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日立コンサルティング 芦邉洋司氏、荒井岳氏/マイラン製薬 塚本裕昭氏/日本たばこ産業 鹿嶋康由氏/ふくおかフィナンシャルグループ 河﨑幸徳氏
リーマンショックによる欧米経済の低迷そして東日本大震災による価値観の変化などが、今、日本企業のあり方を変えている。そんな中、「共感企業」という概念が注目されている。IT でつながった社会では、Doing(何をすべきか)よりも、Being(どうあるべきか)が重要となってきている。本パネルでは、「共感企業」をめざす企業のキーパーソンがその取り組みと、それを支える人とIT について討議した。

共感企業とは?

まず共感企業とはどのようなものなのか。モデレーターを務めた荒井の説明から討議はスタートした。

荒井
本日、特別講演をされたフィリップ・コトラー教授はマーケティング3.0という概念を提唱されています。1.0はかつての製品中心の時代、2.0は消費者指向の時代、そして現在はTwitterやSNSなど新しいメディアが影響を与える3.0の時代とのことです。共感企業という概念はこのマーケティング3.0と類似する考え方です。つまり、市場が成長から成熟へと移行する中で、従来のようなマスマーケティングでは物が売れない時代が到来し、ネットなどを活用した口コミ等の情報が極めて重要な時代になりました。こういった時代では、企業は敵を倒したり、売り上げを伸ばすために何をすべきかという「Doing」でなく、共感されるため企業としてどうあるべきかという「Being」が大きく問われるようになりました。例えば、Facebookでは実名でやり取りするため、たくさん「いいね」といわれた企業は口コミ的な信用を得て評判が大きく上がりますが、逆に苦情や批判で炎上すると、実名でやられるだけに無視できないほどのブランドの毀損を招くわけです。それでは、皆さん、それぞれの会社の共感企業に向けた取り組みを、ご紹介いただけますか。

塚本
私どもマイラン製薬はジェネリック医薬品市場において世界第3位(2011年)のシェアを持つ多国籍企業で、「全世界70億人の人々に高品質な医薬品を提供する」ことをミッションとしています。最近では、例えば社会問題化しているアナフィラキシー症候群(アレルギー過敏症)を未然に防ぐため、子どもたちが注射器を携帯できるように提案するなど、既成にとらわれない新しい取り組みにもチャレンジしており、そうした企業活動のキャッチフレーズとして、「私たちの内側を見てください」というメッセージを発信し、全社員2万人が世界中の品質基準に影響を与えられようになりたいと頑張っていて、米国フォーブス誌の「The World's Most Innovative Companys」の世界ランキングで第90位という評価もいただいています。確かにジェネリック医薬品を単なるコモディティ製品と見る向きもありますが、これまで薬が届かなかった人々に薬を届けるというところには単なるコモディティを超える力があると考えています。

鹿嶋
日本たばこ産業(JT)は売上高2兆円のうちほぼ半数が海外たばこ事業で、世界第3 位の販売シェアを持つ会社です。国内では、たばこ事業のほか飲料事業、食品事業、医薬事業を展開しています。コミュニケーションのキーワードは「ひとのときを、想う。」。この言葉には、すべての人のかけがえのないひととき、心から寛げるひととき、そして心を豊かにしたいという想いを込めています。喫煙のマナー活動は、2004年頃から全国で延べ1550 回、145万人の方々に参加していただいていますし、「ひろえば街が好きになる」という清掃活動も行っています。また、最近では特に、分煙環境の整備にも力を入れていて、例えば今年完成した渋谷駅西口の喫煙所には喫煙マナーの再啓発だけでなく、災害時の緊急電話機能なども用意しています。加えて、分煙コンサルティング活動として、企業や自治体が分煙環境を整備する際の支援も行うなど、吸わない人の気持ちに応えていく活動も推進しています。

