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株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 サービスプラットフォーム・プロダクツ人事部 部長 平野健太郎
2018年、2カ月間のプロボノに参加した、平野健太郎をはじめとする5人の日立グループ社員。支援先団体の活動の価値を可視化するというミッションに取り組んだ彼らだったが、プロジェクトが進むにつれ、ある不安を覚えていった。紆余曲折の末、平野たちがたどり着いたゴールとは。そして、50歳を迎える平野だからこそ語れるプロボノの意義とは。近年注目を浴びつつある新たな社会貢献の形・プロボノを、運営団体、企業、社員それぞれの視点から語ってもらったインタビューシリーズの最終回。

「第1回:NPO支援という社会貢献」はこちら>
「第2回:社員を巻き込めるCSRへの取り組み」はこちら>
「第3回:てこの原理が生み出す、たくさんの社会貢献」はこちら>
「第4回:日立が始めた、2カ月のプロボノ」はこちら>
「第5回:“明後日のメシのタネ”を探す」はこちら>
「第6回:日立の社会イノベーションと、プロボノの関係」はこちら>
「第7回:日立のエンジニアが目にした、NPOの真の姿」はこちら>
「第8回:プロボノのリーダーがつかんだ、マネジメントのあるべき形」はこちら>
「第9回:人事部長、プロボノに飛び込む。」はこちら>

「本当に髙田さんの役に立つのだろうか?」

過去に一般社団法人夢らくざプロジェクト(以下、夢らくざプロジェクト)のイベントに参加した子どもの保護者を対象としたアンケート調査は、2018年10月中旬から2週間にわたりWeb上で実施され、約140名から回答があった。11月初旬、平野健太郎をはじめとする日立のプロボノメンバー5人は、集まった回答の取りまとめに着手。しかしメンバーたちの胸には、どうしても拭い去れない1つの不安があった。

「自分たちの取り組みは、本当に髙田さんの役に立つのだろうか……?」

画像: 「本当に髙田さんの役に立つのだろうか?」

そして迎えた、11月の後半。平野たちは夢らくざプロジェクト代表理事の髙田亮氏に、調査結果のプレゼンテーションを行った。

「過去の参加者のうち90%以上のご家庭で、お子さんに何らかの変化が見られました。なかでも多かったのが『他の仕事も体験してみたいと言った』『体験した仕事について話してくれた』『イベントで体験したことを家でも実践した』といった変化でした。

それから、男の子はメンタルトレーナーやシステムエンジニアなどの教育・サービス関係、ロボットクリエイターをはじめとするものづくり関係の仕事体験をよく覚えていたのに対して、女の子はどの種類の仕事もまんべんなく覚えていることもわかりました。

そのほか、イベントから年数が経っているお子さんほど『イベントで体験したことを家でも実践した』『体験した仕事に関連する道具を欲しがるようになった』などの積極的なアクションが多いという、意外なこともわかったのですが……」

画像: 平野たちが作成した調査結果の一部。これに加え、プロボノ終了後も髙田氏が自身でアンケートの集計ができるよう、表計算ソフトのフォーマットも提供した。

平野たちが作成した調査結果の一部。これに加え、プロボノ終了後も髙田氏が自身でアンケートの集計ができるよう、表計算ソフトのフォーマットも提供した。

調査結果を目にした髙田氏の反応は、決して芳しいものではなかった。

「要するに、だいたい髙田さんの想定どおりの結果だったのです。ポジティブにとらえれば、『髙田さんがやってきた活動は、間違ってないですよ』という証でもあるのですが、それよりも髙田さんが求めていたのは、『ここを改善したら、活動がもっとよくなるんじゃないか』を考えるための材料でした」

2カ月で終わらなかったプロボノ

プロボノプロジェクトの期限は11月末。残された時間は1週間ほどしかなかった。どうすれば、髙田氏の活動に役立つ成果を生み出せるのか。悩み抜いた彼らは「追加成果物の作成」を申し出た。

「髙田さんの活動の価値は、数字の上では証明できた。これはこれで1つの成果です。それに加えて、アンケートの自由記述回答やイベント会場でのヒアリング結果などを分析すれば、数字に表れないヒントが見えてくるはず。わたしたちはそう考えて、職種がバラバラなメンバー5人各自の視点で、今後の夢らくざプロジェクトの活動を改善するための提案書を作り、年明けに提出させていただくことにしました」

12月に入っても、5人は自主的に活動を継続。平野自身は、こんな提案を練っていた。

「『おしごとなりきり道場』の仕事体験は、基本的に1回60分です。わたしが会場で耳にしたのは、『小学校高学年の子どもにとって60分では物足りない』という声でした。そこでわたしが提案したのは、高学年向けの仕事体験は通常の倍の120分にするといった柔軟な時間設定です。

