株式会社日立製作所 グローバル渉外統括本部 サステナビリティ推進本部 企画部部長 増田典生
5年以上に及ぶ長期プロジェクトと、2カ月間の短期プロジェクト、2つのプロボノ施策を日立の情報通信部門に導入した増田典生。第6回では、増田の異色の経歴に触れるとともに、CSR事情に通じた増田だからこそ語れる国内外の情勢、そして日立のビジネスの本質とCSR戦略におけるプロボノの位置づけを語ってもらった。そこには、プロボノの可能性と日立の将来に対する、増田の並々ならぬ思いがあった。

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「第4回:日立が始めた、2カ月のプロボノ」はこちら>
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はじまりは「社内失業家ふぇ」

日立にプロボノを導入した増田典生。そのキャリアは、1985年、当時関西に本社のあった日立西部ソフトウェア(現・日立ソリューションズ)のシステムエンジニアとしてスタートした。

「ほどなくしてお客さま向けの技術指導を担当するようになって、大規模データベースやオンラインシステムの構築のインストラクターをしばらくやりました。そこから、社内のエンジニア育成のための教育体制を整備することになって総務部門に移り、労務管理や採用活動も担当するになりました。エンジニアとして就職したのに、初めて課長になったときの所属は人事総務課でした」

さらに経営企画部担当部長を6年務めたあと、CSR部長となり、グループ事業再編で日立製作所情報通信部門に転籍となった。この経歴が、プロボノ施策のスキームを作る際に大いに役立ったと増田は振り返る。

「人事総務では社員をモチベートすることの重要性や採用の難しさを痛感しましたし、経営企画では財務指標が重要ですから、それを踏まえて事業戦略を練ることの必要性が身に染みてわかりました。こうした経験ができて、会社や上司には本当に感謝していますよ」

CSR戦略を担当するようになってからは、異業種交流イベントや社内外の勉強会に積極的に参加するようになった増田。日立ソリューションズのCSR部長になった2012年の夏、たまたま参加したある勉強会が、大きな出会いのきっかけとなった。

「あれは確か『社内失業家ふぇ』というイベントでした。企業組織が抱えている資源をパブリックリソースとしても社会に活かす、そんな積極的視点から社内失業者を「社内失業家」として考え直してみる…そんなテーマだったと記憶しています。講演者の一人として登壇したJEBDA(一般社団法人 新興事業創出機構)の鷹野秀征さんという方が紹介なさった、東日本大震災の復興支援の取り組みにすごく興味を持ったんです。

ちょうど震災の翌年でしたし、CSR部長になったばかりでしたから、講演後に鷹野さんのところに行って名刺交換をしながら『我々も何か復興のお手伝いをしなきゃと思ってるんです』なんて話をしました。そうしたら数日後に「紹介したい人がいる」と連絡をいただいて。それでお目にかかったのが、のちにプロボノ支援をさせていただくことになった釜石ヒカリフーズ株式会社の佐藤正一社長でした」

画像: はじまりは「社内失業家ふぇ」

実際に会ってみると、自分の会社のことよりも釜石をいかに活性化すべきかを延々と語る佐藤氏を見て、増田はいたく感動したという。そして翌2013年から、日立ソリューションズの社員による釜石でのプロボノ支援が始まった。増田と佐藤氏、そして日立グループと釜石との交流は今も続いている。

「あの日『社内失業家ふぇ』に参加しなかったら、佐藤さんとの出会いはなかった。職場の外の世界に顔を出すって大事だと思いますよ」

次のステップは、「トリプルボトムライン」の算出

近年、CSRに関する数々のイベントに登壇している増田。さまざまな企業のCSR部門責任者と接点を持ち、交流の幅を広げ続けている。2017年からはグローバルにおける日立のサステナビリティ戦略を担当し、活躍の場はさらに広がった。増田の目から見て、今、日本が参考にすべきサステナビリティの先進企業はどこか。彼が挙げたのは、ベルギーの化学メーカー「ソルベー(Solvay)」だ。

「ソルベーは、自社が生み出している社会価値と環境価値の定量評価を進めています。この2つに経済価値を加えたものが、事業評価における『トリプルボトムライン』と呼ばれているのですが、特に社会価値や環境価値の定量評価の方法はまだ世界的にも定まったものがありません。