河﨑
ふくおかフィナンシャルグループは、福岡銀行、熊本銀行、親和銀行という3つの銀行からなるマルチブランドをシングルプラットフォームで経営している総資産11兆円を超える日本最大級の地域金融機関です。銀行にとって一番大切なのはお客さまからの信頼であり、共感です。そこでは行員一人ひとりの「顔」が見えることが重要であり、コミュニケーションにおいても「私が、○○銀行です。」というキャッチフレーズで、各銀行で実際に働いている行員の姿・人柄や想いをリアルに伝えるブランドCMを展開しています。私たちのブランドスローガンである「あなたのいちばんに。」を実践するためには、商品とかサービスの訴求ではなく、生の人間を伝えていくことが大事になってきていると思います。

芦邉
皆さんのお話を伺って、冒頭に共感企業はどうあるべきか(Being)が問われるという説明がありました。何をするか(Doing)が問われる競争企業の世界では、コーポレートバリュー、つまり企業価値をどう上げようか、時価総額をどう上げようかという経営だと思います。一方、共感企業にはソーシャルバリューという概念があって、社会に対する意味合いが何かを考える傾向があります。これは二者択一で選ぶものではなく、双方が両立するもので、ソーシャル側にもしっかり軸をおいていればコーポレートバリューも出てくるし、それがまたソーシャルにつながる、そういう経営スタイルが共感企業ではないかと思います。

なぜ今、「共感企業」なのか?

荒井
企業価値と社会価値を両立させるためには、私たちはどう変わらなければならないのでしょう。マーケティング3・0ではないですが、デジタライゼーションが大きく関わっていると思います。従来、ITの仕事は会計や人事、サプライチェーンなどに関するものが多かったわけですが、いつの間にかモノの買い方とか、人のつながりといった領域にどんどんITが入り込んできています。皆さんは、このデジタライゼーションをどう見ていますか。

塚本
情報量はこれからも伸び続けるわけですが、このデータをうまく活用していくことがこれからの課題であることは事実です。我々のような多国籍企業では、例えば、最適なビジネスプロセスを構築し、そのプロセスを可視化して業務を効率化し、誰がやってもできる段階に到達したときに、東京にあった機能を人件費の安いオーストラリア、あるいは中国、インドに持っていくわけです。しかし大事なことは、そこにいる社員の雇用を守るとか、次の配置を考えるとか、デジタライゼーションの向こうにあるもの、次に来ることをITの視点から経営陣と協議しておくことではないでしょうか。

芦邉
デジタライゼーションはB to Bの企業にとっても重要な概念だと思います。つまり、モノづくりという考え方に加えて、仲間づくりということが出てきているからです。例えば、多国籍企業が協業したボーイング787。ドリームライナーというタグが付いていますが、開発におけるコンセプトにはスーパーエフィシエントといった概念があり、お客さまからパイロット、機内食の業者まですべてに効率や環境へのやさしさを提供しようという共通した価値観と、設計をはじめすべてがデジタライゼーションされていたからこそできたプロジェクトだと思います。

鹿嶋
私たちは東日本大震災によってバリューチェーンが壊れたという経験をしました。それ以降、モノのレベルの作り方・届け方が変わってきたことが、デジタライゼーションの大きな鍵だと思います。必要な人に必要なモノを確実に届ける時代がパワーを持ってくるということですが、日本企業のITに対する投資や人材の育成は明らかに世界レベルに負けています。世界との違いを自覚した時に、日本の、あるいは経営の課題としての情報活用には非常に危機感を持っています。

芦邉
欧米の経営者は競争優位という視点でデジタライゼーションに非常に関心は高い。この理由は、カンブリア紀の生命大爆発は生物が眼を持ったことで捕食者と被捕食者に分かれ進化した。同様に情報が可視化されて見えてくる、つまりその眼を持つことで競争上の優位性が得られるし、眼を持たないと淘汰されるという危機感があるからだと思います。

「共感企業」であるためのIT活用とは?

