Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
株式会社 日立製作所 執行役常務 細矢良智/テニスプレーヤー 伊達公子氏
2017年の引退まで、世界に挑み続けたテニスプレーヤー伊達公子氏。2024年4月、日立製作所クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEOに就任した細矢良智。対談の最終回となる第5回は、失敗という経験、そしてそれぞれのこれからについて。

「第1回:テニスのない人生はない」はこちら>
「第2回:伊達公子のテニスジャーニー」はこちら>
「第3回:2008年度、日立の転機」はこちら>
「第4回:世界に挑む人財の条件」はこちら>
「第5回:フェイルファスト」

失敗の効用

伊達
細矢さんはこれまでさまざまなプロジェクトに関わってこられたと思いますが、印象に残るプロジェクトはありますか。

細矢
以前うまくいかなかった案件があり、数年後に再チャレンジの機会をいただいて同じメンバーでプロジェクトに取り組んだことがありました。この時はメンバー全員が、最初から「今回のプロジェクトを成功させるぞ」という強い思いを持っていて、それが一体感となって成功させることができました。この時の完遂させるという高い意識がひとつになったプロジェクトの雰囲気というのは、私の中でとても印象に残っています。

伊達
失敗した経験を共有したメンバーだからこそ、何も言わなくても高いモチベーションが生まれたということですね。

細矢
そうです。そのプロジェクトでは前回の失敗の原因を、全員が腹落ちするまでしっかりと分析していました。人から言われたり、ただ反省するだけではなく、失敗を自分事としてとらえることができたからこそ、次のチャレンジで結果を出せたのだと思います。

伊達
私たちもジュニアたちに、失敗する前に手を差し伸べがちです。でも失敗というのは、決してネガティブなことではない。私自身を振り返っても、試合に負けて悔しくて涙を流した経験が、次に取り組むべき課題を教えてくれました。

細矢
私の世代は、失敗をさせながら人を育てることが許されていたところがありますが、今の人たちはそれが許されない空気の中で育ってきているので、とても失敗を恐れます。日立はITのビッグテックやスタートアップが集まる米国カリフォルニアのシリコンバレーに以前から拠点を構え、2021年にデジタルエンジニアリングのグローバルロジック社を買収するなど現地での存在感を増しています。そのシリコンバレーには「フェイルファスト」という文化があるのです。早く失敗し、それを学びとすることが次の成功への近道になるという考え方です。これは次世代の人財育成の重要なポイントだと思います。

それに加えてこれからグローバルで働く人たちは、多様性を成長の力にして欲しいと思います。シリコンバレーでは、世界中から国や人種、宗教などが異なる才能ある人財が集まって新しい技術やビジネスを開発しています。日立の次世代を担う人は、こうした多様性を吸収することで、広い視野や相手へのリスペクトなどをビジネスに生かして欲しいです。

テニスでかなえたい夢

細矢
伊達さんのこれからの目標や夢がありましたら、教えていただけますか。

伊達
今力を注いでいる育成プロジェクトから、日本女子テニスの世界ランカーを送り出したいです。ここで育った子どもたちがまず世界のTop100に入って、グランドスラムで活躍できる選手になって欲しい。その時私は、選手の時には座ることのできなかったファミリーボックスから、彼女を全力で応援する。これが私の直近の夢です。

細矢
ファミリーボックスというのは、よくテレビで映し出される関係者席ですね。

伊達
はい。そこで心の底からハラハラドキドキしてみたいです。

細矢
ぜひ近いうちに実現していただきたいです。

伊達
その先にある夢は、日本にテニスの練習拠点にできるアカデミーを作って、選手たちは思う存分テニスに集中できる最高の環境を作り、私はコートが見える場所に置いた椅子に座って、選手やコーチを眺めている。いつも決まった椅子でお昼寝をしながら、ジュニアたちを眺めている。「あのおばあちゃん、昔テニスが強かったらしいよ」と時々噂されながら、毎日ぼーっと管理人のようにテニスコートにいつもいるおばあちゃんになるのが、最終の夢です。

細矢
伊達さんは、100歳まで生きることに決めたとどこかでおしゃっていました。今がサードキャリアだとすると、まだまだいくつものキャリアがこの先に待っていることになりますね。

