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僕は、ジャンルでいうと個人の評伝っていうのがものすごく好きです。人間を知る上で、こんなにいいものはないと思うんです。
例えば20世紀のロックンロールを創ったエルビス・プレスリー。興味があるので評伝を読むのですが、僕が心がけているのは、同じ対象(この場合はプレスリー)について別の著者が書いたものも読むということ。つまり、「裏をとる」という読書。ある人はものすごく肯定的に書くし、ある人はものすごく否定的に書く。複数の評伝を読むと、エルビス・プレスリーに対する理解が立体的になっていきます。これが、裏をとっていくみたいな感じになって、すごく面白い。ひとつのテーマや人物、出来事について関心があれば、違った角度から書かれた本を読むようにしています。
本を読んでいる時に、知らなかった事象とか、固有名詞はすぐWikipediaで調べます。そうすると、関連する本が紹介されていたりして、それを芋づる式に追っかけていくことで理解が深まっていく。
僕は仕事がこういう仕事なので、論文を読んだり記事を読んだり、もちろん本を読んだり、のべつ何か読んでいますが、それは僕にとってはあくまで仕事なんです。仕事の動機以外で読む本、これが僕にとっての「読書」。だいたい年間300冊ぐらい読むと思います。
300冊というと、「ずいぶん本を読みますね」と言われたりします。人によっては読書を「しなければいけない」こととして計画を立てたり、「今年は何冊読むぞ!」って宣言したりしますが、こういう人はむしろ本を読まないほうがいい。その時点で読書は向いてません。楽しいこととか好きなことであれば計画なんか立てないものです。ほっといてもどんどん上振れるんです。
ちょっと話はそれるんですが、僕はシュークリームが大好きで。シュークリームって、昔だと高かったのが、今は割と大きなシュークリームが1個100円ぐらいで買えるようになりました。これが僕はものすごくうれしくて。今までだったらあんまり頻繁に食べられなかったのが、もうシュークリーム5個でも6個でもお小遣いで買えるよと。で、5、6個ぐらい買ってくるわけですよ。買うときはこれで3日分ぐらいかな、と思っていたのに、目標は大きく上振れてですね。1日で全部食べちゃう。
ほんとうに好きなことであれば、目標は必要ないんですよ。計画して、本を読む、読まなければと言ってる人は、特にある程度の年齢になっている場合、僕が「人」とか「旅」とかに向いてないように、読書に向いていないと思ったほうがいい。
「本を読む時間がない」っていう人も、実は読書に向いていない。お酒を飲むのが好きな人が、「いや~、お酒飲みたいんだけど時間がなくて」って人はあんまりいない。忙しいって言いながら、しょっちゅう飲んでんじゃねえか!っていう。
向いてない読書を無理にすると、本との本格的な対話であるとか、量的にも質的にもまとまったものをインプットするっていうことが、きちんとできないと思います。やっぱり向いてないことってあるんですよね、人間って。それを無理にやるのが一番よくない。
そういう人は、「人」と会ったり「旅」に出たほうがいいと思います。
楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。