荒井
進化していくための眼を持つ、ITはまさにその眼の一つだと思いますが、このITの活用、特にIT部門の今後はどうあるべきかについて伺いたいと思います。

鹿嶋
全体最適が重要だと考えています。世界にまたがるバリューチェーンの中で、どの国でどう作れば一番効率的か、また災害で作れなくなった時に代わりにどこでどのように作れば良いのかをデジタライズしておく必要があります。また、システムを新興国に展開する際にはそれぞれの国の社会性や法規制などを加味していくわけですが、その後に自分たちの組織をもう一度見直して作り変えていく作業が重要になってくると思います。ただ、海外と強調してプロジェクトを行う場合、日本人は同質化されているので暗黙知でできる部分に対して彼らには難しいところがありますので、基本的なグランドルールを作らなければならないというのが課題です。

河﨑
銀行は勘定系という絶対に止められないシステムが優先されます。とはいえスマートフォンやネット上の新しいサービスも増えつつあるのですが、それを経験しているWeb系の人材が少ないというのが課題です。いま若い人たちには外部のWeb系企業に出向して最新のWeb・ネットの技術を学んでもらっています。スマートフォンやネット上のサービスにはお客さまの声を聞いて日々改善を繰り返すことが求められますし、勘定系には安定稼働が求められます。攻めのITと守りのITをどのように両立させていくか、が今後の課題です。

塚本
私が仕事をするうえで重要なキーワードとして、スピード、アキュラシー、サプライズが重要だと考えていますが、特にサプライズです。ここ10年、日本の存在感がどんどん落ちています。以前は会議でも耳を傾けてくれていた人たちがインドや中国の方を向いてしまう。したがってこれは日本じゃないとできないとか、日本に頼んで良かったとか、何かサプライズが必要になってきます。例えば、IT部門としてのマーケティング的センスを持たないとこれからの存在価値を失うと思います。

鹿嶋
グローバルな視点で自分たちの成熟度がどこにあるかを知ることも重要です。世の中には、ビジネスの価値を高めるためにIT部門がどう変わらなければならないかというものがあるわけですが、我々もやってみて気づいたことは、人材育成の欠落とも関係がありますが、ナレッジマネジメントの部分がほとんど抜けていたということです。海外には人がたくさんいて徒弟制度ではないが、目的、意思、行為が文書化され組織としてつないでいくということができています。これがないと塚本さんのいうサプライズも作れないし、日本の優れた国民性も生かされない。またカンブリア紀に入っていますから、どうやって勝てるかも見えてこないと思います。

芦邉
これまで通用してきたゲームルールが変わっていく中で、イノベーション、テクノロジー、共感される力の三つはこれからの経営の三種の神器といえるかもしれません。企業価値と社会価値の両立はイノベーションだし、デジタライゼーションはテクノロジー、仲間を集められるかどうかは共感される力ではないでしょうか。

荒井
今、IT部門は、危機感を新たにして、これからのあり方について見つめ直す時期に来ているのではないでしょうか。ITは合理化の道具ではなくなり、ますます身近に使われるツールになっています。ITをうまく使っていくことが、日立グループが掲げるExecutive Foresight Onlineの意味するITによる夢の実現であり、「共感」を得る企業であるということで、結びにしたいと思います。

画像: 「共感企業」であるためのIT活用とは?

*本稿の発言部分は各氏の発言意図と趣旨をもとに抄録しています。

画像: 株式会社日立コンサルティング 経営戦略部 部長 荒井 岳

株式会社日立コンサルティング
経営戦略部 部長
荒井 岳

画像: マイラン製薬株式会社 インフォメーション・テクノロジー部 部長 塚本 裕昭 氏

マイラン製薬株式会社
インフォメーション・テクノロジー部 部長
塚本 裕昭 氏

画像: 日本たばこ産業株式会社 IT部 部長 鹿嶋 康由 氏

日本たばこ産業株式会社
IT部 部長
鹿嶋 康由 氏

画像: 株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 芦邉 洋司

株式会社日立コンサルティング
代表取締役 取締役社長
芦邉 洋司

画像: 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 経営企画部 部長 河﨑 幸徳 氏

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
経営企画部 部長
河﨑 幸徳 氏

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