「第1回:組織の力とチームの力。」はこちら>
「第2回:横隊編成と縦隊編成。」はこちら>
「第3回:理想のチームは『大脱走』。」はこちら>
「第4回:ソー ロング…」はこちら>
会社のことを嘆いたり、何かうちの会社駄目だよねとか、組織の仕組みがまずいよねと言う前に、仕事というのはかならず「現場」があるもので、その現場こそがチームなので、組織がどうあろうとまず自分たちのチームを自分たちで良くすることはできるはずです。
組織全体が変わるにしても、その発端は往々にして特定のチームにある。
あるチームが、すごくいい動き方をして成果を出します。組織の中でもその成果は見えるので、組織全体をこう変えなきゃ駄目だなと制度設計が変更されるとか、そういう組織レベルの変化が触発される。組織全体のあり方というのは、一人ひとりにとって遠いもので、すぐにはどうにもならないですが、チームはもう自分の問題として明日から作っていけるし、変えていけます。
現状に問題を感じ、変革を起こしたい人は、問題を組織の構造や制度にすり替えない方がいい。新しい制度が敷かれるのを待たずに、まず自ら動くことが大切です。とりあえずは自分の影響の及ぶチームの範囲でよいのです。まず自ら新しい動きを起こし、「小さな成功例」をつくる。それを目に見える形で組織の他の人々に示す。賛同する人が出てくる。彼らが同じような動きを起こせば、その他大勢もそのうちについてくる。制度化やシステム化を考えるのはその後で十分だと思います。本当の構造変革をする人は、構造変革を待たないのです。
チームが現場にいっぱいあって、それの総合体が組織で、その組織のトップにいるのが経営者です。経営者から見ると、うまくいくチームといかないチームがあるというのは、経営を効率化していくうえでものすごく重要です。いったい何が違うのかなということを、比較して見ることができます。その比較による差の発見というのは、個別のチームの中ではできなくて、一段上から全体を見ている人だからできることです。こうしたらあのチームが伸びるんじゃないか、ということを見つけていくのは、経営者にとってすごく重要な仕事ですし、チームを動かせるリーダーをきちんと割り当てていくというのは、良いチーム作りの必要条件です。
組織のレベルになると、要員計画でこの部門は30人増員とか、あまり顔が見えないですよね。「俺は日立で働いたな」というのは単なる外形的ファクトで、人間の記憶に残るもの、リアリティーはやっぱりチームにあるのではないでしょうか。あまりチームで仕事をしたことがない僕がいうのもなんですが。
最初にも言いましたが、チームっていうのはお互いの相互依存関係が理解できる範囲なので、一人ひとりに顔があります。しかも、個人が非常に実効性の高いアクションをとることができる。
ただし、チームは、個の能力がない人の逃げ込む場所といった、問題のすり替えみたいなことにもなりがちです。仕事のチームは「仲良しクラブ」ではありません。和気藹々もいいのですが、それが目的になるとチームの力を弱めることにしかなりません。お互いに頼りにし合うのではなく、もたれ合うようになってしまう。
今回は映画を核に話をしましたが、今も昔も、組織の物語というのはあまりないと思うんです。チームの物語が多いのは、人間が出るからです。個のエッジが立っていることが優れたチームの一番重要な条件です。
楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。