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自分の能力を生かして働きたい人がいる。一方で、有能な人材には積極的に仕事を依頼したい企業がある。利害は一致しているのに、両者はなかなか出会えずにいた。なぜか?――この疑問を解決するべく立ち上がったのが秋好陽介氏だ。企業にも、働く側の人間にも、もっと自由に、もっとわくわくする働き方を届けたい。その夢を実現するための手だてとして到達したのが、ネットを使ったマッチングサービス「クラウドソーシング」だった。

夢をかなえるITの力「ランサーズ株式会社」前編 >

「ITの力+安心できる仕組み」が成功の鍵

今や200社以上が参入するクラウドソーシング市場を牽引するランサーズだが、2008年の設立当初から順風満帆だったわけではない。

「新しいことが社会に認知されるまでには、ニワトリが先かタマゴが先か――つまり、製品やサービスが先か、市場が先か、というジレンマがつきまといます。クラウドソーシングでいえば、発注元である企業がいなければ、受け手になろうとする登録者は出てこない。登録者が増えなければ、業務委託を行おうとする企業も増えないということになります。まずはそこを乗り越える必要がありました」

そのために秋好氏が取り組んだのが、企業や個人が、安心して利用できる仕組みを作ることだった。その代表例が、決済方法「エスクロー(仮押さえ)」制の採用である。発注元である企業からの報酬をランサーズが事前に預かることで、仕事を受ける側には「確実に報酬が支払われること」、発注する側には「納得のいく成果が得られた後に報酬を支払えばよいこと」を担保したのだ。

「仕事を頼む側も、受ける側も、最終的に決めるのは人間です。だから、『信用できる個人と出会えるのか』、『この企業を信用していいのか』と不安を感じるは当然のこと。オンラインで受発注できるという利便性だけでは、安心して利用してもらえません。その不安を払拭できて初めて、新しい働き方として社会に認知してもらえると考えたのです」と秋好氏は振り返る。

こうした対応策によって、ランサーズは企業・個人双方の利用者を確実に増やし、リピーターも獲得。「ニワトリとタマゴ」段階をブレークスルーしていくのである。

場所や時間のハンディキャップを取り払う

クラウドソーシングの最大の利点は、受注者、発注者とも、場所や時間の制約を受けない「働き方」を実現できる点にある。

現在、ランサーズで多く見られる案件は、Web制作やシステム開発、デザイン制作、記事作成、翻訳、ネーミングなどである。受注者側は、発注者の期待に応える能力を持っていれば、地方在住であろうと、働ける時間が制約されている専業主婦や学生であろうと、住む場所や環境をハンディキャップとせず、自らの能力を発揮して働くことができる。

画像: ランサーズでは、クリエイターや技術者といったスペシャリストへの発注から、多くの人手が必要となるタスク処理の発注まで、全73にわたるカテゴリの業務を依頼できる

ランサーズでは、クリエイターや技術者といったスペシャリストへの発注から、多くの人手が必要となるタスク処理の発注まで、全73にわたるカテゴリの業務を依頼できる


逆に発注者側にとっては、遠方に住む有能な人材に仕事を依頼することも容易になる。

こうした利点は、昨今、大企業の間で広がるプロジェクト型の働き方に一石を投じると、秋好氏は考えている。

「イノベーションを起こすため、あるいはグローバル化を成功させるために、部門や拠点を横断したプロジェクトが増え、場合によっては、直接対面したことのない相手と仕事をする機会も増えています。ならば、そこにクラウドソーシングで採用された人材が加わっても、何も問題はないはずです。今後、日本では2020年までに正社員の比率が50%を切るという見方もあり、企業に属さない有能な個人をどう起用するかは、とても重要なポイントになっていくはずです」(秋好氏)

すでに、こうした取り組みを進めている企業も多い。例として、ある企業は自社サービスのロゴ制作プロジェクトで、ランサーズを活用。短期間のうちに約120名の登録者から、200件以上の提案を受けることができたという。また、別のデジタルコンテンツ制作企業は、従来、多大な費用をかけて外注していたシステム開発業務を、ランサーズを通じて個人の技術者に発注。それまでと変わらないクオリティのシステムを、以前の半分のコストで実現しているという。

働き方の可能性をさらに広げる新サービス

さらに秋好氏は、クラウドソーシングがこれから担うべき役割について、こう語る。

「従来のクラウドソーシングは、企業の1つのニーズに対し、最適な働き手を提供する1対1のサービスでした。しかし、これからは1対N(複数)、あるいはN対Nのサービスが求められると考えられます。異なる専門分野のメンバーをクラウドソーシングで集め、社内メンバーだけでは到達できなかったイノベーションを起こす。そうした要求が高まっていくはずです」(秋好氏)

すでにランサーズは、こうしたニーズに応えるために、新しいサービスの提供を始めている。それが「ランサーズ for Business」だ。これは、大量の成果物が必要となる大規模案件などに対し、ランサーズ株式会社のコンサルタント自身がディレクション業務を受託。個人のフリーランスを集めることから、制作物のクオリティ管理までを一括で請け負う。つまり、1つの案件に対し、Nの力を合わせて対応する「1対N」の働き方を実現するのである。

画像: 法人向けクラウドソーシング「ランサーズ for Business」は、ランサーズがディレクション業務を一括して引き受けることで、大規模案件への対応を可能にしている

法人向けクラウドソーシング「ランサーズ for Business」は、ランサーズがディレクション業務を一括して引き受けることで、大規模案件への対応を可能にしている

「こうした流れが定着すれば、これまでは、個人で完結できる規模の案件しか受注できなかったフリーランスの人たちがチームを組み、世の中を大きく変えるような大規模プロジェクトの一員となって働けるチャンスも膨らんでいくでしょう」と秋好氏は分析する。

クラウドソーシングは、社会を変えるプラットフォームへ

新たな可能性の萌芽は他にもある。産業界だけでなく、行政、教育機関にも、クラウドソーシング活用の動きが広がりつつあることだ。実際、ランサーズは、官庁、大学からの依頼実績を持つ。

画像: クラウドソーシングは、社会を変えるプラットフォームへ

「これまで、政府機関や教育機関からの依頼を個人で受注することは難しかったと思います。しかし、クラウドソーシングという仕組みを通じて、それが可能になりつつある。フリーランスという働き方が社会的にも認知されてきた表れでしょう」(秋好氏)

その変化の背景には、いちはやくクラウドソーシングを日本に紹介し、企業と個人が安心して仕事を受発注できるプラットフォーム作りに努めてきた秋好氏の功績があることは間違いない。

「これからも、個人や企業の働き方には、様々な変化が生まれてくると思います。そこに、どういうかたちでランサーズが関わっていけるか。企業、個人、双方の声にしっかりと耳を傾けながら、多くの方に共感してもらえるサービスを作っていきたいと思います」

インターネットの可能性の追求から始まった秋好氏の挑戦は、社会に影響を与える働き方の可能性の追求へと裾野を広げ、いまも進行中だ。

秋好陽介 -Yosuke Akiyoshi-
1981年生まれ。インターネットとの出会いからプログラミングに目覚め、大学在学中からサイト構築等の受託ビジネスで個人事業を展開。卒業後、大手IT企業のWebディレクターとして活躍した後、2008年12月にランサーズ株式会社を設立。スキルのある個人と、有能な人材を求める法人が出会う仕事マーケットプレイス「ランサーズ」をインターネット上で展開し、日本では先例のないクラウドソーシングのサービスを確立している。

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