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デジタル技術を活用して組織や業務プロセスを根本的に変革し、新たな価値を創出するDX。その成功のカギを握るのは、何といってもパートナーの選択だ。AIなどの最新テクノロジーを活用して現場の課題を解決し、持続可能な経営を実現する。そのためには、ITだけでなくリソースを駆使して、共に未来をめざすパートナーが必要だ。そんなDXの最前線で企業のトップと対話を繰り返し、お客さまの課題解決に取り組んでいるのが、株式会社 日立製作所 Executive Director 重田幸生(しげた ゆきお)だ。今回は、日本におけるDXの現状やリアルな現場でのやりとりなどを語った重田のインタビューを、3回に渡ってお届けする。EFO読者の皆さまの中でも、特に企業の経営層(CEO、CDO、CIO)を中心に日々デジタルを活用した変革に取り組まれているキーパーソンに読んでいただきたい内容となっている。第2回は、DXにおけるスピードの重要性について聞いた。

「第1回:コア業務をDXするフェーズへ」はこちら>
「第2回:GlobalLogicが体現したスピードの価値」

※ 本記事は、2025年8月6日時点で書かれた内容となっています。

コア業務の変革で生きる日立の強み

――バックオフィスの効率化からコア業務の変革にDXがシフトしてきた時、パートナーとしての日立の強みはなんですか。

重田
私が考える日立の最大の強みは、日立自身が事業会社であることだと思います。しかもグローバルで鉄道やエネルギーといった多様な事業を展開している。その事業を通して、身を持って経験してきたことが、One Hitachiとして共有できるのも、コンサルテーション企業やテック企業とは異なるところです。このアセットがあるから、お客さまのコア業務を深く理解し、最適な解決策を提案できるのです。

Lumadaは、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション/サービス/テクノロジーの総称です。デジタルを使ってお客さま・自社のビジネスを変革してきた知見とノウハウが、誰にでも活用できる形で整理され、共有されています。例えば、熟練の技能者がどんどん退職して、今後業務を支えきれなくなるかもしれない。あるいは事業をグローバルに展開する中で、海外での生産の品質が安定化しない。お客さまの課題はさまざまです。Lumadaは、日立が持っている技術やユースケース、これまでお客さまの課題をどう解決してきたのかという方法論の集合体です。お客さまの課題にそのまま生かせる場合には素早い解決が可能ですし、お客さまの経営戦略によりアジャストした解決策を提供することももちろん可能です。

さらにLumadaは、日立以外のお客さまにもご活用いただくために、仕組みや方法論が体系化されています。JFEスチール株式会社様は、JFE Resolus®(レゾラス)という製造業向けソリューションビジネスを展開していますが、自社の鉄鋼製造で培った技術・操業・研究ノウハウに、日立の実践知を掛け合わせることで、Resolusの進化・高度化を加速し、製造業全体の課題解決を一層強化しています。

画像: ――バックオフィスの効率化からコア業務の変革にDXがシフトしてきた時、パートナーとしての日立の強みはなんですか。

スピードの価値

重田
アジア開発銀行の神田眞人総裁がインタビューの中で、現在は「未曽有の不確実性」であると語られていました。未曽有の不確実性であることは、リスクは大きいがある種のチャンスでもある。不確実性にしっかりと対応するビジネスを考え、サプライチェーンを再構築し、技術やテクノロジーを生かしたサービスが提供できれば、それはチャンスになる。だから日本人も内にこもらずに、どんどん外に出て変化をすべきだという話をされていました。私もその通りだと深く共感しました。

変化するためには、素早く試して素早く反応を見る必要があります。しかし今のお客さまはマーケットと技術の変化が速すぎて課題と解決策をじっくり考える余裕がありません、プロトタイプを作ってどんどん試していかないと、マーケットの変化について行けない。そういう時代になっています。

