Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
株式会社 日立製作所 執行役常務 細矢良智/テニスプレーヤー 伊達公子氏
2017年の引退まで、世界に挑み続けたテニスプレーヤー伊達公子氏。2024年4月、日立製作所クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEOに就任した細矢良智。対談の第4回は、世界のTopをめざす次世代の育成が話題となった。

「第1回:テニスのない人生はない」はこちら>
「第2回:伊達公子のテニスジャーニー」はこちら>
「第3回:2008年度、日立の転機」はこちら>
「第4回:世界に挑む人財の条件」
「第5回:フェイルファスト」はこちら>

「Go for the GRAND SLAM」

細矢
伊達さんが情熱を傾けられている人財育成プロジェクト「Go for the GRAND SLAM」に関して、詳しく教えていただけますか。

伊達
「Go for the GRAND SLAM」というのは、世界をめざす若者の育成プロジェクト名であり、プロジェクトが掲げるテーマでもあります。私が90年代にプロとして世界に挑むことができたのは、私の上の世代の方たちが歩いた道があったからです。それでも実際に世界を回って戦っていた時は、新しいことの連続で毎日もがきながら一歩ずつ階段を登って行った感じで、回り道もたくさんしました。私が経験してきたこと、学んできたことを若い世代に伝えることで、より早く世界に出ていく準備を整えて自分の道を切り拓いて欲しい。そんな思いからスタートした育成プロジェクトです。

大坂なおみ選手が出てきて、世界というものが身近に感じられる時代です。ジュニアたちは、「将来の目標は?」と聞かれると、「世界一になることです」「グランドスラムで優勝することです」と言うのですが、そのために今自分は何をしなければいけないかというところまで落とし込めてはいません。世界をめざすためには、まず自分の意識を改革する必要があります。

世界で戦うためには、こういう意識で取り組まないといけない。それには今からこういうことをする必要がある。それを自分事としてきちんと受け止められるように伝えるのが、私の役割だと思っています。もちろんゴールは、ここで育った若者がグランドスラムに立ってプレーすることです。

細矢
強い意志がない人には到底耐えられない、厳しいプロジェクトだということですね。実際に取り組まれて、日々思うことはありますか。

伊達
もどかしいです。

細矢
どういう点でそう感じられるのでしょうか。

画像: 「Go for the GRAND SLAM」

伊達
もう、自分でプレーした方がずっと楽です。叫びたくなる時も多々あるのですが、ぐっとこらえています。でも私自身がそうでしたが、それまでよく分からなかったことが急に腑に落ちたり、できなかったことが急にできるようになったり、人間には成長する瞬間があると思います。それが発動する時のために、今はわからないかもしれないけれども私の経験や思いをできるだけインプットするようにしています。

細矢
私も自分でやったほうが早いと時々感じます。つらいですよね。忍耐の要る仕事だと思います。

伊達
本当にそうですね。今改めて自分のコーチだった方々を尊敬します。

細矢
「Go for the GRAND SLAM」はプロジェクトですから、伊達さんだけではなくチームで取り組まれているわけですね。

伊達
はい、おっしゃる通りコーチ陣は日本テニス協会からサポートを受けていますし、YONEX契約スタッフともチームを組んで、多様なコーチ陣と常に情報共有をしながら進めています。今年は3期生で6人、2期生は8人、1期生は4人が育成メンバーです。まだ3期目なので、人数や育成キャンプの内容などはみんなで相談しながらブラッシュアップしているところです。

私は、自分がその年齢のときに必要なコーチと出会うことができた幸運なタイプだと思っています。これはほかのスポーツでもそうかもしれませんが、幼少期からコーチが育てた選手がある程度強くなってくると、自分がずっと教えたくなってつぶしてしまうケースがあるのです。

