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株式会社ポピンズホールディングス 代表取締役会長/日本女性エグゼクティブ協会 代表 中村紀子氏
新規参入企業が仕掛ける価格競争に巻き込まれることなく、創業以来右肩上がりを続ける株式会社ポピンズホールディングス(以下、ポピンズ)。同社が歩んできた歴史は一見順風満帆にも見えるが、その陰には顧客から正当な評価を得られず規制と闘い続ける日々があった。創業者の中村紀子氏は、いかにして逆風に立ち向かったのか。そして、闘い続ける中村氏を支えるモチベーションとは。

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保育士不足と岩盤規制の矛盾

――日本ではいまだに待機児童の問題が解決されていません。中村さんはこの現状をどうご覧になりますか。

中村
とにかく今の日本は保育士が足りません。それなのに保育業界は規制が厳しすぎるために、改善が進まないのです。ですからわたくしは何度も何度も厚生労働省に対して規制緩和の必要性を訴え、改革を実現させてきました。

例えば、もともと認可保育所では保育を担うスタッフ全員が保育士でなくてはならなかったのですが、2015年にようやく規制が緩和されて、3歳児以上の保育には幼稚園や小学校の教諭を採用できるようになりました。また、以前は年1回しか実施されなかった保育士国家試験が年2回に増えました。

規制改革は、1つずつ、10年がかりで。

中村
2016年にも大きな規制改革が実現しました。それまでの保育所には、子どもが少ない早朝や夕方でも保育士が2名いることが原則でした。ただでさえ保育士不足のこの時代に、それだけの人材を集めるのはかなり大変なことです。

でも、我々の長い保育経験から、例えば朝の7時から9時の間、夕方5時から夜8時の間は、保育ではなく預かっている時間なので、ベビーシッターや保育士でなくても対応できる。だから保育士1名でも充分対応可能なことがわかっていました。

「保育所の規制緩和を自社だけでやっても仕方ない。是非ポピンズさんの仲間に加えてください」という競合他社からの声もあり、わたくしが業界大手5社の代表幹事になって、保育士1名でも保育所の設置ができるよう厚生労働省に対して規制緩和を働きかけたのです。こうして2016年にルールが変更され、「保育士は1名でも可。もう1名、保育士と同等の知識や経験のあるスタッフがいればOK」となりました。

画像: 規制改革は、1つずつ、10年がかりで。

ところがその後、またしても規制の壁に阻まれることになります。2015年に厚生労働省が「3歳児以上の保育は幼稚園や小学校の教諭でもOK」と規制緩和したにもかかわらず、保育所の設置を許可する地方自治体からはそれが認められないことがわかったのです。これに関しても、我々が業界をリードして規制改革に乗り出さなくてはいけないと考えています。

ただ、なかなかすぐには実現しないでしょうね。いずれの規制改革も、実現に10年近くを要しましたから。国や地方自治体は、いったん作った規制をなかなか変えない。株式会社が保育や介護に参入し、規制緩和を求めることに対して、社会福祉法人が徹底的に反対するのです。それでも最終的には、国民の皆さまの応援が我々を後押ししてくださいました。

驚異の顧客満足度「97.5%」

――御社のサービスが世の中の働く女性から支持されていると実感するのは、どんなときですか。

中村
毎年1回、当社が運営しているナーサリースクール(保育所)を利用してくださっている保護者に満足度調査を行っています。昨年は約200カ所で調査したのですが、平均で97.5%の利用者が「大変満足」「満足」と回答してくださいました。

――すごい数字です。

中村
最初は信じられませんでした。保育士をはじめとする現場のスタッフが、お客さまのために頑張ってくれた結果ですよね。

画像: 驚異の顧客満足度「97.5%」

社員が入社してから成長していく姿、それを見るのがすごく楽しい。「女性ってこんなに大きな可能性を秘めているんだ」ということを実感できる。これはもう、ポピンズを経営するという仕事の醍醐味ですね。

原動力は、新人アナウンサー時代の挫折

――中村さんご自身のお仕事に対するモチベーションは、いったいどこから来るのでしょうか。

中村
テレビ朝日のアナウンサーになった社会人1年目の経験が大きいと思います。入社3カ月で、平日お昼のワイドショーの司会を任されたのですが、いかに自分自身の能力を過信していたのかを痛感させられました。

学生時代は勉強のコツをつかむのが上手で、高校でも大学でも成績は学年トップでした。まず、試験の4日くらい前から学校を休んで、一気に試験範囲を勉強する。そしてわからないところをピックアップして、その分野に一番詳しい同級生に電話して教えてもらう。そんな調子で学生時代を過ごしてとんとん拍子でアナウンサーになって、周りからちやほやされて、自分で気づかないうちに鼻持ちならない女性になっていたのかもしれません。

そんなわたくしが、平日お昼のワイドショーのサブ司会に大抜擢されました。テレビ朝日の新人アナウンサーとしては当時異例のことでした。

ところが、いざ司会をすることになったものの、何も気の利いたことが言えない。今思えば、政治、経済、芸能、スポーツといった時事ネタに対して、大学を出てたった3カ月の女の子がコメントするなんて、そもそもできないでしょう?番組が終わるとディレクターから徹底的に怒られました。「紀子バカ野郎!」ですよ。「おまえは黙って立っているだけの人形か!」と。次の日、今度こそ一生懸命コメントしようと頑張ったのですが、「あんなくだらない質問しやがって!」とまた怒られる。しゃべっても怒られる、しゃべらなくても怒られるという状況が1年間続きました。

この挫折から、いかにわたくしが大学時代にちゃんと勉強してこなかったかを思い知らされました。チャンスはいつ訪れるかわかりません。だから、当社の若い社員によく言うのは、「常にわたくしはウェルカムです」っていう状態にしておくために、勉強しなさいと。「備えよ、常に」と。

もう1つ、わたくしにとって大きなモチベーションがあります。当社がやっていることは、お客さまから直接「ありがとう」とお礼を言っていただける仕事だということです。これは社員全員が実感していることだと思います。仕事をすると、その反応が感謝として、ときにはクレームとして返ってくる。特に、お客さまとじかに接する機会のないような職種から転職してきた社員は、「地に足がついた仕事をしているな」ということを強く実感するそうです。それだけ、わくわくする仕事だと言えますよね。

画像: 働く女性を支える30年の保育革命
【第3回】業界を切り拓き、規制を打ち破る原動力

中村紀子(なかむらのりこ)

テレビ朝日アナウンサーを経て、1985年にJAFE(日本女性エグゼクティブ協会)を設立。 1987年、株式会社ポピンズホールディングスの前身・ジャフィサービス株式会社を設立。現在、同社代表取締役会長。公益社団法人全国ベビーシッター協会副会長、厚生労働省女性の活躍推進協議会委員、2017 世界女性サミット(GSW)東京大会実行委員長などを歴任。第1回日本サービス大賞厚生労働大臣賞(2016年)、日経DUALベビーシッターランキング1位(2019年)など受賞多数。

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シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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