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生産性の分母、インプット(投入資源)の話をしてきましたが、本丸は、なんといっても分子にあります。つまり、アウトプット(生み出された成果)です。働き方改革は、ようするに一人ひとりがもっと儲けにつながる成果を出しましょうっていうことです。ここになると、いよいよ政府とか一般的な制度設計や制度変更の力の及ばない、優れた個別企業の問題になる。経営者はもっと儲かる筋を、きちんと戦略のストーリーを描かなければなりません。
ようするに、働き方改革の本丸は稼ぎ方改革ということです。長期利益を獲得するための戦略はものすごく多様で、個別の産業でも違う、会社によっても違う、事業でも違う。稼ぐための個人の仕事も同じく多様です。ホワイトカラーエグゼンプション(労働時間等規制の適用除外制度)とかの議論では、コンサルタントとかの水平的な職業カテゴリーであったり、ある役職以上はといった垂直カテゴリーであったりするわけですが、そもそも同じ職種の同じ階層にいても人によって成果が出る働き方って違うと思うんです。
「こういう職種は裁量労働制の対象にする」とか「この役職以上は」じゃなくて、個別の企業が決めればいい。もっと言えば働いている一人ひとりが「俺は裁量労働制でやらせて欲しい」とか、「いや、私は勘弁して」というように決めればいい。良し悪しの基準では割り切れない問題が、分子であるアウトプット(生み出された成果)には多いんです。
僕がいちばんいいと思うのは、まず個人に「自分はこういう働き方が好きで、こういう働き方は苦手なので、好きな方向の働き方でやらせてくれたら、これだけの成果が出せる」という提案をしてもらう。ただし成果が出ることが絶対条件。上司はいまより相当の負荷がかかっても、一人ひとりの成果をきちんと見て評価できるようにする。そして成果と評価をオープンにする。一人ひとりの成果をきちんと把握することができるようになったら、今度は本当に「求められる成果を出すために、あなたの好きなやり方で働いてください」。これが理想だと思うんです。
働き方改革の文脈で良く出てくる多様性、ダイバーシティですが、僕は議論の前提が間違っていると思います。ダイバーシティっていうのは、いまが一様であるというのが前提になっていて、だからそこに多様性をぶち込まなければいけないという話。その多様性とは、女性であり、女性の管理職の比率であり、外国人であり、性的指向性であると。多様性と言いながら、デモグラフィック(人口統計学的)な属性の話で、本丸の議論ではないと思います。
いまが一様であるという前提が間違っていて、どんな会社でも、いまここに、すでに豊かな多様性、ダイバーシティがあるんです。いま、この瞬間に。それは何かっていうと、一人ひとりの好き嫌いなんです。それをいかにインクルージョン、包摂できるかが働き方改革の肝だと思います。
そのためには、一人ひとりがまず自分の好き嫌いを表明しなければなりません。それは良し悪しではない。人がどう思うかにかかわらず、自分の、個人としての好き嫌いや得手不得手を率直に表明することが出発点です。
たとえば、「時間に縛られるのが大嫌いで、できれば家から一歩も出ないで好きな時に集中して仕事がしたい」という人がいて、そのほうが成果を達成できるのなら、そうしてもらう。僕の言っている好き嫌いのインクルージョンというのはそういうことです。
「ビシビシ管理されて、決められた通りやる方が好き。進捗も管理されてないと、なんかリズムが出てこないんで」という人もいるかもしれないし、「とにかく会議とか出たくない」とか、「これ絶対自分ひとりで達成するから。誰もかまわないで」とか、これは十人十色だと思うんです。そういうレベルで、腹から出る自分の好き嫌い。
まずは双方納得の上で成果目標を立てる。それを絶対条件として、個人の好き嫌いを表明してもらう。で、「なるほど。じゃ、それでやってみよう」と。ただし「成果が出なかったら、また話し合おうよ」っていう話しです。成果が出ない場合、人間の好き嫌いは変えられないので、「あなたの好きが生きる仕事は何かな」っていうふうに上司が改めて考えるというのがあるべき姿だと思います。
その人の好き嫌いにバッチリはまれば、会社としても稼ぐ力になる。成果を出してくれるんで、悪いことじゃ全然ないんです。いかにそれを活かしていくのか、包摂していくのかっていうのが大切だと僕は思うんです。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
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日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。