私の場合、自分の意思とは関係ないところで、指導者に次のステージにちゃんとつないでもらえたことが、世界4位までたどりつけた要因だと思っています。ですからプロジェクトのコーチ陣には、いろいろなタイプの人間に入ってもらっています。子どもたちはさまざまな人の意見を聞いて、捨てるものは捨てて必要なものだけを吸収してくれれば、私はそれでいいという考え方です。

細矢
今の子たちは、そういう意味では恵まれていると思いますが、なかなか成績に反映されてこないのは、何が課題なのでしょう。

伊達
確かに恵まれている面はありますが、成長するタイミングは人それぞれなので、すぐに結果が出せないことは仕方がない。しかし自分が世界をめざす、そこに集中することに対して努力を惜しまないという強い意志と情熱は絶対に必要で、それがないとプロジェクトを続ける意味がなくなってしまいます。

「Future50」

伊達
私たちの育成プロジェクトと、日立のビジネスにおける人財育成には何か共通点がありますか。

画像: 「Future50」

細矢
日立には人財育成のためのさまざまな取り組みがあります。中でも次の世代の経営者を育てる「Future50」というプログラムは、「Go for the GRAND SLAM」に近いかもしれません。これは現場レベルの組織から推薦で選ばれた人たちをより上位の基準でさらに絞り込み、最終的には将来の経営者候補となる50人程度を選出し、長期にわたって育成するというプログラムです。

毎年選ばれるこの50人程度の若手優秀層は、3年間その育成プログラムを受けながら、将来の経営層を担うための経験を積むことになります。もちろん日本だけではなく、海外の人たちも対象になります。

伊達
候補者は職場の上司が推薦した人の中から選ぶのですか。

細矢
そうです。しかし推薦者の中から「Future50」に選抜されるにあたって、このプログラムを受ける意志があるかどうかを本人に決定してもらいます。本プログラムでは、例えば突然海外の組織のトップを任されるようなタフアサインメントが組まれたりしますので、推薦だけでなく本人のやり遂げるという意志確認が必要なのです。

伊達
企業側が一方的に決めるわけではなくて、最後は本人が決めるのですね。

細矢
それだけの覚悟を持っていないとやり遂げることが難しいという点では、「Future50」と「Go for the GRAND SLAM」は共通しているかもしれません。

「第5回:フェイルファスト」はこちら>

画像1: 世界を驚かす次世代の育成
【第4回】 世界に挑む人財の条件

伊達 公子(Kimiko Date)
1970年9月28日、京都府生まれ。6歳からテニスを始める。兵庫県の園田学園高校3年時のインターハイでシングルス・ダブルス・団体の3冠を達成。1989年、高校卒業と同時にプロテニスプレーヤーに転向した。1990年、全豪でグランドスラム初のベスト16入り。1993年には全米オープンベスト8に進出。1994年のNSWオープン(シドニー)では海外ツアー初優勝後、日本人選手として初めてWTAランキングトップ10入り(9位)を果たす。1996年11月、WTAランキング8位のまま引退した。2008年4月プロテニスプレーヤーとして「新たなる挑戦」を宣言し、37歳で11年半ぶりの現役に復帰。2017年9月12日のジャパンウイメンズオープンを最後に2度目の引退をした。その後、2018年に早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学し、1年間の修士課程を修了。テニス解説やジュニア育成、テニスコート&スポーツスタジオのプロデュースなど、多方面で活躍中。

画像2: 世界を驚かす次世代の育成
【第4回】 世界に挑む人財の条件

細矢 良智(Yoshinori Hosoya)
1988年4月 日立製作所入社。2013年、情報・通信システム社公共システム事業部公共ソリューション第二本部本部長。2014年10月、情報・通信システム社システムソリューション事業本部公共システム事業部事業主管。2017年、公共社会ビジネスユニット公共システム事業部長。2021年、社会ビジネスユニットCOO。2023年、執行役常務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCOO。2024年、執行役常務 クラウドサービスプラットフォームビジネスユニットCEO。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.