伊達
そうなんです。うちは女系がみんな長生きで、祖母が98歳、曽祖母が103歳、本家の人が108歳まで長生きしましたから、私も110歳はいけると思っています。

CEOとしての目標

伊達
細矢さんのCEOとしての目標も教えてください。

細矢
日立のように鉄道やエネルギー、産業機器から最先端のIT、クラウドコンピューティングまで幅広い技術を持つ企業は、世界でもあまり例がありません。さらに鉄道の例でもお話したようにOT(制御技術)とITをかけ合わせることができる私たちは、これまでビジネスユニットごとに独立して進めてきた事業を、Lumadaという日立のデジタル技術のソリューション/サービス/テクノロジーで連携させることで、お客さまのDXや社会の課題解決に貢献したいと考えています。

今のビジネスには、生成AIのような新しいテクノロジーをいち早く取り入れたサービスを素早く立ち上げるスピードが求められています。お客さまの課題を解決する基盤となるプラットフォームそのものを開発・改善する。それが私たちクラウドサービスプラットフォームビジネスユニットの役割であり、CEOとしての私の目標でもあります。

伊達
細矢さんはCEOとしてさまざまな意思決定をされると思いますが、テニスで身に付けたことがビジネスの判断に生きることはありませんか。

細矢
それは大いにあると思います。

伊達
人間生きていると、決断の連続じゃないですか。「今、水を飲もう」とか、「足を組み直そう」とか、毎日何百もの決断をしながら生きていくのが人生だとすれば、テニスにはそれが凝縮されています。コートに立つと全て一人で決断しなければならないし、待ったなしで瞬時に判断しなければならない。この判断力というのは、ビジネスにも生きるのではないかと思ってお聞きしました。

細矢
瞬時の判断の連続、確かにそれはテニスとビジネスの大きな共通点です。

伊達
私もそう思います。

細矢
そろそろ時間がなくなってきてしまいました。今日はこうして伊達さんとの対談を通じて、私にとってテニスとは何かということを改めて考えることができ、テニスを通じて得た先輩や同級生などのおかげで私は今あるのだと再認識しました。そして人財育成のお話は、大変参考になりました。何より、とても楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

伊達
こちらこそ、ありがとうございました。

画像: CEOとしての目標

「第1回:テニスのない人生はない」はこちら>
「第2回:伊達公子のテニスジャーニー」はこちら>
「第3回:2008年度、日立の転機」はこちら>
「第4回:世界に挑む人財の条件」はこちら>
「第5回:フェイルファスト」

画像1: 世界を驚かす次世代の育成
【第5回】 フェイルファスト

伊達 公子(Kimiko Date)
1970年9月28日、京都府生まれ。6歳からテニスを始める。兵庫県の園田学園高校3年時のインターハイでシングルス・ダブルス・団体の3冠を達成。1989年、高校卒業と同時にプロテニスプレーヤーに転向した。1990年、全豪でグランドスラム初のベスト16入り。1993年には全米オープンベスト8に進出。1994年のNSWオープン(シドニー)では海外ツアー初優勝後、日本人選手として初めてWTAランキングトップ10入り(9位)を果たす。1996年11月、WTAランキング8位のまま引退した。2008年4月プロテニスプレーヤーとして「新たなる挑戦」を宣言し、37歳で11年半ぶりの現役に復帰。2017年9月12日のジャパンウイメンズオープンを最後に2度目の引退をした。その後、2018年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学し、1年間の修士課程を修了。テニス解説やジュニア育成、テニスコート&スポーツスタジオのプロデュースなど、多方面で活躍中。

画像2: 世界を驚かす次世代の育成
【第5回】 フェイルファスト

細矢 良智(Yoshinori Hosoya)
1988年4月 日立製作所入社。2013年、情報・通信システム社公共システム事業部公共ソリューション第二本部本部長。2014年10月、情報・通信システム社システムソリューション事業本部公共システム事業部事業主管。2017年、公共社会ビジネスユニット公共システム事業部長。2021年、社会ビジネスユニットCOO。2023年、執行役常務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCOO。2024年、執行役常務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEO。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.