「第1回:初老初心者」はこちら>
「第2回:ナイスか?」
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※ 本記事は、2024年7月4日時点で書かれた内容となっています。
僕は40歳の頃から、ずっと体重を減らしたいと思ってきました。しかしただ思っているだけで、結局日々の欲望に負けてしまって全然本腰が入らず、当然体重は落ちません。コロナの緊急事態宣言の時には本格的に家に引きこもっていたので、瞬間風速で86キロオーバーまで体重が増えまして、これはまずいと思って食べる量を減らしたり、有酸素運動を増やした結果、83キロぐらいまで戻ったのですが、そこからびくともしなくなりました。
僕は習慣的にジムに行きます。トレーニングを終えて、サウナに入ってシャワーを浴びて、体重は落ちていないので気は進まないのですが、時々体重計に乗るようにしていました。ある日、82.1キロという数字が出ました。ナイスです。うれしくなって、ジムに行くたびに体重計に乗りました。1カ月後には79.9キロを記録。僕にとっては見果てぬ夢だった70キロ台に突入しまして、もう体重計に乗るためだけにジムに行きたいほどナイスでした。
なぜ急に体重が落ちるようになったのか。心当たりを思い返してみると、いくつか思い当たることがありました。第1は、その頃ちょっときつい仕事を抱えていまして、普段よりも明らかに脳を使っていた。脳の消費カロリーというのは結構大きいらしいので、いつもより頭を使ったから痩せたのではないか。だとしたらそうナイスです。
第2に、僕は「黒い巨塔作戦」によって去年の3月に一橋大学を早めに退職して、特任教授という契約社員のような形になりました。ついに後任が決まり、今年の3月に研究室を明け渡すために引っ越し作業を行いました。肉体労働で瘦せたのかもしれない。だとすれば、これもナイスです。
第3に、同時期に僕の大学院での集中講義がありまして、2時間の講義を毎日行っていました。立ち仕事ですし、英語でやるので結構疲れる、この肉体的な労働で痩せたのではないか。だとしたら、やっぱりナイスです。
第4は、甘いものの摂取方法の転換です。僕はお酒が飲めないのですが、甘いものが大好きです。夜のご飯を食べたあとで、アイスクリームやどら焼きといった甘いものを習慣的に食べていました。これを食べる幸福感は僕にとって何物にも代えがたいものですが、体に良くないことはもう間違いない。
そこで妥協的な方法として思いついたのが、液体化作戦です。どら焼き、シュークリーム、エクレア、バウムクーヘン、フィナンシェといった固形のスイーツよりも、液体の方がまだましなのではないか。甘いものは我慢できないので、固形の代わりに液体で甘味欲求を満たす。これが液体化作戦です。実際にいろいろな飲み物を試してみて、炭酸ものではレモンスカッシュ、非炭酸ではカルピスウォーターがいちばん幸福度が高いことが判明。固形の甘いものは食べなくなりました。これで痩せたのなら、ますますナイスです。
ところが70キロ台に突入して1カ月のうちに、78.6、77.0、76.4、75.9と体重は減り続けて、ピーク時から10キロほど一気に体重が落ちました。75キロ台というのは、僕の場合30代の体重です。さすがにここまで痩せると、ナイスとばかりは言っていられません。
その頃僕の体調で明らかにおかしいなと思ったのは、それまで経験のない便秘に苦しむようになったことです。これはいったい何が起きているのか。何か悪い病気になっているのではないかなと思いまして、かかりつけのお医者さまに詳しい症状をメールで送り、予約を取りました。先生に診ていただいた時、僕は驚きの事実を知ることになります。(第3回へつづく)
楠木 建
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。
著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。
楠木特任教授からのお知らせ
思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどX(旧・Twitter)を使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。
・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける
「楠木建の頭の中」は僕のXの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。
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シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。