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加治慶光 株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal / IGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長 冨山和彦氏 / 貫井清一郎 株式会社日立製作所 執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長
2025年2月21日、「デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造」をテーマに日立製作所主催のイベントを開催した。ゲストはIGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長 冨山和彦氏。冨山氏による特別講演、およびLumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光、日立製作所執行役常務 CIO兼ITデジタル統括本部長 貫井清一郎、冨山氏の3名で行われたトークセッションのイベント採録を5回に渡ってお届けする。第4回は「日本の強みを生かすCX」をテーマにした冨山氏、加治と貫井によるパネルディスカッション前編。

「第1回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (前編)」はこちら>
「第2回:日本企業の飛躍に向けた価値創造のためのDXとCX (後編)」はこちら>
「第3回:日立の企業変革」はこちら>
「第4回:日本の強みを生かすCX(前編)」

DXというチャンス

加治
ここからは3人で話しをしていきたいと思います。まず冨山さん、講演でも話されていたこれからの社会の構造変化について、もう少し深掘りしていただけますか。

冨山
明治以降の日本は、先行事例をキャッチアップして、大量生産・大量販売で工業化するというモデルでやってきました。教育もそうなっていて、正解に向かって効率的に答えを出すという試験で学校の成績が決まっていく。ところがこれからは、正解のある問いは生成AIが答えるということになります。それは企業でも同じことが起きますから、答えを出すという能力の価値は減少していくでしょう。

これからのコア人財は、自ら問いを立てて自ら選択するという能力の競争になってきます。もともとアメリカなどは、そういった教育や競争をやってきた社会です。マークシートの試験ではない評価で教育を受けてきているので、これからの時代には彼らのような能力がますます価値を持つようになる。日本はエリートもマークシートで教育されてきていますから、人財育成では思い切った転換が必要になるはずです。

画像1: DXというチャンス

一方で現場の人財の生産性に関して、日本はむしろそれを抑え込む方向でやってきているので、生成AIやDXツールを活用してアップスキリングすれば、生産性は上がるはずです。DXで大谷翔平を量産するのは難しいですが、平均的な能力の高い日本人の生産性を上げるには効果的であり、これはチャンスだと思います。

加治
貫井さんは、DXがチャンスだと言う冨山さんのご意見をどう受けとめましたか。

貫井
私がアクセンチュアから日立に移ってきた時には、日立は外資系のように大胆に人財を減らすことはできないので、イノベーションやDXは難しいだろうと思っていました。しかし人手不足のこれからの経営を考えれば、もうDXをやらない理由はないですし、アップスキリングもおっしゃる通りだと思います。

今私たちは社内のDXを進めるに当たって、2つのことにトライしています。1つは、仕事を完結させるところまで生成AIを使おうということです。Chat GPTを使って検索が便利になったで終わるのではなく、検索したその結果で資料を作り、資料を作ったら複数言語に翻訳し、TeamsやZoomの会議で共有する。会議の内容は録音して議事録を作り、みんなで共有するといったように、できるだけ仕事のプロセス丸ごとを生成AIでデジタル化するということを、実ビジネスで試行しています。

もうひとつは、成功率の精度を上げることです。イノベーションは、シリコンバレーでも成功率は7%と言われていて、93%は失敗に終わります。93%の失敗を許容するために、企業としては資金やキャッシュが必要になるわけですから、これを削減するためにさまざまなアプローチを試しています。

画像2: DXというチャンス

なぜCXが必要なのか

加治
今日はDXにはCX(コーポレート・トランスフォーメーション)が必要だというお話しをしていただきましたが、冨山さんはCXが必要な最大の要因はどこにあるとお考えですか。

冨山
日本の企業にCXが必要な理由は、同質性です。日本企業の多くは、野球選手しかいない状態です。人事部にも野球のスカウトしかいないから、野球の上手い人ばかりを採用してしまう。しかし今から行われるのは、ゲーム自体が変わってしまうゲームチェンジングゲームですから、全く違うタイプの人間がいないと試合になりません。そういう意味で、多様性というものがこれからの競争力の源泉になってきます。

人事部は給与で差をつけることを嫌いますが、今の若い人たちは優秀な人間が高い報酬を得ることに抵抗はありません。大谷翔平が100億円もらっている理由を十分にわかっている人間は、給与の差はあまり気にしない。むしろ気にしているのは人事部の方なので、もっと大胆に多様な人財を採用するべきです。新卒だけでなく中途入社も含めて、もっと世代も国籍もジェンダーもごちゃ混ぜにした方が、ゲームチェンジングゲームに強い組織になります。