それから、現状では会場の近隣の学校に開催の周知をしていますが、学校ではなくてPTAに働きかけたら、もっとたくさん子どもが集まるかもしれない。それに活動範囲についても、今までは首都圏だけでの開催でしたが、それってもったいないと思うのです。髙田さんと一緒に活動してくれる仲間を増やせば、他の大都市圏でも開催できるかもしれない。そこで、行政も巻き込んだ仲間づくりのための取り組み提案も考えました」

結果的に、平野たちのプロボノ活動は約3カ月に及んだ。その間、メンバーが予期しなかった事態に見舞われたこともあった。

「当初は『毎週水曜夕方に社内で集まって打ち合わせよう』と決めてスタートしたのですが、始まってすぐにメンバー5人のうち2人が異動することになってしまったのです。当然、毎週全員そろうのは難しいので、『3人以上集まれるときは、打ち合わせをやろう』とルールを緩めました。でも結局、ほぼ毎週打ち合わせしましたね」

その原動力の1つは、チームワークのよさにあったようだ。

「リーダーをやってくれた方がとてもアクティブだったこともあり、打ち合わせが終わると、自然に飲み会の流れになっていましたね。節目の打ち合わせのあとは、もちろん髙田さんも交えて飲みましたよ」

画像: 2018年12月に日立で行われたプロボノの成果報告会で、プレゼンテーションを行った平野のプロジェクトチーム。メンバー間の雰囲気の良さが際立っていた。

2018年12月に日立で行われたプロボノの成果報告会で、プレゼンテーションを行った平野のプロジェクトチーム。メンバー間の雰囲気の良さが際立っていた。

当の髙田氏にとっても、プロボノメンバーとのやりとりは刺激になったようだ。「これまで1人で活動していたので、なかなか第三者の評価を聞く機会がなかった。わたしの活動を理解してくださったうえでいろいろな意見をいただけたことは、とても貴重な経験でした」と、のちに振り返っている。

社員に考えてほしい、人生100年時代のキャリア形成

プロボノ期間中、平野が最も刺激を受けたこと。それは、髙田氏の生き方そのものだったと言う。

「ご本人から伺ったのですが、髙田さんは今の活動を2011年に始めるまで、広告代理店をはじめいくつかのお仕事を渡り歩いてこられたそうです。いわば何回もキャリアチェンジをなさった末に、ご自身が打ち込める社会課題を見つけ出して、夢らくざプロジェクトを立ち上げた。『子どもが人生の選択をするときに、1つの仕事しか知らないという環境を作ってはいけない。いろいろな仕事の選択肢があるということを、仕事体験を通じて知ってほしい』という、その着眼点がすごく立派だなと思いました。

そういう生き方って、素敵だなと思うのです。わたしはそろそろ50歳になりますが、社会人になってから今まで会社員人生しか歩んでいない。髙田さんのようにフリーな生き方もあるのだなと、目からうろこでした。というのは、わたし自身、入社以来ずっと担当してきた人事という仕事にやりがいを感じる一方で、(何か他のことにも本気で取り組んでみたいな)という気持ちがずっとあったので。今回プロボノに参加して、会社に所属しながら本業とは違う活動をできたことは、とてもよい機会でした」

画像: 社員に考えてほしい、人生100年時代のキャリア形成

自身は人事部長として、社員を見る立場にある平野。プロボノを、多くの社員に体験してもらいたいと考えている。

「まずは若い社員に体験してほしいですね。世の中に今どんな社会課題があって、そこに自分がどう携われるかをじかに感じられる機会がプロボノだと思うのです。わたし自身、そう強く感じましたから」

さらに、ベテラン社員がプロボノに参加する意義も見逃せないと平野は言う。

「人生100年時代。おそらく70歳、80歳くらいまでは、多くの人がまだまだ元気に動けますよね。仮に22歳で就職して75歳まで働くとすると、その中間が48、49歳。ちょうど今のわたしくらいの年齢です。そこからの後半の仕事人生で何をやるかを、ポジティブに考えていくべき時代だと思うのです。例えば、50歳以降は社会貢献や世の中と触れ合える活動に比重を置く。いわば、二毛作、三毛作の人生ですよね。そういった、長い人生を見据えたキャリア形成がこれからは必要ではないでしょうか。プロボノは、それを考える絶好の機会だと思います」

画像: 社員と社会をつなぐ「プロボノ」
【第10回】プロボノで、「二毛作人生」の準備を。

平野健太郎(ひらのけんたろう)
愛知県出身。1992年、株式会社日立製作所に入社し冷熱事業部(現・日立アプライアンス株式会社)に配属。以来、各事業所の人事労務管理を担当。日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 人事総務部 勤労課 課長、日立製作所 労政人事部 部長代理などを経て、2018年、システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 サービスプラットフォーム・プロダクツ人事部 部長に就任。2018年10月から2カ月間、一般社団法人夢らくざプロジェクトでのプロボノプロジェクトに参加した。

関連リンク

一般社団法人夢らくざプロジェクト Webサイト

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