訪日外国人旅行者向けに特化したサービス
「名は体を表す」という慣用句がぴったりの社名である。「WAmazing」は日本を表す「WA=和」と、「驚くべき」「素晴らしい」という意味の「Amazing」を合わせた造語。同社が提供するのは、日本を訪れる外国人旅行者に対して、驚きと感動あふれる充実した旅行体験をしてもらうためのサービスだ。
代表の加藤 史子氏は、同サービスを「手の中の旅行エージェント」と位置付ける。「手の中」は、スマートフォンを使い、ワンストップであらゆる機能が利用可能なビジネスモデルを指している。
「500MB、15日間まで有効な無料のSIMカードと、国内1万軒以上の宿泊施設の予約、アクティビティの予約手配と決済機能、ショッピング情報などを盛り込んだアプリを提供しています。アプリを自国でダウンロードしてから来日してもらうことで、日本国内にいる間、さまざまなサービスが受けられるようになっています」
利用の流れは次のようなものだ。旅行者は、アプリをダウンロードする際に氏名などの個人情報や滞在期間などを入力する。そうするとQRコードが発行され、訪日した際、空港に設置してあるSIMカード受取機にそのQRコードをかざすと、SIMカードが受け取れる仕組みだ。あとは、受け取ったSIMカードを手持ちのスマートフォンにセットすれば、滞在期間中にモバイル通信が利用できるようになる。2018年11月20日現在、受取機は全国20の空港に設置してあるが、「ゆくゆくは国内にあるすべての国際空港に広げたい」と加藤氏は話す。
山奥の温泉への旅など、新しい体験を提供
WAmazing のターゲットは、団体旅行ではなく個人旅行で日本を訪れる外国人。自分の好きなようにプランを組み立てる訪日旅行者の旅の体験は、WAmazingを使うことで大きく変わる。例えば、食事をする店にしても、ガイドブックに載っているような有名店や、ツアーに組み込まれるような大型店だけでなく、地域の小さなお店や個人商店などを「発見」できるようになるという。
「ラーメン屋さん1つ見てもわかると思いますが、これまで外国人が行列するのは、だいたい特定のお店だけでした。というのも、海外の方に知られているのが、そのお店だけだからです」と加藤氏。こうした状況は、飲食店に限ったことではないが、その課題をWAmazingは解決する。
アプリが提供する、海外でまだあまり知られていないお店や宿の情報は、「一味違った旅がしてみたい」という人の心をくすぐる。こうした旅行者のニーズはずっと昔から存在したものだが、これまで旅行業界がなかなか捉えられずにいたものといえるだろう。WAmazingは、スマートフォンと通信環境、そしてアプリという3つの技術を使って、そのニーズを捉えた。実際、アプリでは利用者の位置情報も取得しているが、都市部だけでなく東北の山間の温泉地など、ツアープランではなかなか行けないようなスポットにも、多くのユーザーが訪れていることがわかっているという。まさしく、新しい「驚き」を提供するサービスといえるだろう。
口コミを中心に広がり、短期間で急成長
現在、中国大陸、台湾、香港、ASEAN6カ国で個人旅行者をターゲットにサービスを展開するWAmazingは、ここ数年、急速に利用者数を増やしている。アプリのダウンロードは毎月1万~1万5千件で、累計20万インストールを超えた。
利用者で最も多いのは香港と台湾だ。そもそも個人旅行者の割合が高く、旅行者の年齢層が若かったこともあってスムーズに受け入れられた。一方、人口が最も多い中国大陸は、ご存じの通りIT周りの事情が独特で、スマートフォンでもネイティブアプリを使うことがあまり一般的ではない。そのため中国大陸向けには、スマートフォン利用者の大多数がインストールしている「微信(ウィーチャット)」上で、同様のことが実現できるサービスを開発・展開している。
「“500MB、15日間まで有効な無料のSIMカード”というのは訪日外国人旅行者には絶対に必要なインセンティブです。このインセンティブが奏功し、台湾や香港でも特別なプロモーションは行ってはいませんが、旅行者がSNSにアップした書き込みや、現地のWebメディアに取り上げてもらったりする中で浸透していきました。また台湾や香港は、人口に対する日本旅行経験者の比率も高いので、良い面も悪い面も含め、みなさん日本のことをとてもよくご存じです。通信環境や、外国人に不慣れな人が多く、いろいろな場面で対応に時間がかかるといった不便な点を解決できる点が、高く評価されているようです」
日本は観光資源に恵まれた国だといわれる。ただ、それを十分にPRできているかどうかは、また別の問題だ。インターネットが世界中に普及した現在、従来型のPR手法だけでは、本当に届けるべき人たちに情報が届かない可能性がある。WAmazingのようなサービスは、これから日本が魅力を世界に発信していく上で、非常に有効な手段となるだろう。「素晴らしい観光資源と旅行者をマッチングすることで、旅行者にも迎える側にも、双方にメリットのあるサービスをめざしていきます」と加藤氏は語った。
加藤 史子
慶應義塾大学環境情報学部(SFC)を卒業後、1998年にリクルート入社。「じゃらんnet」「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、ネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動。スノーレジャーの再興をめざす「雪マジ! 19」をはじめ「マジ☆部」を展開。2016年7月、WAmazingを起業。2017年2月から外国人旅行者に特化したサービスを展開している。また、国・県の観光関連有識者委員として、執筆・講演・研究活動も行う。
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