貫井
今のお話を日立に置き換えて考えてみますと、日立はリーマンショック以降のCXによって、売り上げが国内40%に対し、海外が60%になりました。そうすると日立グループの人口比率も海外の方が大きくなり、結果として急速に多様化が進みました。

冨山
これからは、「あ、うん」のような日本的ハイコンテキストのコミュニケーションに逃げては駄目です。同質の仲間同士だから通じ合えることを文化として持ち上げるのではなく、イエスかノーかをはっきりと言わないと世界と渡り合うことはできません。

加治
貫井さんは日立の文化が変わってきた感じはありますか。

貫井
それは実感としてあります。例えば従来の日立は、物事を定例会議で決めていました。月に1回、期に1回、半期に1回、年に1回というサイクルで物事を決めていましたが、最近では日常的な意思決定は毎日のカジュアルな会議で決めていきます。もちろん企業としての大きな方針決定などは別ですが、通常の経営判断はアジャイルに変化してきました。

新旧のハイブリッド

画像: 新旧のハイブリッド

加治
DXやCXのためには、今この世界がずっと続いていくという経路依存や正常性バイアスを断ち切る必要があります。そのためにはどんな打ち手が効果的か、何かアドバイスはありますか。

冨山
結局、一番効くのは人事だと思います。日本企業の場合、昇格が報酬になっているケースが多いので、どういう人間が偉くなるのかを全社員が一生懸命ウォッチしています。根回しの上手いタイプ、自分で決めて自分で行動するタイプ、どんなタイプが偉くなるのかを見ていますから、変化を恐れない人間をトップにするといった目に見える人事が効果的だと思います。

加治
貫井さんは外から日立に転職して断ち切る方の役割を担ってきたのかもしれませんが、当事者として思うことがあれば聞かせてください。

貫井
私は企業の文化というのは、提供しているサービスや製品のライフサイクルに影響されると思います。前職はITコンサルティングでしたから、1つひとつの仕事をわりと短いサイクルの中で回していました。しかし日立では、一番短いサイクルの家電でも10年くらい続きます。それが発電所や鉄道では60年ほどになりますし、エレベーターやエスカレーターもビルがなくなるまで継続します。そういうライフサイクルが長いビジネスを続けるには、過去からのいろいろな知識の積み重ねが重要であり、それが日立の文化になっています。

冨山
そこはとても大事な部分ですね。

貫井
そうなんです。長期的なことが非常に重要であるという文化を大切にしながら、一方で軽快さとかアジリティ、オープンであることが求められるDXやCXの領域も進めていかなくては世界から置き去りにされます。その境目をきちんと定義して、固めるところと進めるところ、両方でデジタルを生かす必要があります。

冨山
確かに日立が新しい方に全面的にシフトすれば、日本のインフラが危うくなりますから、そこはハイブリッドで共存していく必要があるでしょう。

加治
そうですね。そこは企業文化というより、日立の宿命なのだと思います。

第5回は、6月18日公開予定です。

画像1: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第4回】日本の強みを生かすCX(前編)

冨山和彦(とやまかずひこ)
IGPIグループ会長 兼 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長
ボストンコンサルティンググループ、コーポレートディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COOに就任。その後経営共創基盤(IGPI)を設立し、代表取締役CEOとして活動。現在はIGPIグループ会長であり、日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長を務めるほか、パナソニックホールディングスやメルカリの社外取締役、日本取締役協会の会長も務める。さらに、内閣官房や内閣府、金融庁、国土交通省などの政府関係委員も多数務める。主著に『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』など。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。

画像2: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第4回】日本の強みを生かすCX(前編)

貫井 清一郎(ぬくいせいいちろう)
株式会社日立製作所 執行役常務Chief Information Officer 兼 ITデジタル統括本部長
1988年にアーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社。主にハイテク製造業における経営戦略、IT、業務改革などのコンサルティング業務に従事し、2010年に執行役員 通信・メディア・ハイテク産業本部 統括本部長に就任。2015年に日立製作所に入社し、エグゼクティブITストラテジストとして活動。2016年には理事となり、社会イノベーション事業推進本部副本部長に就任。未来投資本部アーバンモビリティプロジェクトリーダーを経て、2019年には執行役常務に就任。2021年から現職。

画像3: デジタルと協創で導く 企業変革と新たな価値創造
【第4回】日本の強みを生かすCX(前編)

加治 慶光(かじよしみつ)
株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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寄稿

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