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加治慶光 株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal / IGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長 冨山和彦氏 / 貫井清一郎 株式会社日立製作所 執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長
2025年2月21日、「デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造」をテーマに日立製作所主催のイベントを開催した。ゲストはIGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長 冨山和彦氏。冨山氏による特別講演、およびLumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光、日立製作所執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長 貫井清一郎、冨山氏の3名で行われたトークセッションのイベント採録を5回に渡ってお届けする。最終回となる第5回は、日本の強みを生かすCXをテーマにした冨山氏、加治と貫井によるパネルディスカッション後編。

「第1回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (前編)」はこちら>
「第2回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (後編)」はこちら>
「第3回:日立の企業変革」はこちら>
「第4回:日本の強みを生かすCX(前編)」はこちら>
「第5回:日本の強みを生かすCX (後編)」

フロントラインを支えるデジタル

加治
これからの人手不足によって大きな影響を受けるのが、フロントラインと言われる現場です。冨山さんは、みちのりホールディングスで地方の路線バス会社の再生に取り組まれておられるので、その経験も踏まえて最前線の人たちをデジタルがどう支援していけるのか、ぜひ教えてください。

画像: フロントラインを支えるデジタル

冨山
地方の路線バスのオペレーションというのは、運転手が高齢化している上に不足しているというのが現状です。これまでの知識や経験はもちろん重要ですが、その一方で今日立と茨城県日立市で取り組んでいる自動運転のようなデジタル技術を導入しないと、事業が成り立たないことも現場の皆さんは良く理解しています。

以前であれば自動運転と言っただけで、自分たちの仕事が奪われるのではないかとすぐに問題になりましたが、今は大歓迎です。自動運転に限らず、新しいデジタル技術は自分たちも使いこなした方が楽になるし事業の継続につながりますから、フロントラインの皆さんもアップデートには積極的です。テクノロジーもUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)が劇的にやさしくなってきているので、誰でも無理なく使いこなすことができる。そういういい時代が来ていると私は思っています。

貫井
確かにデバイスや裏にあるツールといったものは、専門家でなくとも使いこなせるレベルにまでハードルは下がってきていて、フロントラインの人たちが自然に使いこなしている現場は確実に増えています。

リアルをチャンスに

加治
もう1つすごく重要な点で、デジタルがバーチャル×カジュアルだった世界から、リアル×シリアスの世界に向かっていて、これは日本にとってチャンスだというお話には私も深く共感します。現にバーチャルの世界を制したGAFAが、ここへきてリアルの方へも手を伸ばし始めています。この新しい競争に対して、日本はどう構えればいいのか、ぜひお聞きしたいです。

冨山
リアル×シリアスというのは、まさに日立の鉄道や電力などのような現実の世界を、デジタルでより緻密に制御するという領域です。これはGAFAの支配するバーチャル×カジュアルな領域とは異なり、事故などのトラブルが許されないまさにシリアスな世界です。それはスマホやSNSのような新しいツールとは違い、これまでのさまざまな蓄積の上に、いろいろ複雑なものが絡み合ってできているシステムです。この領域では蓄積が重要であり、人や技術が入れ替わらないことに価値がある。ですから日本の長期雇用が、ここでは武器になってきます。

画像1: リアルをチャンスに

世界でもこの蓄積ができている長期雇用の国は多くありません。日本のように20年以上同じ仕事をしている人がいる企業に蓄積された力が、社会にとって価値をもたらす。それがリアル×シリアスの世界です。そこにはまだまだ生産性向上のチャンスがある。インフラや医療など、ミッションクリティカルな領域での蓄積を生かしたソリューションを世界に展開していくこと、それがこれからの日本の生きる道だと私は思います。

貫井
リアル×シリアスの世界では、事故は命にかかわりますから、起きないようにあらゆる手立てを講じます。それが当たり前だし、そうでなければなりませんが、その中で起きてしまうのが事故であり、これを生成AIでなくすことはできないかといった要望もいただきます。そのためには事故に関するできるだけ多くの情報が必要になるのですが、それがきわめて少ないのが実情で、1社のデータだけでは到底ビッグデータになりません。

