「第1回:暮らしを自分仕様にデザインする」はこちら>
「第2回:賞味期限を守らないと、毎日が忙しくて楽しい」はこちら>
「第3回:「人生の達人」の極意は比べないこと」はこちら>
「第4回:「草むしりが楽しい」という人生の素晴らしさ」
不便を楽しむか、切り捨てるか
山口
ムダなものを売っているとおっしゃいましたが、所さんのように楽しく生きるためには「ムダ」が必要なんですよね。
所
「ムダなもの」ってそれを手に入れた人がどう扱うかで魅力や価値が変わるじゃないですか。最初から「いいもの」は誰もが「いいもの」として使う。けどムダなものとかダメなものは、「これをなんとかしよう」って考えるでしょう。そういうことが大事なんだと思うよ。
山口
『スーパートコロ辞典』に「役に立つものは殆ど役立たず」と書かれていましたけれど、僕もよく「役に立つ」と「意味がある」ということを言っています。「役に立つ」ものはみんな欲しがる。けれど、それで人生が豊かになることはあまりないと思うんです。
所
ならないよね。
山口
「意味がある」ことがやっぱり大事で。何に意味を見いだすかは人によりますけれど、私の知人にジュークボックスが大好きな人がいて、ジュークボックスのコレクションを置くためだけにマンションの部屋を借りているんです。で、自宅に置くのを定期的に入れ替えて。
所
ああ、おもしろいね。
山口
ミニコンポなら家電量販店で2万円も出せばブルートゥースに対応した高性能なものが手に入ります。でも、ただ音楽が聴ければいいということではないわけです。アメリカでは5年連続でアナログレコードの売上がCDを上回っています。CDは便利で役に立つから普及しましたが、使いやすさで比べたらストリーミングでいいやとなる。むしろ、不便だけどレコードがいい、レコードのほうが贅沢な気分になれるというふうになってきているわけですよね。日本でも同じような傾向が見られています。
所
雑音とか雑味とか。あとはレコードをかけるという作業がおもしろいんだろうね。
山口
そうなんです。情緒があるというのかな、不便でもプロセスを楽しみたいという風潮も表れている。カメラもあえてフィルムカメラを使う若者が増えているようです。
所
便利なもの、すぐ手に入るようなものに飽きてきたんだろうね。きっとね。
山口
一方で「タイパ」という奇っ怪な言葉が聞かれるようになりまして。タイムパフォーマンスを略しているのですが、最近びっくりしたのが、若者向けの賃貸住宅で、家でご飯をつくらないからキッチン要らない、さらには風呂キャンセルとかでシャワーしかない物件も出てきているらしいんです。背景には家賃の高騰もあるみたいですが、料理したり入浴したりする時間がもったいないとか、面倒だとかで。私は夕方5時くらいに仕事を終えて、さあ今日の夕食は何をつくろうかと考えたり、今日は風呂でどう過ごそうか考えたりするのが生きる一番の楽しみで、食事もつくらない、風呂にも入らないというのは、一体何が楽しくて生きてるんだろうかと。
所
お風呂がある。お風呂が汚れる。カビが生える。きれいにする。「うわっ気持ちいい!」という感覚が楽しいのにね。そういうのが全部面倒だと言ってやらない、つまりいろんなことを切り捨てていったら、最後は寝ているのがいいやっていうことになるじゃない。

コーヒーをいれる人は楽しい
所
だから僕が思うのは、例えば自分が寝たきりになって、テレビを観たいな、チャンネルを替えたいなってときにはリモコンは便利だと思うの。でも自分が動けるうちはリモコンは要らないでしょうと。リモコンで便利になったようで、どこに置いたかわからなくて探し回ったり、単一指向性だからこっちに向けなきゃいけないとか、実は不便が増えてるじゃん。だったら、同じ部屋の中なんだから本体まで行って押したほうがいいでしょ。ただ、もう本体にスイッチがなくなっているんだけど。
山口
リモコンに使われている感じがしますよね。所さんのモデルガンをリモコンに改造して、これでテレビを撃つとか、おもしろくないですか。上手く当てないとチャンネルが変わらないとか。
所
いいね。食事どきに「当たらないなあ」とかやってたりするの、バカバカしくておもしろいね。でもそんなテレビ、買おうって言っても、家族はなかなか「うん」とはならないよ。
山口
ちょっとダメですかね。それに関わる話で、所さんは自分で動いたほうが楽しいし、おもしろいし、健全だとおっしゃっていますよね。食事も家事も全部、他人にやらせて自分で何もしないのがセレブリティライフだ、みたいに言っている人もいますが、それってつまらなくないかな、と思って。以前、所さんが番組の収録で94歳と99歳のおばあさんに一番楽しいことは何ですかと伺ったら、「草むしりしているとき」という答えが返ってきて、感動して泣きそうになったそうですね。
所
うんうん、そうなんですよ。周りの人たちが気持ちよくすごせたらいいなあと思って人知れず近所の草をむしってきれいにして、それが楽しい。なんて素晴らしい人生なんだろう、って。自分も90歳を超えた頃に草をむしって、きれいになって気持ちいいなあ、と思っていたら「お茶、入りましたよ」なんて声をかけられたい、って思うんですよね。
山口
豊かですよね。お金を稼ぐために忙しく働いて楽しいことができなくて、いざ時間ができたら今度はお金を払って料理や草むしりを他人にやらせるなんて、なんと楽しくない人生なのかと。
所
うん。喫茶店で500円とか1000円出してコーヒーを注文する。コーヒーがここに届く。飲む。「ああ、ホッとする」というのはあるんだろう。けど、コーヒーをいれる人は、まずコーヒーの缶を開ける。そのいい匂いが嗅げる。ポトポト垂れてくるコーヒーのきれいな雫を見て楽しめる。それに対して、僕はただお金を出してコーヒーを飲んでいるだけで、「あれ?コーヒーをいれてくれる人のほうが得かも?」って思うんだよね。動いている人のほうが感動や感激を味わえて楽しいでしょ。ただ単にお金に頼っちゃうと、つまらないと思うんですよ。
第5回は、1月27日公開予定です。

所 ジョージ
1955年埼玉県生まれ。O型。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの前座を務め、1977年にシンガーソングライターとしてデビュー。演奏としゃべりを組み合わせた独自のスタイルで、タレント、コメディアンとして人気を博す。日本テレビ系バラエティ『世界まる見え!テレビ特捜部』、『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』などの司会をはじめ、日本を代表するタレントとして多数のバラエティ番組で活躍。また俳優、声優、ラジオパーソナリティ、作家、コピーライター、発明家、ゲームクリエイター、YouTuber、漫画家などの顔を持ち、多才ぶりでも知られる。
現在、『所さんの目がテン!』(日本テレビ系列)、『所さん!事件ですよ』(NHK総合)、『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』(テレビ東京系列)、『ポツンと一軒家』(朝日放送テレビ・テレビ朝日系列)、『所さんの世田谷ベース』(BSフジ)にレギュラー出演中。

山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
寄稿
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。


