「旅行×IT」のビジネスモデルの原点はどこにあるのか。それは、加藤氏が生来持っているベンチャースピリットと、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでの学生時代、黎明期のインターネットに触れたことが大きい。その後、リクルートで「じゃらんnet」を立ち上げ、新規事業を次々成功させた加藤氏のキャリアは、WAmazingの起業まで一本の道として貫かれていた。

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普及前夜のインターネットに出合い、触発された

「個人旅行で日本を訪れる外国人」に特化したサービスとして、インバウンド市場の成長を後押しするWAmazing。ありそうでなかったターゲット設定のもと、短期間のうちに急成長を遂げたとあって、経営者の加藤氏もメディアに取り上げられる機会が増えている。

ただ本人は「起業するとか、経営者になるとか、そんなふうに思ったことは一度もなかった」と言う。では、現在のビジネスにつながるヒントはどこで得たのか。探っていくと、学生時代に突き当たる。加藤氏が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)、環境情報学部に入学したのは1994年。インターネット普及前夜だったが、実験的なキャンパスで貴重な経験をした。

画像: 普及前夜のインターネットに出合い、触発された

「Windows 95が発売される以前で、呼び名もパソコンではなくワークステーション。OSはUNIXの時代です。一般の人はまだパソコン、インターネットに触れる機会さえ少ない時代でしたが、SFCは進んでいて、レポート提出もオンラインでした。必修科目にプログラミングがあり、私はC言語に悪戦苦闘する学生でしたが、既にプログラムを自作する同級生もいましたね。あそこでコンピューターの歴史やインターネットの概念に触れ、それらが今後、社会にどう影響を与えていくのかを学んだのは大きかったと思います」

生来のベンチャースピリットを育んだ学生時代

そもそもSFCは1990年設立のため、受験を決めた当時はまだ第一期卒業生が出ていないタイミングだった。受験したすべての大学に合格していたという加藤氏は、なぜそうした環境を進路に選んだのか。

「特にコンピューターを学びたかったわけではないんです。惹かれたのは、既存の学問分野を統合し、多様化する時代に対応できる実学をめざす、という新キャンパスの設立趣旨。あと、『問題を解決できる人間ではなく、問題を発見できる人間を育成する』という言葉にも強く共感し、ここで学びたいと感じるようになりました」

既に価値の定まったものではなく、まだ得体は知れないが、未知の可能性を秘めたものに興味を持つ――。そんな、生まれ持ったベンチャースピリットを押さえつけず、育める環境に身を置いてきたことが、現在の活動の原点になったといえるだろう。

似たようなことは就職活動でも起こった。某大手新聞社に内定をもらいながら、選んだのはリクルート。この時は両親に猛烈に反対されたものの、我を通すかたちで押し切ったという。

そこでもキーワードは「情報」だった。環境情報学部で、デジタル化される情報に日常的に触れていた加藤氏の中には、「国境の制約を受けないインターネットが、これからの社会をフラット化する」という感覚が生まれていた。新聞という1つのメディアに閉じるのではなく、複数のメディアを通じて情報ビジネスを展開するリクルートに興味を持ったのも必然だったのである。

上層部の反対も押し切り、「口コミ」にこだわった理由

「最初の1年は、高校生向けの進学情報誌の編集をやり、2年目から紙の情報をデジタル化する事業に携わります。そんな中、ある人から『旅行の事業で、インターネットを使った宿泊サービスをやろうと思う』と聞かされ、『それ私が適任です!』と自分から手を挙げました。その事業が後の『じゃらんnet』です」

1990年代半ばの世の中には、画期的なWebサービスとして「出張時のビジネスホテル予約サービス」が登場していた。これを参考にしつつ、当時としては先進的な「口コミ」機能も「じゃらんnet」に取り込んだ。

ただ、リクルートのビジネスモデルでは広告収入が命。広告主に低評価が付きかねない口コミ機能の採用は、当然、社内で物議を醸した。「広告主に直接対峙する営業部の反対もありましたが、取り下げずに貫きました」と平然と語る加藤氏。だが、入社数年の社員が、関連部署の意向に反して主張を通すのは並大抵のことではなかっただろう。

画像: 上層部の反対も押し切り、「口コミ」にこだわった理由

「それでも、自分が『価値がある』と思えるサービスをつくらなければ意味がありません。インターネットが実現するフラットな社会は、誰でも簡単に情報発信ができる、いわば『ボトムアップの社会』でもあります。いくら広告が収入源だからといって、きれいな写真と売り手目線の文章だけでは、これからの人は動きません。背中を押すために、利用者の口コミは絶対必要なんだ。そう信じていたので、周囲やクライアントがなんと言おうと折れないと決めていました」

結果、口コミ機能は評判を呼び、サービスはまたたく間にシェアを拡大していく。競合サービスもこぞって採用し、その後はご存じの通り、こうしたサービスの標準機能と呼べるような状況にさえなった。加藤氏の思いが、業界を動かしたともいえるだろう。

その後もリクルートで複数の新規事業立ち上げに携わり、成果も残すなど、順風満帆なキャリアを歩んでいった加藤氏。だが、そうした中で徐々に起業への思いも芽生えてくる。ターニングポイントになったのが、2度の出産・育児だった。

画像: 訪日外国人旅行者向け「手の中の旅行エージェント」でめざす地方創生
【第2回】会社員時代も今も変わらない、「価値があるサービス」をつくる思い

加藤 史子
慶應義塾大学環境情報学部(SFC)を卒業後、1998年にリクルート入社。「じゃらんnet」「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、ネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。スノーレジャーの再興をめざす「雪マジ! 19」をはじめ「マジ☆部」を展開。2016年7月、WAmazingを起業。2017年2月から外国人旅行者に特化したサービスを展開している。また、国・県の観光関連有識者委員として、執筆・講演・研究活動も行う。

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