用」を選んだ参加者からは、次のようなアイデアが挙がった。

「空き家・空間」を選んだある社員は、首都圏などへの人口流出が塩尻市における空き家増加の一因であると捉え、「地方で暮らし、世界とつながる多様な社会」というコンセプトを提示。それを実現するためのアイデアとして「VRを仕事の打ち合わせや医療や高等教育に活用し、Face to Faceでのやりとりをオンライン化するのはどうでしょうか。そうすれば、塩尻で生まれ育った人の多くが塩尻で暮らし続けることができます」と続けた。

また、所有者が不明のまま空き家になってしまったケースや、取り壊すにも多額の費用がかかるため放置されているケースの解決策として、「空き家になって一定期間経過した住居の所有権を市に移譲できる制度の整備」や「空き家を共同住宅にしてはどうか」などの提案もあった。

画像: 「空き家・空間」の課題解決アイデアをプレゼンする社員。

「空き家・空間」の課題解決アイデアをプレゼンする社員。

テーマ「子ども・教育」では、「乳幼児一人ひとりの予防接種履歴やアレルギーなどの情報をデータベース化して保護者と保育園が情報共有し、体調管理に役立てる」というアイデアが生まれた。また、所有者不明の山林が多いことが問題となっているテーマ「山・森」については、「山の所有状況の可視化」「山を投資対象と捉え、“この山は木質バイオマスの資源”と決めて手入れする」といった提案があった。「高齢者・障がい者雇用」のテーマでは、「企業と障がい者のジョブマッチング支援」のほか、“ソーシャルハウス”と題して「高齢者や障がい者、核家族、独身の人たちが一緒に暮らすことで、気がつけば1つのコミュニティが形成されている。そんな施策を、日立の社員寮で試してみてはどうか」といったユニークな発想も飛び出した。

参加した約30人分のプレゼンが終了すると、各テーブルで感想を共有。フィールドワークをともにしたメンバーとのグループワークはこれが最後になる。「文化・伝統産業の継承」のテーブルでは、こんな声が上がった。

「雑談のなかで生まれたアイデアもあった。気軽に話すことが大事なんだな」

画像: 「パソコンにピアノ」の発想を

こうして3日間のワークショップは閉幕。すでに時刻は17時半を回っている。西村氏はこう締めくくった。

「パソコンのキーボードは、最初はタイプライターのような配列ですごく打ちにくくて、全然売れなかったんです。ところが、クリストファー・レイサム・ショールズがピアノの鍵盤をヒントにした機器を開発し、そこから世の中に広がっていきました。だからキーボードを直訳すると『鍵盤』なんです。パソコンに楽器、まったく違う文脈のものがコンピューティングの進化に役立った。このエピソードのように、新しい文脈のもとに、新しいものとまだないものを組み合わせる。そんな発想を皆さんには身につけてほしいです。3日間、おつかれさまでした」

この日、社員がプレゼンしたアイデアは、1日目2日目に登壇した塩尻市の山田崇氏に、ミラツクを通じて共有された。約1カ月後の9月上旬、再び山田氏が都内を訪れ、社員にフィードバックを行う。次回、その模様をお伝えする。

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