そのようなスピードが求められる中で実績を上げてきたのが、日立が2021年に買収したGlobalLogicです。デジタルエンジニアリングが得意なこの会社は、世界中にデザインスタジオを持ち、多くのデザイナーが働いています。彼らはお客さまの現場を徹底して観察し、お客さまと対話していく中で、こういうツールがあれば現場はこう変わるという提案を絵で描き起こしていく。それを議論しながらブラッシュアップし、ある程度固まればプロトタイプとして動くモノを作り、実際に使いながらお客さまが望むツールに近づけていく。ウォーターフォール型ではなくアジャイル開発で小さな試作を繰り返すことで、変化に対応したソリューションを提供するのがGlobalLogicのデジタルエンジニアリングです。

彼らはこの方法で、Uberやモバイルオーダーなどお客さまの購買体験が多様になる中での店舗体験のあるべき姿を再考し、マクドナルドのタッチパネルによるセルフオーダーシステムを構想し、今では世界中の店舗で利用されています。

――確かに従来の仕様書に基づいたステム開発では、時間がかかり過ぎます。

重田
仕様を考えている間に変化が進んで、どんどん追い付けなくなってしまう。従来のシステム構築であれば、3年かかることはめずらしくありませんでしたが、今ではすっかりマーケットが変わってしまっている可能性があります。変化のスピードが速すぎて、従来のやり方がそぐわなくなっているのだと思います。ある投資会社の調査レポートによると、インターネットが普及するのに20数年を要したのに、LLM(大規模言語モデル)は3年で90%に達したとか、テクノロジーの変化やイノベーションの普及スピードが、従来とは比較にならないほど速いのです。

ノジマ様のアプリ開発事例

――GlobalLogicが日本で行った、アジャイル開発の事例はありますか。

重田
GlobalLogicが取り組んだ最初の事例として、家電販売のノジマ様との協創によるスマホのアプリケーション開発があります。これは顧客満足のさらなる向上をめざす、店舗内DXプロジェクトとしてスタートしました。

画像: ――GlobalLogicが日本で行った、アジャイル開発の事例はありますか。

最初にマーケットや顧客を分析してビジネスの方向性を見極めるために、店舗訪問や店舗スタッフへのヒアリング、エスノグラフィ(行動観察)調査、アイデア検討のためのワークショップなどを複数回実施しました。そこで得られた知見やインサイトをもとに、GlobalLogicはまず計20ほどのアイデアをノジマ様に提案し、絞り込んだアイデアで試験運用が行われました。タブレット上で簡易的に動かせるプロトタイプを作り、実際に店舗で使用しながら必要な機能や修正すべき操作を洗い出し、翌週には改良版のプロトタイプを作ってまた試す。ある程度必要な機能が見えてくれば、アプリとして動かせるようにしてさらにテストを行う。このアジャイル開発により、スタートから4カ月後には試験運用が完了しました。

これは実際にノジマモバイルアプリとして提供され、お客さまに利用されています。店頭で商品近くのQRコードを読むことで在庫や色のバリエーションが自分で調べられたり、必要な時にボタンひとつで販売員を呼び出せるなど、ありそうでなかった機能が非常に好評だそうです。これは、変化の激しい時代におけるアジャイル開発のお手本となる事例だと思います。

第3回は、9月24日公開予定です。

画像: 日立のケイパビリティをお客さまの事業変革に。
【第2回】GlobalLogicが体現したスピードの価値

重田 幸生(しげた ゆきお)
DXコンサルタント/Executive Director
元 株式会社野村総合研究所 パートナー。同社で電機・機械・エネルギー業界を中心に経営コンサルティング活動に従事。2023年4月1日に日立製作所デジタルエンジニアリングビジネスユニットに参画し、現在は、AI&ソフトウェアサービスビジネスユニットにて、日立グループ内外のデジタルソリューション・ケイパビリティを組み合わせて顧客の事業成長・変革を支援。そのための案件・顧客開拓活動、協業活動を主導する。東京工業大学工学院サステイナビリティチャレンジにてメンター代表、審査委員も務める。

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