ソルベーの場合は、その3つの定量評価を自社だけでなくパートナー企業も含めたサプライチェーン全体で算出し経営戦略に活かしていると聞いており、これは素晴らしいと思います」

試しに、増田が日立の風力発電事業について概算してみたところ、年間の経済価値は約800億円(売上額)。社会価値は、風力発電システム1基あたりの出力電力量と家庭1戸あたりの消費電力から逆算して、約50万世帯にクリーンエネルギーを供給していることになった。さらに環境価値はというと、火力発電との比較でCO2を年間約77万トン削減。確かに、こうして数字になるとわかりやすい。

「昨年、グローバルにおける日立の各ビジネスユニットと主要グループ会社とが1年間かけてディスカッションを行い、日立の主な事業がSDGsのどの目標に関わっているかを整理して、『日立SDGsレポート』という報告書にまとめました。この作成にあたっては先ほど挙げたソルベーや、欧州委員会、世界経済フォーラム(WEF)、通信会社のオランジ(Orange)などのサステナビリティ戦略で先行するヨーロッパの企業・団体からもアドバイスをいただきました。現在は、2019年から始まる当社の次期3ヵ年中期経営計画で、事業が創出する社会・環境価値を定量的に評価したいと考えています」

画像: 次のステップは、「トリプルボトムライン」の算出

CSR戦略のコアに、プロボノを

CSRを巡る世の中の動向を、増田は「今や経営そのものがCSRですよね」と喝破する。

「わたしは、“守りのCSR”と“攻めのCSR”の大きく2つがあると考えています。ガバナンスやコンプライアンスをきちんと守るのが“守りのCSR”。そして、自分たちの事業を通じていかに社会へのポジティブインパクトを生み出していくかを追求するのが、“攻めのCSR”です」

さらに増田は「特に日立の場合、そのコアに置くべき施策の1つがプロボノだとわたしは考えています」と続ける。

「日立にとってビジネスの目的は何かというと、社会のサステナビリティ=持続可能性の実現なんですね。2010年に、当時社長だった中西が改めて『日立のビジネスは社会イノベーション事業です』と宣言しました。日立と社会とをつなぐキーワードがこの『社会イノベーション』だとすれば、社員一人ひとりと社会とをつなぐのが『プロボノ』だと思います。

世間から日立は『BtoB』の会社と言われていますが、わたしの認識は違います。BtoBの先にエンドユーザーである消費者の皆さんがいて、そのさらに先にソーシャルがある。つまり、日立のビジネスは『BtoBtoCtoS』。日立はBtoS企業だとわたしは考えています。ですから、社員がソーシャルを知る機会を持つことはすごく大事なのです。その大きな可能性を持つのがプロボノだと考えています。」

増田が釜石でのプロボノを始めてから5年。そして、2カ月間のプロボノを導入してから今年で3年目を迎える。社員に浸透しつつあるプロボノへの期待を、増田はこう語った。

「プロボノを経験してソーシャルマインドを持った社員が、いずれは部長、役員という立場になってほしい。今その役職にいる社員が若かった頃は、プロボノに参加できる機会なんてありませんでした。でも、これからは違います。NPOの課題解決を支援した経験のある人が組織のリーダーになれば、日立はもっと社会のサステナビリティの実現に貢献できる会社になる。そう信じています」

画像: 社員を社会につなぐ「プロボノ」
【第6回】日立の社会イノベーションと、プロボノの関係

増田典生(ますだのりお)
1961年、神戸市生まれ。1985年、日立西部ソフトウェア株式会社(現・株式会社日立ソリューションズ)に入社。システムエンジニアや技術指導員、人事総務課長、経営企画部担当部長などを経て、2012年に日立ソリューションズCSR部長兼ブランド戦略部長に就任。翌2013年に岩手県釜石市でプロボノ活動を開始した。2015年、事業再編で株式会社日立製作所情報・通信システム社(現・システム&サービスビジネス統括本部)に転籍。コーポレートコミュニケーション本部ブランド戦略部担当部長とCSR部長を兼ね、日立情報通信部門のプロボノ施策を牽引した。2017年からは日立本社にてグローバル渉外統括本部サステナビリティ推進本部企画部長を務めている。

(第7回からは、実際にプロボノを経験した日立社員の話を掲載する予定です。)

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