1年に数回起きるかどうかのデータを何年積み重ねても、Nが少ないので対策のデータ基盤にはなり得ない。しかし事故というのは、企業の問題であるとともに社会の問題でもあります。隠したくなる情報かもしれませんが、そこは社会のために関連する全ての企業が協力して事故情報を共通のデータベースとして集約し、みんなで安全性を強化することが求められていると思います。

冨山
確かにバスでも同じ問題があります。交通系のデータというのは、企業ごとに個別に持っていて、共有しないとNとしては小さすぎてあまり意味をなさない。しかしそういう連係が、日本はあまり上手ではありません。

貫井
そうですね。事故が起きたら怒られるではなく、それをきちんと知恵として残しておくことが重要で、できるだけ集約したデータを分析し、共有することで次世代へとつなぐことが今なら可能です。日立という一企業の問題ではなく、もっと公共的な領域の問題としてみんなで取り組む必要があると思います。

画像2: リアルをチャンスに

資本市場の変化

加治
最後に冨山さんが講演で触れられていた資本市場の変化について、もう少し詳しくお話しいただけますか。

冨山
かつての日本の取締役会は、ほとんど自分の部下が取締役でしたから、社長からすると安全な場所でした。さらにその外側には政策保有株という取引先との株の持ち合いがあって、二重に守られていたのです。高度成長期のオペレーショナルエクセレンスに集中した時代には、それで良かったのかもしれません。しかしガバナンス改革が行われ、持ち合いが解消されて一般の株主が増えてくると、内堀も外堀もなくなりました。すると形だけだった株主総会が、経営者の厳しい評価の場になり、うかつな経営をしているとアクティビストにとことん叩かれる。そういう時代になりました。

この時日本の多くの企業は、自社株買いのようないわゆる株主対策をやって、風邪薬で熱を冷ますような短期的なことでやり過ごそうとします。しかしそれでは、またすぐに叩かれることを繰り返すだけです。今の経営者は、CXをしっかりやることで株主を納得させる必要があるのです。

優秀な経営者は、株主からの外圧をCXの力に変えて持続的な経営を実現しています。2009年度の日立の赤字の時がいかに大変だったかという話を、私は当時日立の会長兼社長だった川村さんから何度も聞かされましたが、あのピンチをきっかけにして社会イノベーションへの変革を見事にドライブさせました。これからの経営者は、不都合なことから目をそむけず、株主からの外圧をテコにして、デジタルによるCXやDXを正々堂々と進めていただきたい、そう思います。

加治
本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

画像: 資本市場の変化

「第1回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (前編)」はこちら>
「第2回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (後編)」はこちら>
「第3回:日立の企業変革」はこちら>
「第4回:日本の強みを生かすCX(前編)」はこちら>
「第5回:日本の強みを生かすCX (後編)」

画像1: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第5回】日本の強みを生かすCX (後編)

冨山和彦(とやまかずひこ)
IGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレートディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。その後経営共創基盤(IGPI)を設立し、代表取締役CEOとして活動。現在はIGPIグループ会長であり、日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長を務めるほか、パナソニックホールディングスやメルカリの社外取締役、日本取締役協会の会長も務める。さらに、内閣官房や内閣府、金融庁、国土交通省などの政府関係委員も多数務める。主著に『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』など。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

画像2: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第5回】日本の強みを生かすCX (後編)

貫井 清一郎(ぬくいせいいちろう)
株式会社日立製作所 執行役常務Chief Information Officer 兼 ITデジタル統括本部長
1988年にアーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社。主にハイテク製造業における経営戦略、IT、業務改革などのコンサルティング業務に従事し、2010年に執行役員 通信・メディア・ハイテク産業本部 統括本部長に就任。2015年に日立製作所に入社し、エグゼクティブITストラテジストとして活動。2016年には理事となり、社会イノベーション事業推進本部副本部長に就任。未来投資本部アーバンモビリティプロジェクトリーダーを経て、2019年には執行役常務に就任。2021年から現職。

画像3: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第5回】日本の強みを生かすCX (後編)

加治 慶光(かじよしみつ)
株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

寄稿

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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